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230 召喚
しおりを挟む村に届いたのは帝都にある教会支部からの召喚状。
サンとソレイユに出頭せよ、との頭ごなしの文面。
詳しい説明は何も書かれていません。
この国の支部は、貴族連中との付き合いの中で、すっかりダメになっていたことを知る老神官は、どうにもイヤな予感がしました。だから「まだ小さい子ゆえに」だとか「カラダの具合がわるい」だなんぞと言いのがれをしては、適当にこれをかわしておりました。
しばらくはそれでおさまっていたのですが、あるとき、ついに正式な使者が村を訪れます。
百人ほどものきらびやかなローブを身につけた仰々しい行列にて、お迎え用の六頭立ての馬車まで用意されておりました。
ここまでされては、もう、どうしようもありません。
しぶしぶサンを差し出す形になった老神官は、見送りの際にソレイユにこっそりと耳打ちをします。
「なにやらキナ臭いものを感じます。どうかお気をつけて」
ずっと不安そうな顔をしている老人。
「心配するな。何があってもサンは守る」
ソレイユのチカラ強い言葉にて、老神官はようやく安堵の表情を浮かべました。
迎えに来た者たちの手によって、キレイに着飾らされたサンと黄金の水色オオカミは、村のみんなに見送られて、帝都へと出立しました。
領内では、すでに聖女のことを知らぬ者はいないので、行く先々にて歓迎を受けては、盛大に見送られるをくり返す。
街道沿いを進み、やがて領外へと出ると、今度はウワサを聞きつけた野次馬らがわらわらと集まっては、ひと目だけでもと詰めかけたので、道中はどこもにぎやか。
サンは、はじめての旅に興奮しつつも、ずっと行儀よくしていました。
夜に村のみんなのことをおもい出しては、ソレイユの毛に顔をおしつけてさみしさにこらえるような仕草をときおり見せる以外には、いつも通り。
ゆっくりと時間をかけて二十日ほどで、帝都を守る高い壁を抜けた行列。
壁やら柱やらに、ところせましと聖典にまつわる精緻な彫刻がほどこされた、石造りの荘厳な教会支部のまえを素通りして、そのまま中央の王城へと向かう。
壁を越えてから半日近くもの時間を要し、ようやくサンたちを乗せた馬車がとまったのは、とても広い広い場所。
うながされるままに馬車から降りたサンとソレイユ。
彼女らが目にしたのは、揃いの黒い甲冑に身をつつんだ大勢の騎士たち。それが二重にも三重にも彼女たちを取り囲むかのようにして、整然と配置されていました。
その威容と迫力におびえる幼女。
ですが彼女をかばうかのようにして立つ黄金のオオカミには、まるで緊張の色が見えません。なぜなら彼がその気になれば、人間の兵の千や万ぐらい、どうということもありませんから。水色オオカミのチカラはとても強いのです。なみの人間がいくら束になったところで相手にはなりません。
騎士たちの一部が左右にサッと移動し、一本の道ができる。
奥から姿をあらわしたのは、白地に赤や金の刺繍がやかましいローブをまとった太った男性。歳のころは五十ほどでしょうか。ぬめりけを帯びた浅黒い肌。アゴヒゲをたくわえたガマガエルのような人物。
彼こそが帝都にある教会支部の代表の神官長。村の老神官が警戒していた者にて、あまり評判のよろしくない男。
彼はサンとソレイユのまえにてヒザをつき、とてもていねいなあいさつをしました。それこそ女神さまの像を拝むかのように。
ですがそこには一切、気持ちがこめられていないことにサンはすぐに気がつきました。
日頃から親代わりの老神官の真摯な礼拝の姿をずっと見てきたからこそ、わかるのです。
幼女から向けられるきびしい目。
それをさらりと受け流して、気づかないふりを通す男。
彼の案内にて建物内へと入ったサンとソレイユ。
通されたのは、光が降り注ぎ、花が咲き乱れる素晴らしい庭園。
そこにまっていたのは護衛や女官らを引き連れた金の髪の美女。
神官長より王族の姫君であるデアドラ・アルカディオンさまだと教えられて、あわてて平伏するサン。ですがソレイユはいっかな頭をたれることもなく、堂々と立ったまま。彼が従うはサンのみ。誇り高き水色オオカミは、それ以外の者には従う気がないのです。
「おぉ! これは見事な。まさしく黄金のオオカミよ。なんとうつくしい」
興奮したデアドラの称賛にも、ソレイユはシッポをゆらすこともなく、まゆ一つ動かさない。ひと言も発する気もないらしく、どこかシラケた表情すら浮かべておりました。
しかしそんなふてぶてしい態度にも感心したようすのデアドラ。
彼女はそばにて平伏したままの幼女の方をチラリとも見ることなく、ごく当たり前のように、こんなことを言いました。
「気に入りました。のぞむままの褒美をとらせましょう。あとで人をやるのでその者に希望を伝えるがよかろう。おまえはもうよい、下がりなさい」
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