238 / 286
238 足止め
しおりを挟む首から小袋を下げては、西へ東へ南へ北へと忙しなく飛びまわっている黒カラスのセンバ。
この袋は西の森の魔女エライザ特製の魔道具にて、小さな見た目なのに中には荷馬車一台分ほどものモノが入れられる。さらには生き物も出し入れ自由につき、森の仲間たちを運んだりするのにも使えるので、とっても便利。
ちょっとした縁にて、エライザより小袋を預けられたセンバ。これを用いて森の配達人として毎日がんばっておりました。
いつものようにあちこちを飛びまわり、最後に向かったのはエライザの住む西の森。
野ウサギの三兄妹の末妹ティーから彼女宛の手紙を託されていたのです。
ティーとエライザは文通友だち。
ちょくちょく手紙のやりとりをしているので、それにあわせてセンバもエライザと顔を合わせる機会がグンとふえ、いまではすっかり気安い間柄。
いつものようにツバサを広げ、空の上を通る風の道に身をまかせていたら、じきに目的地が見えてきました。
ですが、なにやら様子がヘンです。
四方を深い谷に隔てられ、外界とは距離をおいている西の森。
木の精霊トレントが住みついているほどに、ミドリの豊かな場所。
そんなところに、とてもおおきな黒いお椀みたいなものが、ドンと置かれてあります。
「なんだい、こりゃあ? にしてもデカい。森ごとエライザさまの家までのみ込まれちまってる」
上空を旋回しながら、眼下のナゾの物体を努めて冷静に観察するセンバ。
表面がのっぺりとしており艶がない。ガラスや陶器、磨かれた石ともちがう。かといって布のようなやらわかさもなさそう。
自分が知っているモノの中から、しいて似ていると感じたのは「黒の沼」と呼ばれる場所にわく燃える水。鼻がひん曲がりそうなニオイのするドロ水にて、ねっとりしており、うっかりカラダについたらなかなか落ちやしない。
それを連想させる存在をまえにして、いったん地上へと降りたセンバは、小枝をひょいと拾うとふたたび空へ。
小枝を黒いお椀に落としてみる。
青い閃光が起こり、細かいカミナリがいくつも走った。
ふれたとたんにパチンとはじかれた小枝。三つに裂けて燃えてしまいました。
「うわっ! こいつはちょいと、あっしの手には負えそうにないねぇ。エライザさまのこったから、無事だとはおもうけど。とりあえずガァルの旦那に相談を……」
そう考えて現場を離れようとしたところ、ふいに、ガン! とものスゴい音がお椀の中からしたので、おどろいたセンバ。
音がしたのは地表付近の一角。
ギリギリまで近づいてみると、さらにガン! ガン! と鉄を打つような音がつづき、かすかに地響きまで。
内部にて何者かが暴れている?
さらに衝撃音が二十ばかりつづいたとき、ついにお椀の表面にピシリとヒビが入りました。
はじめは小さなヒビであったのが、じょじょに大きくなっていき、ついには亀裂となり、お椀の一角が内側からガラガラと崩れてしまう。
ですがかわりにカミナリが発生して、まるで檻のようになっては、中から出ようとする者のまえに立ちふさがる。
これをジャマだと言わんばかりに無造作に手をふるって払いのけ、姿をあらわしたのは長い柄のハンマーをかついだ老婆。西の森の魔女にして、かつては傾いていた国に仕えて建て直し、賢人と称えられたこともあるエライザです。
「あー、しんど。まさかこの歳になってこんなチカラ仕事をさせられるだなんて。いったいどこのどいつの仕業だい。ただじゃおかないからね」
プリプリ怒っているエライザに、バサバサと羽根をはためかせて駆け寄る黒カラスのセンバ。
「ご無事でしたか、エライザさま。配達の途中に立ち寄ったら、森がこんなザマなんで、ずいぶんと心配したんですよ」
「おぉ、センバかい。そいつはすまなかった。今朝方、目を覚ましたら外がずいぶん暗いんで、てっきり雨でも降るのかとのん気にかまえていたら、こんなありさまでね。まさかこの広い森を丸ごと囲まれるだなんて、想像もしていなかったから気づくまでに時間がかかっちまった」
「森を囲む? ってことは、コイツは魔法の類ですかい」
「あぁ、こいつは広域結界だ。それも強度からして設置型の魔道具を利用したモノ。本来は城や都なんぞの重要拠点に使うような代物さ。それをこんなババア一人に使うだなんて、ずいぶんと奮発したもんさねえ」
疲れたとハンマーを杖がわりにして、カラダを休ませているエライザ。
センバが小袋の中に常備しているお茶の入った水筒を渡すと、中身をうまそうにゴクゴク飲み干しました。
見た目はどこにでもいそうな老婆だというのに、お城を守るような御大層な代物を、ハンマーにてぶち破る魔女もたいがいだと、センバは感心するやら呆れるやら。
「それにしても奇妙ですねえ。エライザさまは俗世を離れてひさしいと、あっしは聞いてます。いまさならこんなイヤガラセをする意味がわかりやせん。だってコレって手間もカネも相当なものなんでしょう?」
センバはチラリと開いた穴に目をやりながら、自分が感じた疑問を口にしました。
「そうなんだよねえ。それにいまどきこれほど大掛かりな品を設置できるヤツなんて限られてるし。ましてやこんな辺境にまでわざわざ足を運んで、しかも私や森の古老らに気づかれることなくとなると……、いや、まさか? いかん!」
会話をしているうちに、何ごとかにおもいいたったらしく、顔をあげたエライザ。
いつもはひょうひょうとして落ち着いている表情には、あせりの色が浮かんでいます。
「ぬかったわ。これは私に対する足止めじゃ。となれば狙いは他にある。ううむ、いかん、いかんぞ。こうしてはおれん。おい、センバ。すぐに向かうぞ」
言うなりカラスの首根っこをつかんで、ムリヤリ小袋の中へと入り込んだエライザ。
ワケがわからず困惑しているセンバに彼女が告げた行き先は、野ウサギの三兄妹たちが暮らす森でした。
0
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる