水色オオカミのルク

月芝

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 エスタロッサの淹れたお茶にひと口だけ、口をつけた男性。
 自己紹介をかんたんにすませると、彼はムダな歓談をはさむこともなく、さっそく用件に入りました。

「キミがティーだね。野ウサギのフィオくんとタピカくんの妹さんの」
「はい。でもどうして……」

 どうして自分のことを知っているの? というティーの疑問の声を手をかざして黙らせたコークス。続けて彼女が熱病で生死をさまよったことや、西の森の魔女の秘薬にて助かったことなどについて言及し、ますます彼女を困惑させるばかり。

「そういえば、キミは恩人である水色オオカミのルクくんとは、まだ面識がなかったんだよね」

 クスリといっしょに兄たちの身柄をウチまで送り届けてくれたとき、ティーは臥せっていましたので、その通りだとうなづく。
 するとコークスは次にこんなことを言い出しました。

「キミはルクくんに会ってみたくはないかね?」

 自分の仕えている女主人が彼と会いたがっており、そのために一席を設けるので、よければティーにも参加しないかとのお誘い。
 つねづね、ぜひとも会って直接お礼を言いたいと思っていた相手なので、その申し出はとてもうれしいのですけれども……。

「あの、すこしお聞きしてもよろしいですか」

 自分の命を助けてくれた水色オオカミには会いたい。
 だけれども、どうしてその話を兄たちにではなくて直接自分のところに持ってきたのか、そもそもどうして自分たちと彼との経緯についてこんなにくわしく知っているのか、などとおもいついたままの疑問をオズオズとしながらも、しっかりとした口調にて問うティー。
 ちいさな野ウサギの子の言葉に、コークスの眼帯では隠れていない左目が細くなる。そして彼は「ほぅ」と感心したような声をもらす。

「ずいぶんとかしこいお嬢さんだ。これは少々あなどっていたか。できれば穏便に招待におうじてもらいたかったのだがね」

 とたんに室内の空気がかわりました。まるで真夏の日中にいきなり洞窟に入ったときのように、ひんやりとしたものへと。
 紳士然とした態度はそのまま、なのに目の前の相手から発せられる圧力がグンとます。のど元に刃をつきつけられたかのような感覚におそわれ、あまりの息苦しさにティーが辛そうな表情を浮かべる。
 そのとき、「おやめなさい!」と声をあげたのは、アライグマのエスタロッサ。
 お茶受けのクッキーを準備してもどってみれば、何やら場がおかしなことになっているではありませんか。
 くわしい事情はわからないけれども、コークスを危険だと判断したエスタロッサは、すぐさま行動を起こす。
 お皿に山盛りになっていたクッキーを丸ごと相手に投げつけ、そのすきにティーの腕を強引につかむと、そのまま裏の勝手口へと走りました。
 エスタロッサとしてはこのまま急場をしのぎ、ガァルディアと合流して窮地を脱する考えであったのです。

 勢いよく勝手口の扉をあけると、そのまま外へ。
 でもほんの少し駆けたところで、前方に青い閃光が落ちて、一本の木をなぎ倒し行く手をふさいでしまいました。
 すぐに右のしげみへと逃げ込もうとするも、そちらにもイカズチが落ちてしげみを焼いてしまう。
 しかたなく残りの方へと向かうと、そこに待っていたのは赤い髪の女。
 誘い込まれたと気がついたときには、すでに女の手が顔の前にまで迫っていました。
 女の指先があとすこしでティーへとかかろうとしたとき、その手が急に引っ込みます。
 赤い髪がひるがえり、宙に舞ったかとおもえば、その身が後方へと飛び跳ねていました。
 それと入れ替わるかのようにして、空から降ってきたのは巨大なオノ。
 まるで女とティーたちを隔てるかのようにして、地面へと突き立つ。
 つづいてスタっと降り立ったのは、黒いおかっぱ頭をした華奢な少女。
 オノの柄(え)の上に立つからくり人形のガァルディアの姿がありました。

「無事か、ティー、エスタロッサ」

 女の子たちのピンチに颯爽とかけつけたのは、とっても頼りになる仲間。
 おくれて「おーい」と駆け寄ってきたのはフィオとタピカの野ウサギ兄弟。
 こちらの身を案じる兄たちに、ティーは「だいじょうぶ」と伝える。
 なんでも森で人間たちを見かけたと報せてくれた者がいて、どうにもイヤな予感がして駆けつけてくれたんだとか。
 ガァルディアから下がっているようにと言われて、距離をとるティーたち。
 みなが見守る中、オノをかつぎ直したガァルディアが赤い髪の女と対峙する。
 そこに小屋の中から出てきたコークスが加わる。 
 ですけれどもコークスは手を出す気がないのか、少し後方にて高みの見物といった態度をとりました。

「アタいは白銀の魔女王さまに仕える紫眼のミラ。じゃまをするってのならば容赦しないよ」
「白昼に狼藉を働いておるわりには、いちいち名乗るのか。礼儀がなっているんだかいないんだかよくわらかんの。ともあれあの性悪の部下なれば、ロクなものではなかろう。私はガァルディア。友に頼まれてこの地を守護する者」

 互いに名乗りをあげて、先に動きだしたのはミラ。
 森に青い閃光が盛大にきらめき、轟音が鳴りひびく。


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