水色オオカミのルク

月芝

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 自分の主人がワガママでロクデナシなのは確かですけれども、他人からそれを面と向かって言われるとなんとなしに腹が立つ。まるで自分がバカにされたみたいに感じて、内心でミラはちょっと怒っていたのです。
 そのせいか、いつもよりチカラが入ってしまい、けっこうな威力のイカズチを手から放ってしまいました。
 直撃すれば大木が砕けて、人間なんていっしゅんで炭となってしまうほどの強力なもの。
 空気を切り裂くイカズチ。
 が、それは途中でぐりんとひん曲がると、勝手にガァルディアをよけてしまいました。
 からくり人形が自分の脇へと突き立てたオノ。
 そちらに吸い寄せられるかのようにして、ズドンと落ちてしまったのです。
 落ちたカミナリはそのままオノを伝って地面へと渡り、散り散りに。
 カミナリが鉄を好むということはミラも知っていましたが、だからとてあまりにも不自然な動き。
 あれはただのオノじゃない、それにいかに攻撃がソレるのがわかっていたとしても、自分へと迫るイカヅチをまえにして、平然としていられるなんて……。
 これは尋常ではないとミラは警戒を強めました。

 オノをむんずとつかんだガァルディア。
 こんどは自分の番だとばかりに、これを投げつける。
 グルグル回転しながら、ものすごい勢いにて迫る巨大なオノ。
 あわててしゃがんでかわしたミラ。
 赤い髪の一部をパラリと散らし、オノは木々をなぎ倒しながら、ずっと後方へと飛んでいく。
 その威力に目を見張りつつも、わずかとはいえ自分の髪が切られたことに怒ったミラが、起き上がってすぐさま魔法を放とうとしたとき、「よけろ!」とのコークスの声。
 両足にチカラを込めてとっさに跳躍。
 そのすぐあとに足下ギリギリを通り過ぎたのは、さっき向こうにぶん投げられたはずのオノ。
 はげしい回転につき、うっかり当たろうものならば、たちまち真っ二つにされてしまうことでしょう。
 あんなものがすぐ背後まで迫っていたと知り、ミラは顔を青くしました。

「カミナリを引き寄せたり、投げたらもどってきたり、なんなんだい、そのオノは」

 ミラがいましましげな視線にてにらむも、ガァルディアのほうは小首をかしげるばかり。

「なんなのだといわれてものぉ。造物主が戯れに作ったはいいものの、大きすぎてだれも扱えなかったから、ずっと倉庫の奥でホコリをかぶっていた品だとしか記録されておらん」

 古代バロニア王国の遺跡にいる本体を通じて得られた情報を淡々と口にするガァルディア。

「ヒマつぶしでそんな凶悪な武器を造られちゃあ、たまらないよ」

 ミラが文句をぶつくさ。腹立たしまぎれに魔法を放っては、周囲にイカヅチが次々に落ちる。
 これをオノで受けたり、打ち払ったり、ひょいとかわしたりしながら距離をつめてくるからくり人形。

 両者の会話の調子が軽いわりには、はげしい攻防。
 地面がえぐれ、木々が何本も倒れ、イカズチにて燃えたりこげたりして、森がどんどんと傷ついていく。
 これにおおのく野ウサギの兄妹たちやアライグマのエスタロッサ。
 彼女たちのそんな様子に、そろそろ頃合いかとコークスがついに動きだす。
 ただしその目当ては末妹にして森の便利屋のリーダーであるティー。
 戦い続けるミラとガァルディアにはかまわず、コークスは彼女へと話しかけはじめました。

「いやはや、はげしいものだ。このままだとキミたちの森がたいへんなことになるな」

 低いのに、とてもよく通る声。
 それがまるで魔法の呪文のように、ティーの長いウサギの耳に入り込んでくる。
 こわくて聞きたくないのに、どうしても耳がその声を拾ってしまう。
 目の前の事実を、ただなぞらえただけの言葉が、みょうにズシリとのしかかってくる。己のうちの気丈さがゆらぐ。かわりにココロの底からわいてくるのは、いいしれぬ罪悪感。わるいのは向こうなのに、勝手なことを押しつけようとしているのはあっちなのに。
 ひょっとしたら自分のせいなの? という一抹の不安がぬぐいきれない。
 ほんとうはそんなことなどありはしないというのに。
 善良なる魂が、その善良さゆえに抱く迷い。
 そこにつけ込むコークス。

「ほら、空をみあげてごらん」

 言われるままに見上げたティー。
 つられて一同も空を見る。
 そこに居たのは、森の上空を飛びまわっている無数の小さな黒い影。

「あれは……、ツバメかな」そう言ったのは長兄のフィオ。

「そのとおり。あれらはすべて自分の手の者でね。どれ」

 コークスが右腕を天にかざすと、上空の群れより抜け出した一羽が滑るように降りてきました。
 彼の腕に音もなく舞い降りたツバメは、かぎりなく漆黒に近い夜の藍色をしている。でも雰囲気がどこか造り物めいており、自分が知っているツバメたちとはちがうと考えながらティーが見つめていると、いきなりその身が炎につつまれてしまいました。
 おどろく一同に、「心配いらない。これはそういうモノなのだ」とコークス。命令によりツバメが火のトリになると説明した彼は、つづけて「ただし、アレらが一斉に降りてきたら、この森はきっとたいへんなことになるだろうがな」とも口にしました。


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