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248 ふしぎの城のティー
しおりを挟む水色オオカミの子どもをおびき出すためのオトリとして、白銀の魔女王一派に囚われた野ウサギの女の子。
事前にさんざんにミラからおどされていたので、ドキドキして魔女王レクトラムとの謁見にのぞんだのですけれども、じつにあっさりと終了しました。
軽く一瞥(いちべつ)されただけで、声をかけられることもありませんでした。
どうやら彼女はどこにでもいる野ウサギの子には、なんら興味を示さなかったようです。
「ティーはついてるな。なまじ興味を持たれたら、あの水色オオカミみたいにたいへんな目にあっていただろうからね。最悪、ひんむかれて毛皮にされてちまう可能性もあったんだから」
何事もなく謁見がすんだのちに、ミラはそう言いましたけれども、そもそもルクをめぐる騒動の発端が自分であったことを彼女はすっかり忘れています。
グリフォンの古城での一件を経て、ミラが主人に報告をあげなければ、すくなくともまたちがった未来となっていたかもしれません。
それはさておき、まるでいないモノのようにあつかわれたティーは、内心でとてもイラついていました。あらためて「おまえは、ただのオトリだ」と言われたみたいで、どうにもおもしろくありません。
だからとて非力な野ウサギの小さな女の子にできることは何もなく、おとなしくしているしかありません。おかげで乙女心と自尊心がおおいに傷つきましたとも。
そんな女王のつれない態度とは裏腹に、ここでのティーの待遇はとてもいいです。
地下の薄暗い牢屋に閉じ込められることもなく、高い塔の天辺に幽閉されることもありません。クサリにつながれることもない。
それどころかフカフカのベッドのあるキレイな部屋をあてがわれ、食事も朝昼晩の三回、午後にはお茶にお菓子までついてくる。あげくに城内を適当にうろついてもかまわないとまで、コークスに許可されました。
どのみち重要区域には結界により、許可なき者は一切立ち入れませんし、脱出を試みようにもここは浮島に建つ孤城にて、高い空の上。どこにも逃げようがありませんから。
城内にしても、つねに多くの白い切り絵のような姿をした魔法生物たちが、そうじ道具片手にうろついていますし、なによりあちらこちらに飾られた鏡を通しての監視網をかいくぐるだなんて、ただの野ウサギには不可能。
だからミラの宝石コレクションの自慢話の合間合間に、ティーは堂々と城の中を探検することにしました。
城内はとにかく広いです。
一直線に伸びた廊下がうんざりするぐらい長いです。
階段も段数がものすごいです。たぶん自分たちの森の木の数よりもずっと多いはず。
ですが迷うことはありません。そこかしこにある鏡にたずねると、ふしぎなことに返事がかえってくるからです。
声のヌシは魔女王の居室にある大鏡にて、彼もまた魔法生物とのこと。
そうじ道具片手に、いつもいそがしそうに駆けまわっている白いウサギや白いカエルや白いサルたちも魔法生物とのこと。
みなレクトラムに造られたというわりには、けっこう愛想がいいのが、ちょっとふしぎ。
歪みが一切ない透明で滑らかなガラス窓から見える景色には、塔がいっぱい映ります。なかにはあまりにも高すぎて、雲の中に突っ込んでいるモノも。
このお城は外からみたらとてもキレイだというので、ダメもとでお願いしたら一度だけミラが外へと連れ出してくれました。
浮島には森も山も湖もあり、それらを見下ろすような位置に城は建っておりました。
真っ白な壁に寸分たがわず等間隔にてならぶ窓。六角形の塔が太さをかえることなく真っ直ぐに天へとのび、その先にはていねいに削られたえんぴつの先のような突端部分が行儀よくのっている。
敷地内には似たような造りの塔がたくさんある中で、ずんぐりした四角い塔や背の低い丸い塔なんかも混ざっている。
不揃いになるので一見すると違和感を感じるのですが、要所要所に建てられたそれらが逆にアクセントとなり、かえって他のすべてを際立たせておりました。
長方形に四角い居館の上にある急な傾斜の三角屋根。この棟の部分から日に四度、滝のように流れる清らかな水が城にまとわりついたホコリらを洗い流すことで、つねに白さを保っているという。
光を受けて水滴がキラキラとかがやき、魔女王の城がいっそう白く華やぐ。
夕陽を浴びて赤く染まる姿も、月明かりを受けて闇夜に浮かぶ姿も、それはそれはうつくしいと案内してくれたミラが教えてくれました。
あまりにも幻想的で優美な景色に、しばし目をうばわれていたティー。
ですが眺めているうちに、彼女は気がついてしまいました。
これはちがう! 自然と城の調和などではなく、すべてはこの城を引き立てるための舞台装置。
この城は、主人であるレクトラムの考えを具現化したような存在なのだと。
自分が世界の中心。
いいえ、それどころか世のすべては自分のためにある。
そんな狂気じみた本性を垣間見て、ティーは心底ゾッとしました。
とてもごうまんなことです。とてもおそろしいことです。
ですがここまで徹底されてしまうと、逆に言い知れぬ畏怖の念を抱かずにはいられません。
だからどうしてもティーは目をそらすことも、完全に否定することもできませんでした。
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