248 / 286
248 ふしぎの城のティー
しおりを挟む水色オオカミの子どもをおびき出すためのオトリとして、白銀の魔女王一派に囚われた野ウサギの女の子。
事前にさんざんにミラからおどされていたので、ドキドキして魔女王レクトラムとの謁見にのぞんだのですけれども、じつにあっさりと終了しました。
軽く一瞥(いちべつ)されただけで、声をかけられることもありませんでした。
どうやら彼女はどこにでもいる野ウサギの子には、なんら興味を示さなかったようです。
「ティーはついてるな。なまじ興味を持たれたら、あの水色オオカミみたいにたいへんな目にあっていただろうからね。最悪、ひんむかれて毛皮にされてちまう可能性もあったんだから」
何事もなく謁見がすんだのちに、ミラはそう言いましたけれども、そもそもルクをめぐる騒動の発端が自分であったことを彼女はすっかり忘れています。
グリフォンの古城での一件を経て、ミラが主人に報告をあげなければ、すくなくともまたちがった未来となっていたかもしれません。
それはさておき、まるでいないモノのようにあつかわれたティーは、内心でとてもイラついていました。あらためて「おまえは、ただのオトリだ」と言われたみたいで、どうにもおもしろくありません。
だからとて非力な野ウサギの小さな女の子にできることは何もなく、おとなしくしているしかありません。おかげで乙女心と自尊心がおおいに傷つきましたとも。
そんな女王のつれない態度とは裏腹に、ここでのティーの待遇はとてもいいです。
地下の薄暗い牢屋に閉じ込められることもなく、高い塔の天辺に幽閉されることもありません。クサリにつながれることもない。
それどころかフカフカのベッドのあるキレイな部屋をあてがわれ、食事も朝昼晩の三回、午後にはお茶にお菓子までついてくる。あげくに城内を適当にうろついてもかまわないとまで、コークスに許可されました。
どのみち重要区域には結界により、許可なき者は一切立ち入れませんし、脱出を試みようにもここは浮島に建つ孤城にて、高い空の上。どこにも逃げようがありませんから。
城内にしても、つねに多くの白い切り絵のような姿をした魔法生物たちが、そうじ道具片手にうろついていますし、なによりあちらこちらに飾られた鏡を通しての監視網をかいくぐるだなんて、ただの野ウサギには不可能。
だからミラの宝石コレクションの自慢話の合間合間に、ティーは堂々と城の中を探検することにしました。
城内はとにかく広いです。
一直線に伸びた廊下がうんざりするぐらい長いです。
階段も段数がものすごいです。たぶん自分たちの森の木の数よりもずっと多いはず。
ですが迷うことはありません。そこかしこにある鏡にたずねると、ふしぎなことに返事がかえってくるからです。
声のヌシは魔女王の居室にある大鏡にて、彼もまた魔法生物とのこと。
そうじ道具片手に、いつもいそがしそうに駆けまわっている白いウサギや白いカエルや白いサルたちも魔法生物とのこと。
みなレクトラムに造られたというわりには、けっこう愛想がいいのが、ちょっとふしぎ。
歪みが一切ない透明で滑らかなガラス窓から見える景色には、塔がいっぱい映ります。なかにはあまりにも高すぎて、雲の中に突っ込んでいるモノも。
このお城は外からみたらとてもキレイだというので、ダメもとでお願いしたら一度だけミラが外へと連れ出してくれました。
浮島には森も山も湖もあり、それらを見下ろすような位置に城は建っておりました。
真っ白な壁に寸分たがわず等間隔にてならぶ窓。六角形の塔が太さをかえることなく真っ直ぐに天へとのび、その先にはていねいに削られたえんぴつの先のような突端部分が行儀よくのっている。
敷地内には似たような造りの塔がたくさんある中で、ずんぐりした四角い塔や背の低い丸い塔なんかも混ざっている。
不揃いになるので一見すると違和感を感じるのですが、要所要所に建てられたそれらが逆にアクセントとなり、かえって他のすべてを際立たせておりました。
長方形に四角い居館の上にある急な傾斜の三角屋根。この棟の部分から日に四度、滝のように流れる清らかな水が城にまとわりついたホコリらを洗い流すことで、つねに白さを保っているという。
光を受けて水滴がキラキラとかがやき、魔女王の城がいっそう白く華やぐ。
夕陽を浴びて赤く染まる姿も、月明かりを受けて闇夜に浮かぶ姿も、それはそれはうつくしいと案内してくれたミラが教えてくれました。
あまりにも幻想的で優美な景色に、しばし目をうばわれていたティー。
ですが眺めているうちに、彼女は気がついてしまいました。
これはちがう! 自然と城の調和などではなく、すべてはこの城を引き立てるための舞台装置。
この城は、主人であるレクトラムの考えを具現化したような存在なのだと。
自分が世界の中心。
いいえ、それどころか世のすべては自分のためにある。
そんな狂気じみた本性を垣間見て、ティーは心底ゾッとしました。
とてもごうまんなことです。とてもおそろしいことです。
ですがここまで徹底されてしまうと、逆に言い知れぬ畏怖の念を抱かずにはいられません。
だからどうしてもティーは目をそらすことも、完全に否定することもできませんでした。
0
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる