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250 グリフォン対大ツバメ
しおりを挟む空一面に展開しているツバメの軍勢。
そこに正面から堂々と突っ込んでいくのはグリフォンのルシエル。空の上でならばドラゴンをもしのぐ戦闘力を保有する天空の覇者。
無人の野を行くがごとく敵陣を切り裂く。
ルシエルの放つ風の暴力が渦となり、竜巻となり、数多のツバメたちを巻き込んでは道を切りひらいていく。
多勢にてこれを奇跡的にかいくぐった数羽が、どうにかその身に到達するも、しゅんじに鋭い穂先のエジキとなった。
ルシエルの背にまたがるティアの槍の突きが、宙を駆るツバメを貫く。
いかに幼き日より武芸を学んだ身とて、いささかすぎたる技。
それを可能にしていたのは彼女が手にしていた槍。これはかつてルシエルとの勝負で負けたレプラが、与えた宝物の中にまぎれていた品にて「竜槍」と呼ばれるモノ。龍の谷にて皇龍の城を警護するドラゴンの兵士たちが、人化した際に用いる武器にて彼らにはありふれた品なれども、人間の武芸者にとっては垂涎の槍であったのです。
槍身は軽くしなやかにして、たいそう手に馴染み、使い手の意を汲むかのようにして動いてくれる。それが使い手のチカラを十も二十もよけいに引き出していたからこその、ティアの槍さばき。
これを受けてコークスは分体らに指示を飛ばし、軍勢を五つに分けました。
五つの集団は、海の中を泳ぐ魚の群れのように一糸乱れぬ動きにて、まるで一匹の巨大な魚のようになって大空を征く。
一つの集団がグリフォンと対峙するなり、残りの四つが四方から攻撃をしかける。
ときには霧散して迫りくる圧倒的なチカラをかわす。
いかに数があろうともムリヤリに押し込めるようなことはせずに、五つが互いにフォローしあって、攻撃をかわせるだけの適度な距離を保ちつつ、隙あらば殺到する。
ジリジリ相手の体力をこそげ落とす作戦。
これがふつうの軍隊であれば、わずかなりとも乱れが生じたりして、反撃の機会もうまれるのですが、コークス率いるツバメの軍勢にはそれがまったくありません。
いまのところは接近を許すようなことはありませんが、ルシエルもこれには舌をまいておりました。
「ふむ。やるな、あの大ツバメ、強いぞ。だてに側近中の側近というわけではなさそうだ。他にも侵入者がいることには気づいているはずなのに、あせることなくコチラに注力している。それだけここの守備に自信があるということか」
「なにせ悪名高き白銀の魔女王の本拠地ですから、一筋縄ではいかないでしょう。この分ではドラゴンさんたちはともかく、城へ向かったルクの方もたいへんかもしれませんね」
「あぁ、まぁ、あっちにはラナがついてるし、なによりルクも立派になった。火の山での話をきいたか? まったく、とんでもないヤツだな」
「ええ、でもとってもやさしくていい子です。わたしとしては、いずれルシエルさまとの間に子どもができたら、彼の名前の一字をもらうつもりですのよ」
「おっ! そいつは名案だな。だったら、そうだなぁ……。男の子ならばルテク、女の子ならばルルアなんてどうだ?」
夫婦がそんな会話をしている最中にも、集団による苛烈な攻撃はつづいておりました。
言葉の調子のわりには表情はけわしく、けっして余裕があるわけでもありません。
しかしそれはコークスとて同じこと。
実際のところこうしてはげしく責め立てている側も、内心ではおおいにあせりを感じていたのです。
このまま戦いが長引けば長引くほどに、不利になるのはむしろコークスの方。
彼は元がただのツバメのヒナであったのを、レクトラムの慈悲によってチカラを得た身。対するはグリフォン、その中でもまちがいなく上位に位置するほどの実力者。
本来、内包しているチカラに差があるのは否定しようがなかったのです。
魔力が先につきるのは明白。
ゆえにしかけるタイミングを見誤るわけにはいかない。
いささか思考へと意識が引っ張られたかと、コークスが視界の中の相手に集中しなおそうとした矢先に、空に竜巻が起こりました。
天と地をつなぐほどの巨大なモノ、それが五つも!
浮島の地面をえぐり、土砂や木々をもまきこんでは、はげしくうねり動きまわる。
まきこまれたらひとたまりもありません。
あわててツバメの軍勢を回避させました。
嵐がいくつもまとめて押し寄せてきたよう。気流は乱れ、風が吹き荒れて、目もまんぞくにあけていられない。
大量の粉塵によって、陽がかげり、世界が薄闇となる。
その光景をまえにして、ふと、コークスの脳裏をよぎったのは背後に守る城のこと。
「あぁ、ほこりで城がよごれてしまう。これは雑用係らを動員して、大掃除をしないと。レクトラムさまがお怒りになってしまうな」
竜巻がふいにかき消え、あれほど荒れ狂っていた風がピタリとやんだ。
空高くへと巻き上げられたモロモロが、宙にて固まる。
そのとき世界が完全に静止したかのようにコークスの左目には見えました。
実際には、まばたき一つにも満たない、ほんのわずかな時間。
地へと引かれるチカラが働くまえのこと。
やがてすべてが動き出す。
薄闇の世界に一条の光が差した。
粉塵にて塞がれていた空にポカリと開いた穴。そこから陽の光が顔をのぞかせる。
不覚にもその光を、ついまともに見てしまったコークス。まばゆさのあまり目がくらむ。
かすんだ彼の視界の中に映ったのは飛来する何者かの姿!
大ツバメの頭上より矢のように迫るのは、グリフォンを駆る姫騎士。
グリフォンと大ツバメ、両者が刹那に交差する。
風をまといしグリフォンのツバサ、それに落下するチカラが合わさった必殺の槍がくり出され、コークスのカラダを切り裂きました。
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