262 / 286
262 風去りぬ
しおりを挟むガァルディアの剛力がまるで通用しない。
西の森の魔女エライザの魔道具がまるで通用しない。
水色オオカミのチカラがまるで通用しない。
しかも相手は玉座に座ったまま……。
単純な力量の差ならば、ルクも地の国を旅する間にいくつも味わってきました。
種族としてチカラであったり、生き方としてのチカラであったり、在り様としてのチカラであったり……、みんなみんなすごくて圧倒されっぱなし。
でも白銀の魔女王レクトラムは、そのいずれともちがう。
向こうとこちらの間に横たわる得体のしれない何かがある。
それをどうにかしなかぎりは、どうしようもない。
なのに、その方法がわからない。
何を相手にして、どう立ち向かえばいいのかが見当もつかない。
いっそ、すべてをあきらめてしまい、この身を差し出せば、ティーだけでも助けてもらえるのでしょうか?
弱った心が根拠のない妄想を抱いては迷いだす。
レクトラムはそんなルクのあせりすらも楽しんでいるかのように、悠然とこちらに蒼穹の青き双眸を向けたまま。
事実、彼女は待っていたのです。
水色オオカミの子どものココロが折れるのを。自分からすすんで我が身を差し出すのを。
さすればルクが発した言葉にレクトラムの魔力のこもった呪がまじわり、言霊と化し、誓約となる。とたんにけっして切れることのない呪縛のクサリがあらわれて、水色オオカミの魂は永遠に魔女王のモノとなる。
そのための下準備が入念に施されたのがこの玉座の間。
壁や床、天井や柱などにレクトラムの呪法を最大限に発揮できる術式が埋め込まれていたのです。
ここそれ自体が巨大なワナであり、獲物をとらえるための檻。
獲物はすでにワナにかかった。あとは静かに待つだけでいい。
いくら考えても打開策がおもいつかず、膨れ上がる絶望の重みに耐えかねて、水色オオカミの子どもがついにその言葉を口にしかけたとき。
自分の頬をなでるあたたかな風を、ルクは確かに感じました。
茜色の瞳が見たのは、銀のきらめきをおびた緑の風。
風が「だいじょうぶ」とささやく。
とたんに胸の奥がカッと熱くなる。萎みかけていた勇気が焔となりて燃え上がった。
屈しかけた気持ちを奮い、敢然と立ち上がった水色オオカミの子ども。
目のまえの敵に向かって雄叫びをあげる。
「ボクはあなたにはけっしてくっしない! くっしちゃいけないんだっ!!」
かつてないほど闘志をむき出しにして、吠えたルク。
これに呼応してガァルディアも動き出す。
水色オオカミのチカラにて出現した氷の柱が、レクトラムへと向かって真っすぐに突き出されました。
なおも向かってくる相手に対して、なんとも往生際のわるい、ムダなことをと平然とかまえていたレクトラム。
自分の顔面へと迫る氷の塊。その勢いにて風が起こり、ふわりと前髪をかすかにゆらしたのに気がついたのは、たまたま。
外部からのいかなる干渉をも受け付けない我が身が、たとえ髪の毛一本たりとはいえ動いた? 自分の身に起こった異変に、理性よりも先に本能が反応する。レクトラムのカラダは反射的に動く。
その直後に頬をかすって、玉座にぶつかりはげしい音を立てた氷の柱。
絶対防御が消滅! ありえないことに目を見開く魔女王。
だがそこに追い打ちをかけたのが、ガァルディアの拳。ルクの氷の柱を打ち砕きながら出現。カケラごとレクトラムにおそいかかる。
動揺しているところに、飛んできた飛礫と剛腕。
たまらず、さしものレクトラムも防戦一方となる。
すかさず魔法の盾を五枚重ねにて出現させて我が身を守った、その手腕こそが見事。
うちの四枚目までを砕き、五枚目にてなんとかとまった拳。かといって衝撃までは完全には殺しきれずに、玉座からすべり落ちるようにして少し離れたところにまで転がされてしまう。
自分の身に起きたことが信じられないレクトラム。
頬をぬぐった手の甲についた己の血を呆然と見つめている。
一方、あおりをくらっていっしょに吹き飛ばされたのは、ずっと彼女のヒザの上にいたティー。
ですが投げ出された小さな野ウサギの女の子の方は、次兄のタピカがしっかりと受け止めて大事はありませんでした。
「助かったよ、タピカ兄ちゃん」
「おう、無事でよかった。オレたちはもちろん父ちゃんも母ちゃんも、テスタロッサや森のみんなもとっても心配してたんだぞ。にしても……、おまえ、ちょっと太った?」
末妹をしっかり守った次兄。なのに最後の一言で台無しです。
たしかにこのお城に連れて来られてからは、やたらと食事がおいしくて、ちょっと食べ過ぎたかもしれませんが、だからとて女の子に言っていいことではなりません。
再会するなりデリカシーのない言葉を吐いたタピカをポカポカとたたくティー。
いきなりモメだした弟と妹をなんとかなだめようとする長兄のフィオ。
ひさしぶりにそろった野ウサギの三兄妹。そのやりとりは見ているだけで、心温まるものでしたが、あいにくといまは取り込み中につき、のんびりとはしてはいられません。
だから水色オオカミの子どもはからくり人形に告げました。
「ガァルディアさんはみんなをお願い」
白銀の魔女王の相手は自分がするから、フィオたちを無事に逃がして欲しいと言われて「無茶な」と声をあげようとしたガァルディア。
ですがルクの顔を見たとたんに口からついて出た言葉は、「おぬし、泣いておるのか」
緑の風を感じたとき、ルクにはすべてがわかってしまったのです。
師匠が本望を遂げて逝ってしまったということが。
茜色の瞳がにじみ、頬をひと筋の涙が伝う。
でもそれ以上は泣きません。
いまはまだやるべきことがあるから。
0
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる