水色オオカミのルク

月芝

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265 うつくしき黒の世界

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 四角い真っ黒な積み木。
 そのようなモノがレクトラムの周囲に姿をあらわしました。
 ふわりと宙に浮かんでは、見る間に数がドンドンとふえていく。

「どれ、今度はこちらからいくぞ」

 魔女王の白い指先が向けられたのと同時に、はげしく回転しながら一斉に迫ってくる。
 あわてて後退して、逃れようとした水色オオカミ。
 ですが数が多い。じきに周囲をかこまれ、すべての退路をふさがれてしまう。
 あせるルクをよそに、こんどはそれらが文字通り積み木のように重なっては組みあがっていき、漆黒の壁となる。
 四方をこの壁に囲まれ、あっ! とおもったときには、すでに天井も閉じられようとしていました。
 先ほど自分が放った氷の棺と同じような技。
 漆黒の棺の中に囚われてしまったルク。
 次のしゅんかんには、我が身は黒の平原の上に立っておりました。
 白銀の魔女王の魔法、光は物理攻撃、闇は精神攻撃、つまりここはレクトラムの造り出した精神世界、彼女の中で彼女の領域。
 黒い空、黒い大地、その境界がぼんやりと燐光を放ちゆらめいている。
 それ以外には何も見当たらない空間。
 だからとて無ではない。感覚的には水の中にいるのが近いでしょうか。
 周囲に満ちているモノはある。ただルクの茜色の瞳にはそれが見えないだけ。
 警戒しつつ、ココロを強くもっていた水色オオカミ。
 その耳元のふいに生暖かい吐息がかかり、「ようこそ、うつくしき黒の世界へ」とささやいたのは女の声。
 ビクリとなってふりむいたルクが目にしたのは、闇の中に浮かんだレクトラムの顔。
 気配もニオイもまるで感じませんでした。無防備にあそこまで接近をゆるしたことに歯がみするルク。すぐさま前足をふりぬきツメでなぎ払ったのですが、手応えはありません。
 水面に映る影のように、ゆらめくレクトラムの白い顔がニタリと笑う。

「そろそろ遊びにも飽きてきた。ここから先は容赦せぬぞ」

 攻撃的な言葉とは裏腹に淡々とした調子にて、そう宣言した魔女王。
 これを合図にして闇に浮かび上がったのは、白い顔、顔、顔……。
 無数のレクトラムが視界にあふれ、足下をも埋め尽くし、空一面には巨大な顔までもが!
 空の顔がケタケタと狂気じみた笑みをあげる。
 にゅるりと首をのばしては、周囲の白い顔たちが迫ってくる。その口にはノコギリのような歯がのぞいており、これでひと噛みしようというのか。
 足下の顔らが大口を開けると、ノドの奥から白い手が姿をあらわし、逃げまどう水色オオカミのカラダをつかまえようとする。
 全力で駆けて、ルクがこれらから逃れようとするも、ここはレクトラムの世界。
 白い顔はどこにでもあらわれては、どこまでも追ってくる。
 ついに耐えかねて、宙に氷の足場を出現させて空へと退避するも、こんどは上空から強い風がびゅうびゅうと吹きつけてきた。
 空に浮かんだ巨大な顔が息を吹きかけていたのです。
 あまりの突風に、ついにバランスを崩したルクの身は黒の大地へと落下。
 そこに待ち構えている白い顔たちが舌なめずり。
 真っ赤な舌がチロリとしたのを見たしゅんかん、ルクはほんの少しですが我を忘れました。ただただ、こわくてたまらなかったのです。
 ココロが、本能が、イヤだ! と悲鳴をあげる。
 無意識にふるわれた水色オオカミのチカラ。
 ルクの嫌悪感を具現化したかのような氷が地表をおおう。
 さながら北の極界の地面のようにぶ厚い氷の層が出現。これにはばまれて、白い顔たちは身動きがとれなくなりました。
 自身のなしたことを目の当たりにしたルクは、冷静さをとりもどす。

「そうだ! ここはココロの世界なんだった。だったら……」

 現実世界にて水色オオカミのチカラが暴走すれば、一国どころか世界の在り様を一変させることも可能。事実、北の極界はそうやって誕生しました。
 だからこそチカラを使うさいには、よくよく気をつける必要があるのです。ですがここは現実じゃない。ならばなんの遠慮がいるものか。
 白銀の魔女王レクトラムが行った数々の非道や彼女自身に対する怒りを。
 逝ってしまった翡翠(ひすい)のオオカミのラナへの哀悼と感謝の意を。
 さぞや無念であろう黒まだらオオカミのガロンへの同情を。
 野ウサギの兄妹たちや森の仲間たちがうけた苦しみを。
 これまでに地の国を旅するうちに出会った者たちが教えてくれた、いろんなチカラをも強く脳裏に思い浮かべて、ルクは全力全開にて己がチカラを解き放つ。


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