水色オオカミのルク

月芝

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 水色オオカミがチカラを解放し、精霊化することで、その地域は定着し安定する。
 その地を選定し見極めるための旅。
 それこそが天の国の御使いの勇者の使命。
 宙にあいた大穴を見たしゅんかん、ルクはこの地が自分の目指していた場所だと、本能でさとりました。
 もしも使命に殉じるつもりならば、クルセラとシュプーゲルたちを送りとどけてのちに、あそこにもどって使命を果たせばいい。
 その気がなければ、クルセラの誘いに応じて共に生きていく道もあります。
 けれども、それでどうなるのでしょうか? あの穴は? この砂の海は?
 だからルクはずっと気になっていた疑問を神さまにぶつけました。

「ふむ、そうだねえ。まず結論を述べると、このまま放置すれば砂の海はどんどんと広がりつづける。穴もどんどんとおおきくなる。そして世界はいずれダメになって滅びる」

 じつにあっさりと世界が滅亡すると言い切った神さま。
 おどろくルクをよそに「だだし」と言葉をつづける。

「ただし、それはまだうんと先の話さ。そうだねえ、ルクくんが結婚して子どもをつくって、その子がおおきくなって大人になって、そしていいお相手に巡り合って結婚して、孫が生まれて、その孫がさらに……、ってな具合に何世代も経ってからのこと。それこそ数千年単位の話だね」
「でも、そのころにはきっと」
「うん。もう手遅れだね。じつのところ今でもわりとギリギリかも」
「そんな……」
「とはいえ、まだ数世代、ルクくんの孫ぐらいまでなら猶予があるよ」
「そうするとボクの選択次第では、将来あらわれる同胞に希望を託すことに?」
「まぁ、そうなるかな。もっともそうそう都合よくあらわれるかどうかはわからないけれどね。水色オオカミは管轄外だし」
「神さまのチカラでどうにかならないの?」
「うーむ。ぶっちゃけると、やってやれないこともない。でも最悪、その余波で守るべきこの世界も穴の向こうの世界も、二つともダメにしちゃうかもしれない。場合によっては向こうの神さまが怒って戦争になるかも」

 強すぎるチカラをふるえば、何がしかの影響がでる。
 万能とまではいかなくとも、それに準ずるチカラともなれば、必ず。
 たとえどれだけ綿密な予測を立てて、万全を尽くし、慎重にことに当たろうとも、きっと予想外の事態が起きる。そしてそんなモノにかぎって、災いの悪種と相場が決まっている。
 だからこその水色オオカミという存在。
 この不安定で不確かだけれども、多くの生命が息づく世界を、補修し整える者。

「はじめにも言ったけれど、けっして無理強いをするつもりはない。すべてはルクくんの自由だ。なにもキミが世界のすべてを背負う必要なんてないんだよ。だってルクくんもまたこの世界に生まれてきた大切な命なのだから。この世界に生まれた者には、等しく精一杯に生きる権利があるんだ」

 まっすぐにルクの茜色の瞳を見つめて神さまは言いました。
 自分に出来るからとて、それは課せられた義務でも責務でもない。
 すべてはココロのおもむくままに。

「時間はまだあるから、ゆっくり考えたらいい」と言い残し、神さまは去っていきました。

 かすかに漂う残り香は潮(うしお)。
 これは彼の身に染みついていたもの。
 ひょっとしたら神さまは、海釣りが好きなのかも。
 そんなことをぼんやりと考えながらも、頭の隅にあるのはこれからのこと。
 自分に出来ること。いまの自分にしか出来ないこと。
 でもそれは自分や自分の想いを捨てることを意味している。
 いっそ「世界を救え」とでも命じられたほうが、ずっと楽だった。
 神さまはあくまで自分で選べと言う。
 スキにしていいと言う。
 なんと、やさしくもきびしい方なのだろう。
 これが自由……。
 すべての選択は自身にゆだねられ、その結果もすべて自身にはねかえる。
 何もない空間、どこをみても同じ灰色の景色。自分が居る場所がわからず、どこから来てどこへと向かえばいいのかもわからない。
 一歩まえへと足を動かすのが、これほどおそろしいとおもったことは、はじめて。

「ボクは、いったいどうしたら……」

 水色オオカミがつぶやく。
 すがるような弱々しい声に答えてくれる者はなく、砂の海の夜の風と混じりあって、いずこかへと流れて消えた。


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