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284 ルクの選択
しおりを挟むルクとクルセラとシュプーゲルたちが、無事に群れの居留地へと帰還を果たしたのは、神さまと水色オオカミとの会談があってから、九日後のこと。
砂の海の中心部をめざし、ついに目的を達した勇者たちを出向かえる群れの仲間たち。その歓声とは裏腹に、当人たちの表情はあまり明るくはない。
首長のガロや三長老たちへの報告は、シュプーゲルが先頭に立って行う。
淡々と告げられた真実、この先起こりうることを踏まえたうえでの退避勧告。
さすがにすぐには群れ全体が動けるわけもなく、あてもなくゾロゾロと彷徨うのは軽率にて、先遣隊を各地に派遣し、あらかじめいくつかの候補地を選定しておくことなどを進言して、シュプーゲルの報告は終了する。
だまって耳を傾けていたガロは息子の話を聞き終えると「わかった」とだけ言いました。
長旅のつかれもあるだろうから、ゆっくり休むようにと三長老から労いの言葉をかけてもらい三頭は席を立つ。
「どうなるとおもう?」
そろって寝所へと向かいがてら、ルクがたずねる。
「わからん。が、先遣隊の件は採用されるとおもう。どのみち避難先の目処は群れの安全を考えれば必要なことだしな」とシュプーゲル。
「なら、しばらく休んだら、また忙しくなるね」そう言って、にやりと笑みを見せたのはクルセラ。もどってきたばかりだというのに、早くも次の探検におもいを馳せているみたい。
そんな元気娘にシュプーゲルが「おまえなぁ」と呆れ顔。
幼馴染み同士の気さくなやりとりにルクがクスクスと笑う。
当初は顔を合わせるたびにガミガミ言い争いをしていたというのに、旅を通じて角がとれたのか、ずいぶんと丸くなったものです。
ルクにつられて二頭も笑いだしました。
寝所に向かっていた途中で、クルセラはニャモを筆頭にした女性陣につかまり、そのまま連れていかれてしまいました。女は女同士、いろいろとあるみたいです。
あとに残されたルクとシュプーゲルは、これに苦笑いを浮かべる。
はてさて裏で何を言われているのやら。想像するだにおそろしい。
なんてことを話しながら歩く二頭。
足をふいに止めた水色オオカミ。
急に立ち止まりルクは言いました。
「シュプーゲル、きみに聞いてもらいたいことがあるんだ」
表情や声の調子から、すぐに真剣さをさとったシュプーゲルは、ルクをともないある場所へと向かう。
彼がルクを案内したのは周囲がひらけて、背の低い植物しか生えていないところ。
ここならば身を隠すこともできないから、だれに盗み聞きをされる心配もありませんので、大切な話をするのには最適。
そこで語られたのは大穴の詳細についてとルクの決意。それがもたらすであろう結果。
きっと砂の海や周辺のあり様はおおきく、それどころか劇的に変わる。
それはシュプーゲルや群れにとってはよろこばしいこと。
だが……。
「クルセラは、彼女の想いはどうなる? それにルク殿の気持ちも」
群れの存続と安寧を第一の信条とするシュプーゲル。けれどもこのときばかりは、個人の想いを優先しました。いいえ、優先せずにはいられなかったのです。
塔の上でのクルセラの告白。
あのとき、シュプーゲルは一部始終を見聞きしていました。寝たふりをしていたのです。
ずっとスキだった相手が、大切な幼馴染みが、他の男に想いを告げる場面に居合わせる。これを目の当たりにする。
それはとても切なくて残酷なこと。
失われることへのかなしみ、ふがいない自分への怒り、相手への嫉妬、いろんな感情がわきおこって、泣き叫びたいほど。だがそれを必死にこらえました。
なぜなら、それで彼女がしあわせになれるとおもったから。
ライバルは自分には出来ないことがたくさん出来て、すごいチカラを持っており、とてもかなわない。砂の海のナゾを求める探検の旅を通じて、シュプーゲルはそれを痛感しました。だからこそ強くおもったのです。
他のだれかならば認められないけれども、こいつならばと。それなのに……。
ギリリと奥歯をかみしめるシュプーゲル。
ルクが決めたことが、きっとみんなにとっての最適の解。
だが、そのみんなの中に、ルクとクルセラが入っていない。自分の大切な旅の仲間が入っていない。それが無性にかなしくて、何もできない自分がみじめでしようがない。
いつしかくやし涙を流していたシュプーゲル。
ルクもまた泣いていました。そして泣きながらも言葉をつづけます。
「それはちがうよ。ボクはクルセラがスキだ、愛している。だからこそ彼女を守りたいと強く願う。でもね、彼女は自分だけが守られることなんて、きっとよろこばないよ。だからボクは彼女だけでなく、彼女が大切におもっているすべてを、大切にしているすべてを、その未来を守ることに決めたんだ」
ルクはクルセラを愛していると言いました。
言ったうえで彼女のすべてを守ると言い切りました。
現在だけではなく、この先もずっと守る。そのために自分は使命を果たす。
結果的には地の国を、この世界をも救う英雄的行為。
だけれどもそんな気は毛頭なくって、これはただの自分のワガママなのだとルク泣き笑う。
ルクはついに選択をしました。
男たちはさめざめと泣く。
恥じも外聞も気にはしない。いまこの場にいるのは彼らだけなのですから。
存分に男泣きに泣いて、すべてを吐きだしたら、あとは笑顔で別れるために。
翌朝、水色オオカミの姿は居留地から消えていました。
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