竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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438 竹姫探検隊がゆく! ― 猪笹王

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「右よし、左よし、もういっかい右よし……敵影なしっと。さてと、それじゃあ行きますかヘミ」
「ハフハフハフ」

 穴倉から這い出しては、シュタタタタ。
 まずはあちらにある岩の陰へと移動しては、ピタっと岩肌に張りつき、息を殺しては周囲の様子を伺う。
 いつもは勝手にピューッと飛び出していく竹犬のヘミだが、いまはとってもいい子である。訓練を積んだ軍用犬ばりに飼い主に従っている。はぐれたらさすがにヤバいと理解しているのだろう。

「上……敵影なし。下……音も振動もしていない。いつもギャアギャアうるさいのに、今日は妙に静かなのがちょっと気になるけど、いまのうちに距離を稼ごう」

 目指すは北北西方面の彼方に見えた塔。
 陸路にて目指す。
 海路を行けたら、いっきにショートカットできるのだけれども、海はダメだ。
 陸地近くはわりと浅いのだけれども、少し沖へと出たとたんに海の色が変わっている。
 青かったのがいきなる黒くなっているのだ。深い海では光が吸収されてこうなる。
 どうやら海底に谷があるようで、そこを根城にしているヤバい海獣を筆頭に、凶悪な禍々らがウヨウヨしている。
 イワシみたいな小魚の群れもいるけれども、パニックホラー映画に登場する凶暴なピラニアみたいで、群れで獲物に食らいついては、あっという間に骨にしてしまう。
 海のなんたるかを知らぬ素人がうかつに足を踏み入れたら、たちまち餌食にされてしまうことであろう。

 空をギューンと飛べればなお速く目的地につけそうだが、さすがに飛空艇を自作する技術はない。
 最近では、開発はウンサイさん任せ、製造は黒鍬衆に丸投げという生活だったもので。
 いまの私だと竹蜻蛉の初期型がせいぜいである。
 私とヘミを乗せて飛べる機体は作れそうにない。
 よしんば飛べたとて、空には空の禍々たちがいる。あっという間に突き殺されることになるだろう。

 よって地道に歩いて行くことに決めたのだけれども……

「ぎゃあぁぁっ、こっちくんなーっ」
「きゃいん、きゃいん、きゃいん」

 さっそく危険生物に目をつけられて私たちは追いかけ回されていた。
 ちくしょう。まさかあのウリ坊の親がこんなにビックだなんて。
 ウリ坊といっても軽自動車ほどもあった。
 だが見た目は弱そうだし、じっさい私たちにビビっていた。
 でもって私たちは「よっしゃ! 肉ゲットだぜ」「わんわん」と涎をじゅるり。
 けれどもウリ坊が「プビーッ!」と鳴き声をあげたとたんに、状況が一変した。

 彼方にて森が爆ぜ、盛大に土煙があがったとおもったら、ドドドドドッ!
 地響きを立てながら山が近づいてくる!?
 その正体がウリ坊の母親にて、六本の立派な牙を持ち、背中に熊笹が生えた白い巨大イノシシであった。

「――んなっ、猪笹王いのささおう!」

 もの凄い迫力だ。ぎろりとひとにらみされただけで、私とヘミは縮みあがったものである。
 ちなみに猪笹王とは、大和国の伯母峰峠にあらわれたといわれる大妖怪のこと。
 パニックを起こした私たちは脱兎のごとく逃げ出した。
 でもそれがよくなかった。
 とっとこ逃げる小物に、お母さんイノシシ大興奮にて――

  〇

 イノシシと遭遇したときの対処法と、けっしてやってはいけないこと。

 その一。
 悲鳴や大声を出さない。下手に刺激すると攻撃対象として認識される危険があります。

 その二。
 背中を見せると追いかけてきます。ちなみにイノシシは時速50キロぐらいよゆうっち。
 じつはキリン、カピパラ、サイ、キツネなんかも同じぐらいの速度で走れるので、遭遇したら気をつけましょう。

 その三。
 慌てず騒がず、目をそらすことなく、ゆっくりとあとずさりましょう。
 
 その四。
 ウリ坊には絶対近づくな! 近くに母親がいるので。

 その五。
 イノシシは下り坂に弱い。
 イノシシの急所は、頭部から鼻筋当たりと心臓。
 イノシシはトウガラシの香りが苦手。レモングラスでも可。
 動物用の催涙スプレーを使う。

 その六。
 高いところに逃げましょう。
 でも中途半端はダメ。
 だってイノシシは助走なしでも、1メートルぐらいひょいと跳び超えられるので。

  〇

 私とてかつては竹のスペシャリストを目指し、フィールドワークで成らしたものである。
 深山に分け入っていたのでシカ、イノシシ、クマなんかと遭遇したことも一度や二度ではない。竹槍片手にサルの群れと食べ物の争奪戦をしたこともある。だから対処方法や知識はあった。
 だがしかし相手が学校の体育館ほどもあるとなれば、もう、ねえ?

「前世の知識なんぞ、クソの役にも立ちゃしねぇえぇぇーっ!」
「わおぉおぉぉぉぉーん」

 ただ前だけを向き、一心不乱に手足を動かすのみ。
 けれども悲しいかな、いまの私はちんちくりんの竹姫ちゃんサイズ。
 あっという間に追いつかれてしまい……

「あっ」


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