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443 竹姫探検隊がゆく! ― 紅樹林VS竹林
しおりを挟む右へと進路をとれば、その動きにあわせてマングローブ全体がずももと動く。
左へと向かえば、それを察して先回りするかのように、やはり動いては通せんぼをする。
「どうしてもここを通りたくば、自分のなかを抜けていて」
と言わんばかりにて。
妖しいマングローブ――紅樹林は、どうあっても私たちに迂回をさせないつもりのようだ。
でもって、こうして動いているといういことは……
「植物系の禍々……それも、私と似たようなタイプの」
竹は、一にして全、全にして一であり、竹林全体でひとつの巨大な生命体と言えなくもない。いちおう分類上は植物とされているけれども、じつは唯一無二の存在にて、木でも草でもなかったりする。
竹は竹であり、竹ゆえに竹あり。
竹の上に竹はなく、竹の下にもまた竹はなし、唯我独尊。
その究極進化系が、この私……竹姫ちゃんなのだけれども。
群生の類ではない。この紅樹林もまた全体でひとつの生き物のようだ。
いままで同じような生命体にはお目にかかったことがなかったもので、私は内心とても驚いている。
もしもコンタクトが可能であれば、仲良くしてやってもいい。
……なんぞとおもっていたのだけれども、そんな甘っちょろい考えは速攻で粉砕された。
さすがにいきなり踏み込む度胸はなかったので、とりあえず竹でこさえたダミー人形を放り込んでみたら、一瞬にしてメキメキメキ……
四方八方からのびてきた枝や根にからめとられて、握り潰されてしまった。
殺意高過ぎ!
どうやら良き隣人とはなれないようである。
ちらりと横をみれば、沼のUMAもさすがにこれは手に余るのか、動こうとしない。
もっとも食べたところで相手は木だしね。しかも生でしけってる。歯ごたえばかりでちっとも美味しくなさそうだ。
そのせいかちょっとかじってみるという気にもならないようである。
つまり今回は、あてにできないということだ。
「だからってバカ正直に正面から乗り込むだなんて愚の骨頂」
私はヘミの背から降りて、竹道の端へと。
縁のところでしゃがみ込んでは、手をのばし触れたのは湿地の水。
「ふむ。水質は問題なさそうだね。深さもたいしたことないし、おもったよりも水温も低くない。これぐらいならどうにかイケるか」
マングローブは水辺でも生きられる水生植物だ。
一方で竹だが、じつは水中で生えることが可能だ。水質と栄養次第でけっこう長く生きられる。
しかしこれはかなり条件が整い、幸運に恵まれた場合のみ。
基本的に竹は陸生植物なのだ。長いこと水に浸かっていると、根が浸水し根腐れやいろんな問題を引き起こす。
「というわけで、ちょっくらチカラ試しといこうか。
むむむむむ、滾れリグニンパワー! いでよ、ちくちく地獄!」
説明しよう。
ちくちく地獄とは、地面から竹槍で獲物をブスリとする技の上位版にて。
通常は一本、ないし二本ぐらいのところを、一挙に数十もの竹槍を繰り出しては相手をちくちくする鬼畜技である。なおネーミングは竹々をもじって命名した。
紅樹林と竹林の戦いが始まった。
凄まじい勢いで地面の下から次々とあらわれては攻勢をかける竹たち。
させじと丈夫な木の根でこれを防ぎ、押し戻そうとする紅樹林たち。
押し合いへし合い、ときに激しく衝突し、絡み合っては相手をギチリギチリと締めつけ、締めあげ。
かとおもえば双方ともに仲間らとスクラムを組んでは相手チームとエンゲージ、がっつり組み合い「さあ押せ! やれ押せ!」
一進一退の攻防を見せるも、やはり地の利と一日の長があるのは紅樹林サイドか!?
おもいのほか守りが固い。粘りのある強靭な根。
対して竹たちはぬかるみのせいで、いまひとつ踏ん張れない。そのせいである程度まで進んだところで足踏みを余儀なくされており、いまひとつ攻めきれないでいる。
「やるな! マングローブめ。だがしかし、そっちにばかり気をとられていていいのかしらん?」
樹だけにね。なんつって。
軽くオヤジギャグを飛ばしつつ、私は第二の矢となる刺客を放つ。
刺客はいま私たちがのっている竹道だ。
これは強化された十本もの極太なゾウタケを並べたもの。
このうちの半数を解き放っては、文字通り横槍を入れさせるのだ。
地面の下ばかりに意識が向いていたところへ、横からの攻撃。
完全に不意をつかれた紅樹林はまともに対処できずに、体勢が崩れてしまう。
その隙を見逃す竹たちではない。
ここぞとばかりに突進し、ついには紅樹林の牙城の一画を破ることに成功する。
そこから先はあっという間であった。
かくして紅樹林たちは駆逐され湿地より姿を消し、青々とした竹林がサワサワと凱歌をあげた。
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