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008 太公望、希望
しおりを挟むどうやらここいら一帯は雨があまり降らない土地のようだ。
空気がやや乾いている。このままではせっかくの艶のある竹肌が荒れちゃう。もう少し潤いが欲しい。
あとお肉ばかりなので、たまには魚が食べたい。
そんな私のささやかな願いを神さまは聞き届けてくれた。
しかも一挙に!
とくに祈った覚えはないけれども、とりあえず出逢いを与えてくれたことに感謝!
向かうところ敵なし、絶賛拡大中である我が陣営。
竹林の範囲を広げていくうちに川を見つけた。
人間が立ち入った形跡のない清らかな渓流である。
そーっとのぞいてみれば、チラチラと魚らしき影も泳いでいるではないか。
えっ、どうやって確認したのかって。
もちろん竹を通じてである。
一は全であり、全は一である我が身。竹林すべてが私であるからして、メインの意識は最初に宿ったタケノコにこそあるが、あれこれ試行錯誤と研究を進めていくうちに他の竹を通じて見たり聞いたり、ちょっかいを出したり出来るようになったのだ。
でなけりゃ狩りとか出来ないってば、ハッハッハッ。
っと、そんなことよりも今は川である。
「よし! 水、確保。でもってお次はやっぱりアレだよね」
鮮烈な新緑に彩られた素晴らしい渓流があり、魚がいて、竹がある。
ならばもうやることは決まっている。
釣りだ。
というわけでさっそく竹竿を……といっても青竹を切っただけのものだけど、を用意する。これに竹縄のテグスと生餌は使わずに、ここは羽虫に似せた毛鉤で狙う。毛鉤はもちろん竹を削って作ったモノで、なかなかの自信作である。なお針のところだけは動物の骨を使った。なおオモリは地中から粘土を回収して、それで代用する。
準備が整ったところで、いざレッツ・フィッシング!
とはいえ闇雲に投げてもダメだ。
渓流釣りで狙うべきポイントは――
低水温期は魚の動きも鈍い。だから深場やトロ場のような、水深が深く流れの緩い場所を狙う。
逆に水温が徐々に上昇してくると、餌となる虫の動きも活発になるので、それを食べている魚たちも活性化していく。この時には水深が深い所よりも浅い所をうろついている。
よって狙うべきは瀬や流心といった流れの当たる場所だ。
一見すると「こんな浅いところには、さすがに魚はいないだろう」といったところが、じつは……というパターンも多い。水深20センチにも満たないようなところが、案外爆釣ポイントだったりする。
……などと、さも玄人っぽいウンチクを披露したが、じつはこれらはすべて教授の受け売りである。
竹研究の第一人者であった恩師は、健脚の持ち主にてフィールドワークに勤しむかたわら、道なき道を突き進み、深山へと分け入っては川を見つけるたびに釣り糸を垂らしていたそうな。
「そんなに釣りがお好きなんですか?」
と、私が訊ねたら恩師はキリリと真顔でこうおっしゃった。
「たしかに好きだがそれだけじゃねえぞ。こうやって太公望を気取っていたら、そのうちえらい人からスカウトされるかもしれんからな」
太公望とは昔の大陸の偉人さん。
ボケ~と釣りをしていたところを、周国の文王に見い出されて、軍師として大活躍したという。
その故事にあわよくばあやかれるかもしれない。
教授の釣りはそんな下心ありきのものであった。
この話を聞いて、私は「あきれた」と叫んだものである。
比べて私の心のなんと清らかなことか。
なにせ純然たる食欲にもとづく捕食行動の一環としての釣りなのだから。
それに魚だって、きっと髭モジャのクマみたいなおっさんに釣られるよりかは、私のような元リケジョに釣られる方が、きっとうれしいはず。
「というわけで、えいっ」
竿を振って、ふわりぽとりと投げ入れたのは、狙うポイントよりもやや上流のところ。
ほら、水は上から下へと流れるからね。こうやって自然の流れに身をまかせることで、毛鉤をより本物っぽく見せているのだ。
水面に静かに着水した毛鉤が流れにのってはススススゥー、緩やかに移動してはポイントへと接近していく。
私は竿の先に意識を集中させる。
――ピク、ピクリッ。
反応があったところで迷うことなくいっきに竿をあげた。
水飛沫が木漏れ日を受けてキラめき、薄っすら虹がかかる。
ヤマメだかイワナだか知らないけど、それっぽい魚がかかっており、ひゃっほう!
「おもった通りだ。ちっともスレてないから、きっと入れ食い状態なのにちがいあるまい」
爆釣の予感がする。
私は釣り上げた一匹を竹で編んだ魚籠(びく)に放り込むと、嬉々としてすぐに第二投をキャスティングした。
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