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028 三日天下
しおりを挟む攻守が入れ替わり、形勢が逆転する。
タケノオオミズチの猛攻によってハートは防戦一方だ。
その余波で大門は倒壊し、付近の防御壁や建物もぐちゃぐちゃになり、竹の里の一角がみるみる瓦礫だらけとなっていく。
いまのところはタケノオオミズチが圧倒しており、このまま押しきれそうな勢いにて。
(……なのにどうして? どうしてこんなに不安な気持ちになるの?)
三人竹官女らに守られながら、戦いの行方を見守っていた私は厭な予感がしてしょうがない。
どうにも自分たちの勝利を確信できないのだ。
その理由はほどなくして判明した。
――目だ。
パンダクマのハートは竹の大蛇にくわえられた危機的状況にもかかわらず、ずっとこっちを……私のことをにらんでいたのである。
ヤツはこの里の中で『もっとも倒すべき相手が誰なのか』を正しく認識している。
認識した上で、いま現在組みついているタケノオオミズチではなくて、私の方を見ている。その小さな姿をけっして見失うまいと、逃すまいとするかのように。
ハートと目が合った瞬間に、心臓をギュッとワシ掴みにされたかのような感覚に襲われた。
私はこれを知っている。
かつてスエッコが炎のデカトラと戦っていたのを盗み見ていた時と同じだ。
そして遅まきながら悟った。
やはりあの時に、こちらの存在に気づかれて把握されていたのだと。
くそっ! ロックオンされた上で泳がされていたのだ。
そうとは知らずに私は調子に乗って――
私の思考はそこで中断される。
ついにタケノオオミズチとハートの戦いに決着がついたから。
ただし、それは私が想定していたあらゆるパターンを上回る最悪の形であった。
いったん口腔内から脱したハートであったが、直後にしっぽによる殴打を喰らって空高くへとかちあげられてしまう。
そして落ちてくるところを待ち受けるのは大蛇の口だ。
けれどもハートは寸前にて呑み込まれるのをふせぐ。
両腕にて上顎と下顎を掴んでこらえたのだ。
そして――
ビリッ……メキ……メキメキ……メキメキメキ……メキメキメキメキメキ……
不意に異音が鳴り、裂け始めたのはタケノオオミズチの大口。
長い蛇体をハートが力任せに引き裂いていく。
タケノオオミズチはどうにか逃れようと暴れるもそれは許されない。しっかりと食い込んだクマ手や爪が邪魔をする。
「ガァアァァァァァァァァーッ!」
雄叫びとともに全身の毛が逆立つ。
筋肉が異様に盛り上がってはハートの身がひと回り大きくなったとおもったら、タケノオオミズチの身がみるみる裂けていき、ついには力尽きてどうと横倒しとなった。
〇
とっておきの決戦兵器であるタケノオオミズチがハートに負けた!?
余裕で勝てるなんて、さすがに考えちゃいなかった。
それでもある程度のダメージを与える、もしくは手傷を負わせて追い払えるぐらいは期待していた。
が、終わってみれば完敗であった。
ハートは幾分疲れの色が見えるものの、ほぼ無傷。
パンダクマが強いということはわかっていたけれども、そのなかでもこのハートは別格にて。
あまりのことに私は呆然自失となる。
ぼんやり立ち尽くしていると、いきなり横合いからのびてきた腕にてひょいとさらわれた。
誰かとおもえば三人竹官女のうちのひとり。
私の身を抱えるなり駆け出し、急ぎその場を離れようとする。これに残りの竹官女らも続く。
直後のこと。ついさっきまで私たちがいたところに飛んできたのは、無惨な姿となったタケノオオミズチの下顎部分であった。
やったのはもちろんハートである。
『次はおまえの番だ』との処刑宣告だ。
残っている竹工作兵や竹武者らがハートへと立ち向かっては足止めをしているうちに、主君である竹姫さま(小)を逃がそうとする麾下の者たち。
だがその献身を嘲笑うかのようにしてハートは進む。群がる連中を、叩き飛ばし、踏み潰し、ねじ伏せ、ときに噛み千切ってはずんずんと向かってくる。
「くっ、離して。私も残ってみんなと戦う! こうなったらかなわないまでも、せめて一矢報いないと気が済まない!」
腕のなかで私はジタバタ、駄々をこねるも、竹女官は首を振るばかりでけっして離そうとはしなかった。
どうやらいったん後退して味方と合流して態勢を建て直すつもり、もしくは大将である私だけでも逃がすつもりか。
三人竹官女に連れられて、里の中心部である広場へとやってきた。
私はさっそく残った手勢を集めるべく号令をかけようとするも、そのタイミングで右手側の通りから顔を出したのは竹侍大将のサクタである。
「あっ、サクタ!」
多少は手間取ったものの、あちらを片付けて救援に駆けつけてくれたのかと、喜んだのも束の間のこと。
続けてのそりとあらわれたパンダクマの姿に、私はヒュッと息を呑む。
サクタは首だけとなっていた。
討ち取った首級をオモチャにして、スエッコがキャッキャとはしゃいでいる。
続いて左手側の通りからあらわれたのもまたパンダクマであった。
隻眼のカンスケだがその身には竹縄分銅が絡んでおり、縄の先にて破壊された竹忍者の残骸をズルリズルリと引きずっている。
グシャリという音がうしろからしたものでそちらに目をやれば、薙刀を持った竹女官のふたりがハートの爪によって、まとめて撫で斬りにされていた。
胴体が砕けて上半身と下半身が散りぢりとなっては、無惨に地面へと転がった。
いよいよ、のびてくるハートの腕。
でもその腕が届く寸前のこと。
手にいきなりガブリと噛みついたのは竹イヌであった。
里の防衛戦が始まってからちっとも姿が見えなかったもので、てっきりどこかに隠れてしっぽを丸めているのかとおもいきや、ここにきて忠犬ぶりを発揮する。
でも……
きょとんと小首をかしげたハートは、手にぶら下がっている竹イヌを無造作に握り潰しては踏みつけて粉砕してしまった。
私は声にならない悲痛な叫びをあげる。
味方は総崩れにて、三体のパンダクマに囲まれもはや逃げ場はない。
庇おうと私を抱いている竹女官が背を向け身を丸めるも、それがいったい何の抵抗になろう。
ベキバキ、メキメキメキ……
自分の体が破壊されていく音を聞きながら、やがて私の世界に暗幕がおりた。
こうして竹の里は陥落し、私の三日天下は終わった。
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