竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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032 ただいま侵蝕中

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 カッコン……

 静寂の竹林に響くは鹿威ししおどしの音。
 風流な音色に耳を傾けながら、私は竹製の湯飲みに入った竹茶をすする。
 ここは新たに設けた拠点の庵である。
 とはいえ規模はこじんまりとしたもの。山間部の竹林に埋もれるようにして建つ質素な佇まい。さりげなく周囲に竹を配置し、ぱっと見には外部からわからないようにカモフラージュしてある。
 なのにわざわざ音がするものを置いたのは……なんとなくだ。
 べつに必要ないけれども雰囲気で設置してみた。
 だって竹林と庵と鹿威しの組み合わせは、とても絵になるもの。
 雌伏の身である私の無聊を慰める一助となっている。

「ズズズ……はぁ~、のどかだねえ。今日もタマキが淹れてくれた茶がウマい」

 タマキとは復活させた三人竹官女のうちのひとり。
 とはいえ再生したのは最古参の竹官女の彼女のみ。他のふたりにはもうしばらく待ってもらっている。
 なにせ現在は狭い庵で慎ましやかな暮らしをしているもので。
 お世話役はひとりでこと足りるのだ。

 復活に際して竹女官にも名前を与えてグレードアップさせた。
 タマキという名前の由来は竹久夢二から。
 竹久夢二は大正ロマンを代表する画家で『大正の浮世絵師』などと呼ばれた人物。独特の美意識による『夢二式美人画』と呼ばれる画風が有名で、日本の近代グラフィック・デザインアートの草分けのひとりとも云われている。
 活躍していた当時はとにかくモテまくったそうで、流した浮名は数知れず。
 そんなモテ男に翻弄された女たちのひとりから拝借した。
 ちなみにどうして竹久夢二から名前をつけたのかといえば、単純に苗字に竹の文字が入っていたからである。

 ええい、みなまで言ってくれるな。
 私だってとっくに気がついているさ。
 いい加減、竹縛りのネーミングには無理があるということは!
 でもね、たとえ無理くりでもそこは今後ともこだわっていきたい。
 なにせ私という存在のアイデンティティ、根幹にかかわることだもの!

 カッコン……

 鹿威しの音で、ハッと我に返った。

「おっと、いかんいかん。つい取り乱してしまった。平常心、平常心」

 竹茶をすすっては気を取り直し、私はお仕事に集中する。
 にしてもこの竹の葉から作ったお茶は優れモノだ。
 味こそはやや薄いけれども、芳ばしい香りのするさわやかなお茶で、その効能がスゴかった。
 血流改善に便秘予防、殺菌作用や解毒作用を持っており、デトックス効果によりむくみや冷え性をも解消してくれ、ノンカフェインだから妊婦さんや就寝前でも気軽に楽しめる。さらには精神安定効果や解熱効果もある。
 ひと口すすれば清涼感に包まれてさっぱりほっこり、イライラなんぞはたちまち霧散してしまうという次第。

 ん、さっきから茶を飲みながら何をしているのかって?

 あぁ、それは領土拡大である。
 一見するとのんべんだらり、お茶を楽しんでいるだけのように見えて、じつはちゃんと働いているのだ。
 庵に篭って、私はせっせと地下茎を方々へのばしている。
 けれども地上の方はあえて手付かずにて。
 以前のように手当たり次第に竹林を広げたりはしない。
 まずはこうやって地下から周辺地域を侵蝕していく。

 目立たずに粛々と、でも着実に、ひそやかに、蜘蛛の巣あるいは網の目のように……

 誰にも悟られないように注意を払いながら魔の手をのばす。
 一方でせっせと光合成をしては、狩りも続け、ひたすら力を蓄え続けている。
 静かなる侵蝕にして侵略。
 竹を生やすのはいつでもデキる。
 気づいた時にはすでに手遅れ、すべてが終わっているという寸法である。

 ちと回りくどいがこの方法にはメリットが多々にて。

 メリットその一。
 とにかく悪目立ちしない。パンダクマみたいなのに目をつけられるのは、二度とごめんである。

 メリットその二。
 私にとって有益な植生や環境はそのまま保存できる。竹林にしてしまったら、他の植物はあらかたダメになるからね。
 でもこの方法だと共存が可能となる。
 おかげで野生種の麦、米、大豆などを確保することができた。今後は品種改良に努めて食料事情を改善していこうとおもっている。
 栄養補給の観点からはいまのままでも問題ないけど、元人間の身にはあまりにも味気ないもので。幸いなことに竹姫さま(中)のボディは、疑似的に食事を楽しめるみたいだし。

 メリットその三。
 地下茎の支配領域は、そのままコードレス竹電式の有効範囲になるので、広がった分だけサクタたちの活動範囲も広がる。
 これまでは竹林を中心にしていた活動が、それ以外にも足を運べるようなったおかげで、狩りの効率や周辺の探索がはかどること、はかどること。

 でもはかどるあまり、まさかあんなシロモノを発見してこようとは夢にも思わなかった。


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