竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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081 冥穴に消ゆ

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 猛り狂っていた紅蓮が失せた。
 瓦礫も消し飛び、地面がまるでかんなで削ったかのよう。
 すっかり更地と化した本丸跡。
 びゅるりと一陣の風が吹き、一帯に漂っていたガスやもやを散らす。
 空も動き出した。
 雲の切れ間から陽の光が差してくる。

 それに照らされていたのはハートであった。
 黒雷の姿からパンダクマに戻っている。
 顔の左半分の毛や皮膚が失せて、口元の牙や歯茎が剥き出しになっている。
 左腕は肘の辺りでねじ千切れており、砕けた骨があらわ、血がポタリポタリと滴っている。
 脇腹から腰にかけて肉がごっそり抉れており、傷口がほぼ炭化している。
 左後ろ足にも深い咬傷こうしょうがあり、片足にて立っている。

 ハートの周囲に散乱しているのは、さっきまで絡みついていた三つ首の残骸だ。
 少し離れたところには、ほぼ全壊に近い状態にて、スクラップとなった本体の姿もあった。
 機体は外部も内部もぐちゃぐちゃ。
 コクピットにいた私も当然ながら無事ではない。
 あちこちズタボロにて、ハートに負けず劣らずヒドイ有り様だ。

「ぐっ……タマキ……ヒコノ……オ……ヨウ…………」

 声を絞り出し、呼びかけるも応答はない。
 繋がりは辛うじて残っているものの、か細い……すぐにでも切れてしまいそうだ。
 おそらく弾薬庫が誘爆したのだろう。近くにいた彼女たちも巻き込まれてしまったか。
 かくいう私も意識を維持しているのがやっと。
 下半身が壊れてしまっている。自力脱出はむずかしい状況だ。

 目の焦点が定まらず、朦朧としながらも、ハートはなおも立ち続けている。
 それを這いつくばっては、ねめつけている私。

 奇しくも先の竹の里での戦いのラストと同じ構図にて。
 前回とちがうのは、双方ともにボロボロにて息も絶え絶えなこと。
 私はギリリと拳を強く握る。

 ……ようやくだ。

 ようやくここまできた。
 あと少し、あとほんの少しで悲願を達成できる。
 でも喜んだのも束の間のことであった。
 ハートが手にしているモノを目にして、私は愕然とする

「――なっ、あ、あれは禍石っ!」

 緋色の禍石は、この世界に跳梁跋扈しているバケモノども――禍々らの体内にある核のような存在にて、これがあるから禍々たちは異能を行使できる。
 強い個体ほど、より色味が濃く、鮮やかで、大きな禍石を持つ。

 いまハートの手の中にあるのは、私が四苦八苦して吸収した菱形の石にはおよばないものの、なかなかの大きさと色味にて。
 かなり強い個体から入手した品であろう。
 ずっと懐に隠し持っていたそれを、この局面で取り出した。
 わざわざ持ち歩くほどの石……
 いざという時の保険として温存していたのか。
 それをハートが吸収しようとしている。
 目的はもちろん回復だ。

 マズイ! マズイ! マズイ!

 どれぐらい持ち直すのかはわからないが、あれを喰わせてはダメだ。
 さすがに竹瀝ほどの超回復力はないにしても、ヤツが息を吹き返してしまう。

「万が一にも、手負いで逃げられたりしたら……」

 すべてが水泡に帰す。
 それだけはなんとしても阻止しなければならない。
 だから私は――

  〇

 パンッ!

 乾いた音が響いた。
 鳴ったのは一発の銃声である。
 放ったのは私だ。
 壊れた腰から下を切り離し、上半身だけになって、どうにかタケノヤマタオロチの残骸から這い出したところで、竹鉄砲をぶっ放す。
 狙ったのはハートの手にあった禍石。
 弾は狙い通りに飛んで、ハートの手からキィンと石をはじき飛ばした。

 禍石は少し離れたところに落ち、転々と。
 これに「グルルルル」と忌々し気にハートが唸り、私と石をキョロキョロ見比べる。
 どちらを先にするかの、一瞬の逡巡。
 でも、それで充分であった。
 私はにへらとの笑みにて。

「あんたには地獄の底まで付き合ってもらうよ。まさかとはおもうけど、レディのお誘いを断るだなんて野暮は言いっこなしだからね」

 とっておきその二。
 そのトリガーを私は引いた。
 瞬間、ゴゴゴゴゴゴ……
 竹要塞全体が激しく上下に震えだした。
 あまりの揺れにハートが尻もちをついたところで、地面がズルリと横へ動き始める。
 はじめのうちはゆっくりと、それがじょじょに速くなっていき、ついには流砂のようになった。
 渦を巻くようにして景色が流れていく。
 その中心にあらわれたのは穴だ。
 ぽっかりあいた大きな穴が轟々と、猛烈な勢いにて一切を呑み込んでいく。

 この竹要塞の内部にはタケノヤマタオロチを収納していた大きな格納庫の他にも、銃火器類や弾頭などを保管しておくためのスペースが確保してあった。
 さらには要塞を中心にして、アリの巣のように地下壕が張り巡らされてもいる。
 でも、じつはさらにその下があったのだ。
 地下空洞。
 事前の調査段階において偶然に発見されたモノ。広さはドーム球場ぐらいほどもある。
 空洞の上という不安定な場所をあえて決戦の地に選んだのは、ここをヤツの墓穴はかあなとするため!

 要塞の地盤を支えていた竹組みが一斉に外されたことにより、一帯が底の抜けたバケツとなった。
 上に積み上げられていた大量の土砂や岩などが、濁流となり、瀑布となっては、何もかもを圧し潰しながら地の底へと墜ちていく。

 それは冥府へと通じる破滅の穴。
 なんとか吸い込まれまいとハートは必死に流れに逆らい足掻くも、そこへズズズと近づいてきたのが破壊されたタケノヤマタオロチの残骸だ。
 しがみついている私ごとハートに直撃する。
 が、それでもしぶとくハートは粘り続けている。

 凄まじいまでの生への執着!

 だが私はそれを「浅ましい」とは思わない。
 ハートは……ヤツは……それだけ誰よりも必死に生きている証なのだから。
 この世に産まれ落ちたからには、全身全霊を賭して生き抜く。やがて動けなくなり、朽ち果てるその瞬間まで。
 それは私とて同じだ。
 でも、だからこそ私たちは決して相容れることはない。
 両雄並び立たず。
 必ず互いが互いの壁となる運命さだめなのだ。
 どちらかが倒れて、消えて無くなるしかない。

「だから私は……いまここで、その因縁を断ち切るっ!」

 手にしたのは竹ダイナマイト。
 流砂と残骸に押されて身動きがとれないハートへとにじり寄り、ヤツの口へと強引に竹ダイナマイトをねじ込み、「あばよ! あんたのことは一生忘れない」と告げて、ピンを抜いた。

 閃光と爆発と絶叫と――

 何もかもが冥穴めいけつへと吸い込まれいき、深い地の底へと消えていった。


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