竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝

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218 滅亡までのカウントダウン ― 五日目、その十

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 船に取り憑いている巨大なタコ――おそらくは海の禍々なのだろう。
 そいつと目が合ったとおもった次の瞬間のことである。
 窓の外が急に真っ暗となって何も見えなくなった。

「えっ、もしかしていきなり墨を吐いたの! でもどうしてこのタイミングで?」

 墨を吐く生き物といえばイカとタコである。
 が、一見同じようにみえて、その内容はかなり異なっている。
 イカの墨は、敵から自分の身を守るため。煙幕だったり、影武者だったり。深海に生息するイカの仲間には、墨の代わりに発光液を出すモノもいるんだとか。
 とどのつまり、イカの墨は防衛目的だということ。あと旨味成分たっぷり、イカスミスパゲティ、最高!

 これに比べてタコの墨ときたら、もう……
 まずクセが強すぎる。天敵であるウツボの臭覚をマヒさせたり、カニの感覚すらも狂わせる特殊な成分配合にて。これが毒っぽいと判断されて敬遠されてきたらしい。
 墨袋の量も少ない。たとえばイカが健全な成人男性の膀胱なみに貯め込めるとしたら、タコのそれは夜中に何度もトイレに立ち頻尿に悩む老爺のごとく。
 そんな墨袋のある場所もやっかいだ。かなり体内の奥まったところにあって、捌いて取り出すのがめちゃくちゃめんどう。
 味そのものは、悪くないのだけれども、いかんせん一体から摂れる量が少ない。
 タコスミパスタを作ろうとおもったら、いったいどれほど集めなければならないことやら。価格に反映したら、一皿万越えとか、ガチでありそうで。

 安い、ウマい、多い、と三拍子そろったイカの墨。
 高い、味が微妙、少ない、とすべてに劣るタコの墨。

 どちらが優良かなんて考えるまでもないだろう。
 でもって、そんなタコが墨を吐くのは、主に逃げるときや外敵から身を守ろうとするときなわけで……

 だからこそ、巨大タコの行動はおかしいのだ。
 猛然と突っ込んできては、みずから抱きついてきたというのに、ここで墨を吐く理由がないのである。
 でも、その目的はじきに判明した。

 ズル、ズル、ズルズル、ズルズルズルズル……

 船体が動いている。
 振動と方向からして海溝の方へと向かっているようだ。
 それで私はピンときた。

「あっ、こいつ、獲物を穴倉に引きずり込むつもりなんだ」と。

 ゴダイゴで戦ったダイオウイカもどき。
 あれは湖底のかなり深い処に生息していた。
 おそらくこの巨大タコもそうなのだろう。このタイミングで墨を吐いたからには……たぶん、ただの墨じゃない。マジでヤバい毒成分ぐらい含まれていても不思議じゃない。
 こいつは自分のフィールドにて、相手の自由を完全に奪ってから、ゆっくり捕食するつもりなのだ。

「――って、やばいじゃん! すぐに脱出しないと」

 いかに濃縮された竹瀝にて強化した竹人形とて、海の中は門外漢だ。
 急激な水圧の変化を直に受けたら、さすがにヤバい。
 だって竹の中身は基本的に空洞だもの!

 なので、すぐに客室から廊下へと出て、出口に向かうことにする。
 逃げる途中、タケノツチノコたちには先に待避するように命じる一方で――

「のんびり来た道を戻っていたら間に合わない。かまわないから、壁をぶち抜いちゃってちょうだい」

 麾下の者らにショートカットコースの作成を頼み、速やかに脱出を試みる。
 竹武者が刀で障害物切り裂き、竹忍者がクナイにつけた爆薬で邪魔な瓦礫を一掃し、竹砲兵が壁を吹き飛ばし、外へと繋がった道を通す。
 あとはそこをみんなで、いっきに泳いで突っ切るのみ。
 だが、しかし――

 ビキビキビキあらビキ……

 ふいにメキャリと天井が落ちるように下がってきたとおもったら、壁もくしゃりと潰れ、床もたわみ、せっかく開けた穴が大きな吸盤により塞がれてしまう。
 巨大タコが絡めた脚で、ギュッと船体を絞めているのだ。
 ものすごいチカラにて、沈没しても原型を留めるほどに頑丈だった船が、みるみるスクラップと化していく。

 あー、感覚的にはマッチョにクシャリと握り潰された、空き缶の中にいるような気分にて。
 私は冷や汗だらだら。
 これはちょっと、マジでしゃれにならないかもしれない。


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