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292 深愛のディレクティオ
しおりを挟む生者と死者。
哲学やら脳科学的観念などの小難しことはさておき。
世間一般的には自律稼働しているものを生きているといい、活動を停止したものを死んだとされている。
でも、それ以外にも私はこう考えている。
両者の決定的なちがい。
それは成長だ。
生きていれば学べるし、経験も積める、鍛錬すれば強くもなれる。
でも死んでしまったらそれまで。その瞬間、時が止まってあとは朽ちていくばかり。
ハートや勇者たちは生前の姿にて蘇った。
リミッターがはずれているせいで、以前よりもずっともっと強くなっている。
だがそれは本来、備わっていた力を十全に解放しただけにすぎない。
そこに成長はない。
一方でハートたちが止まっていた間も、私たちは歩き続けていた。
幾多の試練、強敵たちとの死闘を経て、いまここにいる。
だから負ける道理がない。
……と、考えていたんだけどなぁ。
その自信がはやくもぐらつき始めていたりする。
原因は、もちろんハートだ。
軍事介入を決断し、こうやって立ち向かっているんだけど。
ハートってば、サクタとベンケイを同時に相手にし、やや押されてはいるものの、なんだかんだでいい勝負をしているのだ。
サクタの大太刀が閃き、ベンケイの七つ道具による多彩な攻撃をもいなし、ときには強烈な反撃を放つ。
ちなみに七つ道具は、薙刀、刀、弓、矢、槍、手裏剣、鎖鎌にて、これらを単独もしくは組み合わせて戦うのがベンケイ。いろんな道具を駆使するのは竹忍者たちと同じだが、その戦闘スタイルは似て非なるもの。
対するハートは爪や腕などに、あの黒雷を帯ているから、危ないったらありゃしない。
黒雷とは……
日本神話に登場する雷神の一柱。
国生みの女神である伊邪那美命の死体から発生したとされている。
ハートは第二形態として黒雷を全身にまとい戦う。
パワーだけでなく、スピードまで格段にアップする凶悪仕様にて、その姿はまさに荒神のごとし。
ただし最大出力にて一気に敵を殲滅するがゆえに、あまり長くはもたない。
それを必要に応じて器用に小出しにしているだけでなく、巧いこと使いこなしている。無駄なく運用されているではないか!?
まぎれもない……これは成長だ。
だからこそ私は戸惑いを隠せない。
「……でもどうして? 前は全身まるごとしか使えなかったはずなのに」
守り砂を機能不全に追いやったハウリングボイスもそうだ。
シレっと新技を披露していたが、これもまたおかしな話にて。
「成長している? まさか地獄の底で修行していたとかじゃないでしょうね」
冷や汗たらりで、私は冗談を口にする。
そうしたらうしろから「あら? 当たらずも遠からずといったところかしらね」との声が聞こえたもので、ギョッ!
慌ててふり返れば、そこには白いローブ姿の女がいた。
赤い目をしたアンスロポス――
(この異様な気配、マギア濃度……間違いない! やはりイペアンスロポスだ!)
すぐさま距離をとり銃口を向けるも、私は内心とても焦っていた。
容易く背後を取られたからだ。いくらハートとサクタらの戦いに注意が向いていたとて、警戒はしていたというのに。
身構える私に女はクスリとの妖艶な笑み。
「ふふふ、ようやく会えたわね。コンコルディアから奇妙な連中がいると聞いていたから、ずっと会えるのを楽しみにしていたのよ。
私はイペアンスロポスの三賢人がひとり『深愛のディレクティオ』、以後、お見知りおきを」
ローブの裾を摘まんでは、優雅なカーテシーにてご挨拶。
釣られて「これはこれはご丁寧に」と私もいちおう返礼しておく。
ところでコンコルディアって誰?
三賢人とはなんぞや?
う~ん、教えてお姉さん。
とりあえず素直にお願いしてみたら、案外スラスラ答えてくれたところによれば……
三賢人とは、世界を矯正し、よりよい方へと導くことを使命としている者たちのこと。
調和のコンコルディア。
深愛のディレクティオ。
幸福のベネディクト。
このうちコンコルディアというのが以前にイーカリオス国の王城で見かけた老爺のことなんだとか。
ブリテアーズ国で対峙した陰陽師みたいなのは、コンコルディアの分身体であったらしい。
「あの子はねえ、たまたま冥府で見かけて、気に入ったからちょっと強引に連れてきちゃったの」
ハートの方を見ながらディレクティオは、シレっとんでもないことを口にした。
えっ、死体なしでも蘇生できちゃうの?
そんなのあり!?
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