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307 紫霧の決闘
しおりを挟む東西に真っ直ぐのびた一本道。
その距離は100メートルほど。
両端から飛び出したふたつの人影が中央へと向けて、みるみる近づいていく。
身を隠す場所はどこにもない。
必殺の間合い、少しでも優位な場所を求めて、ひたすら疾駆する。
弓VS銃の対決。
この勝負、先に一発当てた方の勝ちだ。
私はまだ銃を抜いていない。手に持つとどうしても上体のバランスが崩れて、走る速度に影響がでる。だからはやる気持ちを抑えて、ギリギリまで我慢する。
それはミライアも同じらしく、彼女もまだ弓に矢をつがえていない。
彼女の技量ならば待ちの姿勢で、狙い撃つことも可能だったはず。
なのに、あえて接近するのを選んだのは、より確実に私を仕留めるためだろう。
90……80………
薄煙る霧の彼方、近づくほどに互いの輪郭がじょじょに明確になっていく。
行き場のない殺意が路地に充ちては、ぶつかり合い、ギチリギチリと締めあげるようにして高まる緊迫感。
さなかのこと。
視界にほんのりと混じるのは、紫……
霧の色が変化しつつある。
(これがディレクティオが言っていたヤツか……べつに体力が奪われている感じはしないけど……って、げっ!)
事前の説明では、死合い開始から一定時間が経過すると、霧に変化が生じるとは聞かされていた。
いかにもな色だ。毒でも混入しているのかとおもえば、さにあらず。
私は竹肌に薄っすらと汗をかいているのに気がつく。
ただし竹人形は汗なんてかかない。いくら高性能とてそんな機能はない。
さりとて霜や露の類でもない。
では何かといえば、それは竹の表面がフツフツと溶解したことで生じる物質であった。
――紫の霧、その正体は酸性霧!
さすがに人体を溶かすほどの腐蝕性はないが、それでも鼻や喉、目に刺激を感じ、うっかり吸入すると肺水腫を引き起こすこともあるかもしれない。
ほぼ毒ガスにて、とても危険だ。
が、こちとら竹人形なのでちょっと溶ける程度ですんでいる。
ではミライアはどうかといえば、彼女もさして影響を受けていない模様。
まぁ、亡者だしね。
とはいえ、生身だったら即戦闘不能に追い込まれかねない。
なかなかにエグイ仕掛けである。
あの女、やはり底意地が悪い。
70……60……59、58、57、56、55…………
あらかじめ私がレッドラインに想定していたのは50メートル前後だ。
この距離ならば、まずはずさない。確実に当てられる自信がある。
射撃練習はしっかり積んでおり、いまの私は「早撃ち0.3秒」の腕前を誇る女ガンマンなのだ。
だから、その腕前を披露してやろうとしたのだけれども「……へっ?」
右手でホルスターから取り出した竹鉄砲。
こちらが銃口を向けるよりも先に放たれたのは、ミライアの矢であった。
目にも留まらぬ早射ち!
そんなバカな……銃を抜く前に視認した時には、彼女はまだ弓を矢につがえてさえいなかったというのに。
信じられない。0.3秒を追い抜く後の先なんて――
回避は……不可。
下手に体勢を崩したら、そこを二の矢に襲われる。
私は急遽、狙いの変更を余儀なくされた。
まず狙うべきは飛んでくる矢だ。
幸いにも正面から真っ直ぐに向かってきているので、軌道は読みやすい。
だからここは矢を無力化し、すぐさま反撃をと考えるも――ぶるり、悪寒がした。
――本当にそれでいいのか?
この期に及んで疑念が浮かび、私の中に迷いが生じる。
どうしたらいいのか決めるよりも先に、左手が勝手に動いていた。
両手に銃を持っての二丁射ち。
右の銃より放たれた弾丸で矢を弾いた直後のこと。
反射的に左手も引き金をひいており、撃ったのは矢の影である。
ミライアの放った矢。
その近くにまるで双子が寄り添うようにして影も追随していた。
べつに不思議なことではない。
ただし、それが霧煙る都でなければの話。
明るい場所ならば影は差すが、こんな状況下でくっきりと影が浮かぶことなんてありえない。
とどのつまり、ミライアは二本の矢を同時に、並走するようにして放っていたのである。
最初の矢へ対応して「やれやれ」と気を抜いたら、すかさず影に擬態していた二の矢に射貫かれるという寸法。
間一髪のところでミライアの影矢を見抜いたものの、対応するために半強制的に足を止めざるをえず。
出鼻を挫かれた格好にて、守勢にならざるをえない。
一方でミライアの勢いはまったく衰えず。
瞬足のままに風となり向かってくる。
この時点で、互いの距離が30メートルを切っていた。
私は彼女を迎え討つべく照準を合わせようとするも、それよりも先にミライアが地面を蹴っては跳躍し、壁から壁へと移動を開始する。
路地の狭さを逆手にとっての立体的な高速移動。
上下左右に斜め、自由奔放に飛び回る美兎に私の銃口は翻弄されるばかり……
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