異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

文字の大きさ
2 / 54

01 手の中の認めたくない現実。

しおりを挟む
 
「キミは何が好きかな?」

 初対面のオッサンにいきなりこんな事を訊ねられた。
 とっさに私の口から出た言葉は「チクワ」だった。

 学校帰りに立ち寄ったコンビニで、何故だかツマミ用のチクワが目についた。
 パリッと皮に焼き目がついており、細い竹に巻かれたソレがやたらと旨そうに見えた。手にとってみると想像していたよりもずっしりとした重みがある。手の中からはみ出すほどの大きさのわりに、百円という低価格にも惹かれた。
 ちょうど小腹も空いていたことだし、そいつを購入する。
 制服姿の女子高生がチクワ? とレジ係には少し怪訝そうな表情をされたけど気にしない。
 
 買った品をかじりつつ土手をブラブラ歩いて、夕暮れ時の散歩を楽しんでから家へと辿り着く。そして玄関の扉を開けたら、そこに見知らぬオッサンがいた。
 こんな人、うちの知り合いにいたっけかなぁと考えていると、あっちから声をかけられた。その第一声が先の問いかけである。
 で、ついものの弾みでかじりかけのソイツの名前を口にしてしまったと。
 するとそのオッサンは「はいはい、『チクワ』ねっと、じゃあ頑張って」
 そう言って、とんと押されて、ふらふらと体が玄関から外へと出てしまう。
 そしたら世界が一変していた。



 広く薄暗い穴の底に私はいた。
 服装こそは帰宅時のままだが、荷物の類が一つもない。上着のポケットの中にあったはずの携帯電話も見当たらない。よって救助要請は不可。
 落ち着くために、「ふぅ」とひとつ深い息をついてから周囲に目をやる。
 まるでデカい井戸の底のような形状、そのくせどこか厳かな雰囲気を持った場所。
 見渡すと壁際までかなり距離がある。
 ひんやりとした床一面に精緻な石畳が敷き詰められている。
 見上げるとずんと遠くにぽっかり空いた丸い穴があって、その先に青空っぽいのが微かに見える。
 とりあえず上に向かって「おーい!」と叫んでみたが、虚しく自分の声が反響するばかりで、応える者は誰もいない。
 
 壁際まで行ってみると、壁自体が所々ぼんやりと淡く発光していた。おかげでこんな穴倉なのになんとか視界を保てているようだ。これで真っ暗だったら私は発狂している。
 壁をぺたぺたと触って調べてみたが、ぴっちりと組み上げられた石の壁には指を差し込む隙間もなく、とてもではないが登れそうもない。
 まあ、よしんば登れたとしてもやらないけどな。
 そこそこ体力には自信があるものの、ロッククライミングの達人じゃあるまいし、途中で力尽きて落ちるのが関の山であろう。
 しようがないのでもといた中央部分に戻りつつ、冷静を装って現状を把握することに努める。
 ここは不思議と気温は低くないが、それとて後でどのようになるかわからない。

「もしかして誘拐された?」

 映画とかでよくある眠っちゃうガスをシューっとやられて、寝ているうちにここに運ばれたとか……。
 いや、うちのオヤジに身代金を払うほどの甲斐性はない。
 そんなのがあったら母が男を作って出て行くわけがないし、私がバイトに青春の大半を費やす必要もないはずだ。女関係で恨みを買っている可能性も捨てきれないが、それならば直接オヤジを殴り飛ばしたほうがよっぽどスカッとする。

「ならば若い女を狙った変態の犯行か!」

 いやいや、それなら五軒隣の女子大生の美幸さんを狙うだろう。
 なにせあっちはバインバインのミスコン荒らしだぞ。
 歩くエロスの化身、私だったら間違いなくあっちを攫う。そして揉む。

「よーわからん。そういえばあのオッサン、なんか言っていたな。『チクワ』がどうとか」

 そんなことをぼそっと呟いたら、手の平に違和感を感じて、気がついたらチクワが出現していた。とりあえずかじってみると、まごうことなきチクワであった。しかもなんか美味いしいし。

「まさとは思うが……、いやいやいや、ないないない。きっと気のせいだって。チクワもなんかの弾みで出てきたとか」

 ポンと二本目がまた出た。
 どうやら名称を口にすると飛び出す仕掛けのようだ。
 邪魔なのでとりあえず胃袋に収納する。
 
 地味に美味いんだよなぁ、これ……。さっきコンビニで買った奴よりずっと美味い。なんかこう、旨味? 味に奥行きあるというか、あと飽きないんだよねえ。
 一旦深呼吸をしてから、「チクワ」と唱えた。
 すると三本目が出現した。どうやら間違いないようだ。
 認めたくない現実が、いま私の手の中にあるんだもの。


しおりを挟む
感想 201

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。 その数、三十九人。 そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、 ファンタジー、きたーっ! と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと? でも安心して下さい。 代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。 他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。 そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。 はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。 授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。 試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ! 本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。 ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。 特別な知識も技能もありゃしない。 おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、 文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。 そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。 異世界Q&A えっ、魔法の無詠唱? そんなの当たり前じゃん。 っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念! えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命? いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。 異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。 えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート? あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。 なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。 えっ、ならばチートスキルで無双する? それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。 神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。 ゲームやアニメとは違うから。 というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。 それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。 一発退場なので、そこんところよろしく。 「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。 こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。 ないない尽くしの異世界転移。 環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。 星クズの勇者の明日はどっちだ。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

処理中です...