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28 賊賊二十五、乙女を動かす。
しおりを挟むいつものように目が覚めて、日課となっている朝のチクワ撒きへと村の広場に出かけると、そこに二十人ばかり無頼の徒が転がっていた。どうやら飢えた獣たちの群れに無造作に踏み入って、返り討ちにあったようだ。ただでさえ空腹でいきり立っているというのに、この人たちは自殺志願者なのだろうか?
そんなことを考えつつ眺めていたら、隣にいたシルバーが「こいつらはたぶん賊の類じゃろう」と物騒なことを言い出した。
とりあえずのびている手近な一人を蹴飛ばして起こし、チクワバズーカを突きつけて自供を促したところによると、残念なことにシルバーの読み通りらしい。
なんでも近頃、気前よく金や宝物や食い物をばら撒いている女がいるとのこと。
そんなら自分たちも少しお慈悲に縋ろうぜと考えて、徒党を組んでやって来たまではよかったのだが、来てみれば廃村で人っ子一人いやしない。建物の中にもろくすっぽモノが残っていないし、なんだガセネタだったのかと文句を垂れていたところ、気がついたら周囲をモンスターや獣らに囲まれて、そこから先はあまりの衝撃により記憶がないとのことであった。
ふーん、つまりコイツらは集団で女を襲っては、色々と悪さをするつもりだったってことか。
とりあえずチクワバズーカを思い切り振り抜いて、賊の男の後頭部を殴打して昏倒させた後、しばし考え込んだ私は全員を縛りあげると、シルバーやレッドに頼んであるところまで運んでもらった。
輸送先は湖型のスライムがいるところ。
ただのコソ泥ぐらいならば大目にみてやっても良かったんだけれども、徒党を組んでの押し込み強盗では話が違ってくる。いきなりこんな場所まで初心者集団が出張って来るとはとうてい思えないし、きっと連中はこれまでにも酷いことを繰り返してきたと私は判断した。
よって断罪する。
かといって三匹にはあまり人を傷つけさせたくないし、もちろん私も嫌だ。
だからあの子に任せることにした。あそこに放り込んじゃえば証拠も残らないしね。
「ごめんねー、嫌なことを頼んじゃって」
一仕事終えて帰ってきたフェンリルとファイアーバード。
私が謝るとレッドが「ケンケン」と鳴き、シルバーは気にするなと言ってくれた。
どのみち辺境では盗賊の類は捕まったら、縛り首と相場が決まっているんだそうな。
「そういえばあの子、元気にしていた?」
「おう、相変わらずの食欲じゃったよ。口直しにと持って行ったチクワにも喜んでおったわ」
「そう、それならよかった。また近いうちに大きな奴でも差し入れに行ってあげようかな。今回の迷惑料代わりに」
「ふふふ、ハナコはアレをも手懐けるつもりなのか?」
「そんなつもりは毛頭ないけどね。ただ森の先達にはそれなりに敬意を払うさ。こちとら勝手に押しかけて住み着いてる居候みたいなもんだしな」
そんな殊勝な言葉を口にしたら、カカカと小気味よくシルバーに笑われてしまった。
こんなことがあった数日後のこと。
日課のチクワ撒きへと出向いたら、今度は冒険者風の男性五人組がズタボロにされて倒れていた。
森の仲間たちが、「ねっ、僕たち殺してないよ。ちゃんと手加減したよ。エライ? えらい?」とでも言いたげな目でこっちを見つめてきたので、とりあえず全員にチクワを褒美として与えておく。
そういえば以前にシルバーに聞いた話では、優秀な冒険者ほどこっちのヤバさを悟って迂闊には近寄ってこないって話だから、きっとこいつらは優秀じゃないってことだな。
手近な奴を蹴飛ばして起こすと、頭にチクワバズーカの銃口をぐりぐり押しあてながら事情を聞き出したところによると、なんでも「どうやら野良聖女がいるらしいぜ」「とびきり気前がよくていい女らしい」「だったらオレらでモノにしちまおうぜ」「そうだな。聖女がパーティーにいるだけで箔がつくってもんだ」「聖女のおかげでオレたちの名声もあがり、ついでに夜は性女になってもらって、スッキリ爽快で一石二鳥だぜ」とかなんとかを目論んでのことであったとのこと。
話を聞き出したところでチクワバズーカをフルスイングして男を昏倒させ、どうしたもんかとシルバーらと協議することに。
はっきり言ってゲスな野郎どもだ。
私個人としてはこのまま湖型スライムの刑に処したいところである。だがこの野郎どもには冒険者ギルドが背後に控えている。こいつら馬鹿っぽいからきっと、こっちに来る痕跡をそこかしこに残しているに違いない。それを辿られて追跡とかされたら、あっという間にこちらに辿り着くだろう。そうしたら男たちの消息がプツリと途絶えている。そこから先は疑惑しか残らないだろう。
しこたまギルドと揉める煩わしい未来しか思いつかない。
「はぁー、面倒だけどこの荷物を返却がてら、一度ギルドとは話をつけておいたほうがいいみたいだね」
私のこの考えにシルバーも同意してくれた。
こうして私は不本意ながらも、廃村を出てギルドがあるという最寄りの大きな街にまで足を運ぶハメになってしまったのである。
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