にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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008 ミックスジュース

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 紅葉路を抜けて本家に到着した。
 あいかわらず大きくて厳めしい。玄関先から「ごめんください」とかける声がちょっと震える。これだけは何度やっても慣れそうにない。
 御所さまや、応対をしてくれるお手伝いさんたちとは、それなり打ち解けてきたとおもう。
 けど、それ以外がまるでダメ。
 普段からこの屋敷には他にも本家筋の人や、それに連なる方々が、大勢出入りしているというのだけれども、不思議と和香は誰とも顔を合わせたことがない。家の中はいつもひっそりしている。
 そのくせ、あのこちらを値踏みするような不躾(ぶしつけ)な視線は続いている。

 どうも和香がくるタイミングで、みなが一斉にサッと姿を隠しているらしい。まるで本当のネコのようだ。
 遠巻きにされているというか、避けられているっぽい?
 分家筋でもはしっこのみそっかす、それがずうずうしくも週末ごとに本家宅へとあがり込んでいるので、うとまれているのかも。
 ……嫌われている。
 そう考えたら、ちょっとへこまずにはいられない和香であった。

  ◇

 本家・奥の院にて――
 和香はさっそく御所さまに、さっき紅葉路で遭遇したアレについて報告した。

「ははは、そいつはツイてなかったねえ。でも相手にしなかったのはえらかったよ。もしも名前を呼ばれてうっかり返事なんぞしていたら、どこぞに引きずりこまれていたかもしれないからねえ。そうなると探すのにたいそう骨が折れるところだったよ。
 あっさり引き下がったみたいだし、どうやらからかわれただけみたいだね。今回のはあまり性質が悪いのじゃなくてよかった。
 おや? そうしたらこれはやっぱりツイていることになるのかねえ」

 ツイてる、ツイてない。
 憑いてないけど、やっぱり憑いている?
 なんぞとつぶやいては、ひとりニヤニヤしている御所さま。
 何がおもしろいのか、和香にはちんぷんかんぷん。
 お年寄りの笑いのツボは、小学生にはちょっと難しい。
 しかもただの老婆ではないので、なおさらだ。

 じつは御所さまの正体は猫又で、とっても長生き。
 音苗一族の始祖にあたる方にて、旦那さんはただの人間だったそうな。
 ちがう種族同士が結婚することを異類婚姻 (いるいこんいん)というそうで、昔はわりと多かったんだとか。
 ヘビと人、キツネと人、ツルと人、ウマ、サル、イヌ、カッパ、ネズミ、コイ、カメ、クモなどなど、はてはハマグリの貝まで!
 呆れるほどに多種多様にてマニアック、人間の守備範囲の広さには驚かされるばかり。
 だからこそ昔話にまでなって各地に伝わっているわけで……
 う~ん、もしかしたら昔の人は、こと恋愛に関しては超肉食系だったのかもしれない。

 人の姿のときの御所さまは、女親分さんみたいでカッコいい。
 そんな御所さまが、いまもこうして本家の奥の院に居座っているのは、ときおり子孫のなかにあらわれる和香のような先祖返りへ対応するため。
 だって、ほら、いきなり猫になっちゃったら、当人も周囲もどうしていいのかわからないから。
 でもって御所さまの基本方針は、君臨すれども統治はせず。
 困ったときの相談役みたいな立場にて、めったに表に出ることはない。
 子孫たちの行く末を見守っているのは……まぁ、オマケみたいなもの。アフターケアの一環とのこと。

 悦に浸っている御所さまを横目に、人の姿に戻っていた和香はコップのストローに口をつける。

 甘ウマ~!

 おもわず頬がほころぶ。
 飲んでいたのはミックスジュース、修行では何かとカロリーを消費するので、わざわざ手間をかけて用意してくれるのだ。
 いろんな果物をふんだんに使ったミックスジュースは、毎回、微妙に味が異なっており、それでいてハズレがないものだから、和香は楽しみにしている。
 今日のは白桃が贅沢に使用されておりなんともフルーティー、舌に残る果肉のつぶつぶ感が絶妙にて、ひと口含めば鼻から抜ける甘い香り、とたんにしあわせな気分に包まれる。
 和香が目尻をさげてはミックスジュースを堪能していると、ひとしきり笑って気がすんだのか、御所さまが言った。

「あー、今回は修行はナシだ。その代わりに猫嶽(ねこだけ)へ行くぞ。和香のことを役所に届けねばならんからな。講習を受けて免許を発行してもらう」

 猫嶽? 役所? 講習? 免許?
 いまいちピンとこない和香は、くわえたままのストローをズズズ……


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