にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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023 タヌキ推し

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 なかば草木に埋もれ朽ちた社、その陰からあらわれたのは二頭のタヌキであった。
 円らな瞳に、丸い耳、ずんぐりした体形にて、お尻も尾も丸みを帯びている。モコモコした毛玉っぷりがじつに愛くるしい。
 でも、よくよく見てみると顔つきは、ちょっとイヌに似ているかも?
 近頃では住宅街で見かけることもあるというが、和香は初めてだ。
 ちなみに本州に生息するタヌキはホンドタヌキといい、じつは日本にしかいない固有種だったりもする。なお北海道にいるのはエゾタヌキといい、体の大きさや毛の色や長さなどがちょっと異なっている。

(か、かわいい……。ぶっちゃけコアラとかパンダよりも、わたしは断然タヌキ推しだよ! あぁ、触りたい、ぎゅっとしたい)

 そんなことを考えつつ、和香がしげしげ眺めていたら「キュッ。(あのぅ)」
 遠慮がちに話しかけてきたのは、二頭のうちの雌タヌキの方。

「ミャー、クォーン、ウユーーン、ウユ~ン、ユンユン。(わたしはサンという者です。こっちの彼はパウロ。……あなたは誰なの? どうしてこんなところにネコが? というか、そもそもなんであなたはネコなのにわたしたちの――わたしたちタヌキの言葉がわかるの?)」

 矢継ぎ早やな質問に和香はやや気圧されるも、内心では安堵していた。
 サンの瞳には知性がうかがえ、言葉遣いもしっかりしている。
 大丈夫、これなら会話が成立する。

「にゃにゃにゃ、な~ん、ごろごろごろ。(えーと、わたしはワカ、ごらんのとおりの通りすがりのネコです。でもって、どうしてここにいるのかといえば、自分でもよくわからないの。気づいたらここにいたから。
 でもって言葉については、わたしの特技みたいなものかな)」

 白い手にさらわれたことは伏せておいた。なんとなくそうした方がいい気がしたから。
 すると雄タヌキであるパウロは「グルルルル、ウユ~~ン。(そうか……きっと捨てられたんだな。かわいそうに。人間どもは本当にどうしようもないな)」と嘆息する。
 タヌキは子だくさんで、父親も育児に積極的に参加するイクメンぶりがとみに有名だ。
 ゆえに、いったん家族として迎え入れたものを山中にポイ捨てするとか、ちょっとありえない。
 正体が人間である和香には耳が痛い話である。
 あと世の中の自称イクメンのかんちがい野郎どもは、みんなタヌキの爪のあかでも煎じて飲めばいい、ともわりと本気で思った。

 捨てネコうんぬんはパウロのかんちがいなのだけれども、和香はあえて訂正はせず。「ナァーゴナァ。(ははは、だよねえ)」と追従して誤魔化しておく。

「にゃにゃにゃん。(……ところでここはどこなの?)」
「ウワン、クォーン。(ここ? ここはどんぐり山よ)」

 サンの言葉に和香は尻尾をゆらゆら、ホッと胸を撫で下ろす。
 なぜならどんぐり山があるのは、ポンポン山のすぐ近くだからだ。
 歩いていると、ときおり足下からポンポンと鼓を叩くような音がするからポンポン山。
 一方でどんぐり山は、その名のとおり、どんぐりが豊富にて近在に住む野生動物たちの大切な食糧庫となっている場所。
 遠足のゴール地点よりさほど離れていない。これならば自分の足で向かうことも可能だ。
 だから、タヌキたちにポンポン山の方角を訊いて向かおうとするも……

 グゥ。

 腹の虫が鳴いた。
 なんとも控えめな音。
 誰かとおもえばサンであった。

「クルルルルルル……クゥ~ン。(ごめんなさい。ここのところちょっと色々あって、ちゃんと食べれていなかったから)」

 恥ずかしそうにモジモジ照れるサン。
 その姿がなんともかわいらしく、おもわず抱きしめてワシャワシャしたくなるほど。
 でも、この時点になって和香はようやくあることに気がついた。
 サンだけではない。
 パウロの顔にもやつれの色がある。きっと彼も同じなのだろう。
 食料が豊富などんぐり山で満足に食べれていない……この二頭、なにやらワケありっぽい。
 とはいえ、その土地にはその土地の事情がある。
 外部の者がうかつに首を突っ込むべきではない。さりとて見て見ぬふりをしてバイバイするのもいささか気が引ける。

(う~ん、袖振り合うも多生の縁とも言うしね。……よし!)

 和香は「にゃんにゃあ。(ちょっと待ってて)」と言ってから、近くの繁みの中へと。
 二頭からこっちが見えないところまで来たところで、自分の影へ手を突っ込む。
 猫又の影は秘密の収納庫になっており、人からネコへと変身する際には着ていた物や手荷物類は自動的に影の中へと取り込まれる。
 御所さまとの修行の成果にて、和香は影から自由に荷物を取り出せるようになっていた。

 ネコの手を突っ込み影の中をガサゴソ漁る。目当てはお弁当である。
 タヌキは雑食だと図鑑に書いてあった。
 本日のお弁当の中身はおにぎりに卵焼きや唐揚げなど、刺激の強い食べ物は入っておらずシンプルな構成となっている。なのでお裾分けしてもきっと問題ないはず。
 えっ、野生動物への餌付けはよくない?
 まぁまぁ、堅いことは言わないで。なにせいまの和香はネコなので。
 というわけで和香はお弁当の包みをくわえると、サンとパウロのもとへ戻った。


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