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025 野生の王国
しおりを挟む伝説の文太親分が残したという『タヌキの宝箱』
それがあれば仲直りできるかもしれないし、やっぱりできないかもしれない。
なんとも頼りないけれどもしょうがない。いかんせん肝心の箱の中身が不明なのだから。それでも賭ける価値はある。
サンとパウロはそう考えた。
というか、だったらさっさと確認すればよかったのに、いままでどうして開けなかったのだろう。
そこのところ、どうなっているの?
和香が訊ねると、サンはややうつむきぽつり。
「ウユ~ン、キュッキュッキュ。(それが……確かめたくともできなかったのです)」
理由は、宝箱の在り処を示した巻物。
群れがふたつに分かれるとき、当時の双方の頭領が先祖伝来の巻物の所有権を主張した。
だって、それを受け継ぐことは自分たちの正統性を示すことになるから。
当然ながら、話し合いはこじれにこじれて決裂する。
「グルルルルル。(これはオレのだ)」
「シャーッ! (いいや、オレのだ)」
ひとつの巻物を掴んでの引っ張り合い。
さなかにするり閉じ紐がほどけて、ぺろろんと帯のように広がった巻物。
にもかかわらず、まだ双方手を離さなかったものだから、ついには――
ビリリリッ!
巻物はふたつに裂けてしまった。
これにより前半部分を茂勢組が、後半部分を梅津組が所有することになった。
散々にモメたあげくに仲良く半分ことは、なんとも皮肉な話である。
でもって手元に残った半分だけでは宝箱へは至れず、さりとて協力するのなんてまっぴらごめんにて、現在までずっと手付かずとなっていたという次第。
だが幾星霜を経て、事態がついに動く。
なにせパウロは茂勢組の頭領の跡取り息子、サンは梅津組の頭領の娘である。
二頭は示し合わせて、代々受け継がれてきた秘伝の巻物を持ち出し、いざ宝探しの冒険の旅へ!
「ウユ~ン。(ちなみにこれがその巻物です)」
パウロがひと繋ぎとなった巻物を、わざわざ広げて見せてくれた。
にしても弁当ひとつでずいぶんと懐かれたものである。野生動物にとって食べ物を分け与えるという行為が、それだけ重きを置かれているということなのだろうけど。
和香は内心苦笑いしつつ、どれどれ。
巻物には地図にヒントとなるであろうシンボルの絵に、古代エジプトで用いられていた象形文字のようなものが記されてある。
が、和香にはちんぷんかんぷん。
なぜなら和香は動物たちと会話は出来るけれども、文字の読み書きはさっぱりだからである。
というか、タヌキが文字を使いこなしていたことこそが驚きだ。
そんなこと図書館の図鑑にも書いてなかった、世紀の大発見である。
ただ惜しむらくはこのことを世間に公表したとて、与太話として一笑に伏されるだろう。
「にゃにゃにゃにゃ? (それで宝の在り処はわかったの?)」
和香の言葉にサンとパウロは目を見合わせてからうなづくも、そのわりには表情が浮かない様子。
その原因はほどなくして判明した。
会話の途中で、和香のネコ耳がぴくりと反応する。
ザザザザザザッ――
かすかに聞こえてきたのは、草をかき分け駆ける音。
それもひとつじゃない。
複数の気配がこちらへと近づいている。
和香にわずかに遅れて異変に気づいたサンとパウロも、ハッとする。
「ヴゥゥ~ゥゥ! (いけない、もう追手が。きっとフォルたちだわ)」
「ウワワ~~、ウュン! (しまった。たぶん食べ物のニオイをかぎつけられたんだ)」
追手であった。
おそらくは双方の親が差し向けたのであろう。
目的はもちろん我が子の身柄の確保と、持ち出した巻物の回収、あるいはついでに残り半分も狙っているのかもしれない。
「ウワーン、ウワーン! (すぐに逃げよう。まだ捕まるわけにはいかない)」
「キュン、キュン! (そうね。さぁ、ワカさんも急いで)」
いっしょに逃げようとうながされて、和香は「ぬ? (なんで?)」
するとサンは「ウユン、ユ~ンユン。(どうしてって、捕まったら何をされるかわかりませんよ)」とちょっと呆れ顔で言った。
なにせタヌキは雑食である。多少の好き嫌いはあるものの、基本的にはなんでもドンと来いのスタンスにて。
でもって、ここは里とはちがう。
野生の王国だ。
そんなところに迷い込んだネコなんぞは……ねえ?
真っ青になった和香は、あわてて二頭に続いた。
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