にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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039 隻眼のカラス

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 人間とはじつにいい加減なものである。
 不安や警戒心も、時間が経つうちに次第に薄ぼんやりとなり、じきに忘却の彼方へと追いやってしまう。
 そんなある日の朝のことであった。

 ピピピピピ……

 アラーム音。
 軽く叩くようにして目覚まし時計のスイッチを切る。
 のそりとベッドから起きた和香は「う~ん」と背伸びをしてから、部屋のカーテンを開けたのだけれども。

 じーっ。

 視線を感じて、ハッ!
 向かいの家の屋根に留まっている、一羽のカラスと目が合った。
 いや、より正しくは『カラスの左目』とだ。
 石でもぶつけられたのか、そのカラスは右目が潰れており隻眼であった。
 やたらと存在感があって、和香は目が離せない。
 でも、そのときのこと。

「ちょっと和香~、ちゃんと起きてるの~? あんまりのんびりしていたら遅刻しちゃうわよぉ~」

 階下から聞こえてきたのは母・和子の声。

「うん、すぐいく~」

 返事をする和香。
 ふたたび窓の外を見るも、隻眼のカラスの姿はすでになかった。

「えっと、たしか……カラスと目が合ったら、すぐにそらしちゃダメなんだよね。にしても、ずいぶんと貫禄のあるカラスだったなぁ」

 カラスと目が合った場合、サッとそらすのはよくない。
 あわてて視線をはずしたり、背を向けたら逆に相手の攻撃行動を誘発する。
 だから見つめたまま、相手を刺激しないように、ゆっくりと後ずさりして距離をとるのが正解。
 そのことを和香は動物図鑑で学んでいた。

 ネコに変身すれば動物と会話できる和香。
 じつは前に一度、カラスたちと接触を試みたことがある。
 しかし結果は散々であった。
 理由は、カラスたちの血の気の多さ。
 どいつもこいつも、べらんめえ口調にてケンカっ早い。
 縄張り意識も強く、仲間とつるんでは他の集団との抗争に明け暮れている。
 ヤンキーマンガさながらでとにかくガラが悪い――トリだけに。
 あの時は、本当にひどい目にあった。
 よってたかって追いかけ回され、和香も懲りて「もう金輪際、カラスとは関わらないでおこう」と心に決めていた。
 だというのに……

 じーっ。

 次の日の朝も。
 そのまた次の日の朝も。
 そのまたまた次の日の朝は――ザアザア雨が降っていたのでいなかった――けど。
 雨があがった次の日の朝には……、やっぱりいた!

 毎朝毎朝、なぜだか和香の部屋がのぞける場所に陣取っている隻眼のカラス。
 さすがに偶然で片付けるのには無理がある。
 とはいえ、カラスに関わるとロクなことがない。
 だから和香は気づかないフリをして、無視を決め込む。
 けれども、ついに看過できない出来事が起こってしまった。

 それは下校時のことだ。
 スズちゃんと別れてひとり歩いていたら不意に背中がズシリ、いきなり重くなる。
 いったい何事かと驚き、首をひねって見てみれば、ランドセルにのっかっているカラスの姿があった。
 ここのところ日参していた隻眼のカラスの登場に、和香は目が点になった。

 濡羽色とも称されるカラスの黒い羽根。
 よくよく見てみたら真っ黒ではなくて青や紫などが混じっている。陽光の下では虹色に艶めき、とてもきれいだ。
 隻眼のカラスが和香を見下ろし、じーっ。
 翼を広げたり、くちばしで威嚇はしてこないけど、ひたすらじーつ。
 無言の圧力。
 こうまでされたら、いかに鈍い和香とてさすがに気がつく。
 どうやら隻眼のカラスは、何か伝えたいことがあるらしい。

「はぁ~~。もう、わかったわよ。あんたの話を聞けばいいんでしょ、聞けば……」

 和香は嘆息し、背にカラスをのせたまま向かったのはそばの路地裏。
 キョロキョロ、周囲を警戒する。
 いまだに和香に猫又疑惑を抱いている高槻悠太、彼がいないことを入念にチェックしてから、和香はネコの姿となった。

  ◇

 和香が姿をあらためたところで。
 隻眼のカラスが「カァカァ。(自分はジョーという者だ)」と名乗った。
 とある集団を率いるリーダーとのことだが、それを知って和香も「にゃんにゃにゃあ~。(だろうね。下っ端のオーラじゃないもの)」と納得する。それと同時に感心もしていた。なぜならこれまでに会ったカラスたちとはちがって、ちゃんと言葉が通じているから。
 ジョーは相当に知能が高いようだ。

「んにゃ? にゃにゃにゃな~~う。(それで、いったい何の用なの? 朝っぱらから自宅の方に顔を出したり、学校帰りに待ち伏せをしたりして。というか、どうしてわたしのことがわかったの?)」

 茜色のネコの姿ならばともかく、人間のときにわざわざ接触してきたということは、和香の正体に気がついているということ。
 ちょくちょく町中で顔を合わせているコテツらとて、いまだに茜色のネコの正体が小学五年生の女の子だとは知らないというのに。

「カァーッ、カッカッカッ、カカカ、カーァ。(あぁ、そのことか。あのノラネコどもは、良くも悪くもいろいろと抜けているからなぁ。その点、自分はこんな体だ。どうしたって他の連中よりも注意深くなる。それに……)」
「にゃ? (それに?)」
「カァーッ、クワックワッ、カーッ。(空の上からだと、あんたたちが考えている以上に、地上のことはよく見えているんだよ)」

 隠しているつもりでも、けっこう丸見えだったと教えられて、和香は己のうかつさに「あちゃあ」とおでこをペチリ。


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