にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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040 フライドチキン抗争

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「ふわぁ~~」

 目をしょぼしょぼさせ、ネコ姿の和香は歩きながらの大あくび。
 それも無理からぬことであった。
 なにせ今朝は新聞配達の人よりも早起きなのだから。

 まだ夜が明け切っていない、空の彼方がうっすら白じみだした頃。
 肉球越しに伝わる足下の夜気がひんやり。
 ただいま朝靄がたちこめる町を移動中にて。
 町はまだ目覚めておらず、しぃんとしている。

 茜色のネコを「カァ。(こっちだ)」と案内しているのは隻眼のカラスのジョー。
 暗い所では目が視えにくくなることを、トリ目というけれど。
 じつはカラスは目がとてもいい、夜間でもバッチリだったりする。
 だからこの時間帯でもへっちゃら。

 つい三日ほど前のことだ。
 しばしの様子見ののちに、ついに和香へと直接接触してきたジョー。
 ジョーの目的は「姐(あね)さんのお力を見込んで、ひとつ仲立ちを頼みたい」というものであった。
 仲立ち――揉めている連中をなだめて、和解させること。

 ジョーに教えてもらうまで和香は知らなかったのだけれども、いまこの町のとある場所では、動物たちの抗争が激化の一途を辿っており、危機的状況に陥りつつあるそうな。
 このままでは、じきに人間たちも重い腰をあげるだろう。
 そうなれば被害甚大だ。
 町の勢力図にも変化が起きる。外部からの流入組も増え、騒ぎがおさまるどころか、むしろ悪化しかねない。
 そしてもっともその影響を受けるのは、まだ爪も牙も育っていない非力な幼い者たち。
 ジョーとしては、なんとしてもそんな事態は避けたいという。

「カァ~~、カァ~~。(大人たちの都合で、泣かされるのはいつも女子どもたちだ)」

 なんてことをしんみり言われたら、さすがに和香も断わりづらい。
 結局押し切られた。とりあえず一度現場に足を運んでみるという約束をとりつけられてしまう。
 で、善は急げとばかりに、さっそく早起きをして出かけてみたのだけれども……

  ◇

 ジョーに案内された先は、とあるアパート。
 蔓に覆われた外壁は所々ひび割れている。すっかり色褪せた瓦屋根、パキパキになってあちこち割れているポリカーボネート波板の庇(ひさし)、歩くとカンカンやかましそうなサビだらけの鉄階段、ちょっと押したらポキリと折れてしまいそうな柵、守備力が低そうな玄関ドア、目隠しとしてはいささか心許ないすりガラスの窓、赤いペンキがはげてフタがパカパカしている集合ポスト……
 築三十年を優に超えているあろう、ボロ……げふんげふん、失礼。
 もとい、風情のある昭和レトロな二階建て木造アパートメント。

「んにゃ! (げげっ!)」

 和香はおもわずのけぞった。
 まさに一触即発といった感じで、現場の空気がとんでもなく張り詰めていたからだ。
 アパートの前にあるゴミ捨て場を挟んでは、にらみ合う者たち。
 どいつもこいつも目が血走っており、とてもイキリ立っている。
 エサ場を巡っての争いのようなのだけれども……

「ごろなぁ~う。(いくらなんでもこれは多すぎでしょ)」

 アパートの屋根にはカラスたちが、ずらずら~っと。
 敷地を囲むブロック塀の陰にはタヌキたちがいる。
 付近に路上駐車されている車の下にて目を光らせているのはイタチたち。
 少し離れた電柱の近くにてたむろしているのはアライグマたちだ。
 小集団ごとに分散しては、ゴミ捨て場を囲むよう配置についてる小さいのはネズミたち。
 かとおもえば、向こうから手勢を引き連れ堂々とあらわれたのは…………えっ、コテツ!?

 コテツは明るいシルバーグレーの毛色に、ブラックの縞模様が入った大きな鯖虎、この一帯のノラどもを執り仕切っているボスネコだ。面倒身のいい兄貴分にて、ネコ姿となった和香にも分け隔てなく接しては、気軽に話しかけてくれる。
 たいそう驚く和香。よもや、コテツまでもがこの抗争に参戦していようとはおもわなかった。

 集いし動物たち。
 彼らのお目当ては、アパートの住人が出す生ゴミである。
 この住人、無類のフライドチキン好きらしく、とにかくよく食べている。そのくせ大雑把な性格なのか、骨までしゃぶりつくすようなことはしない。
 肉の主なところだけをかじってはポイっ、贅沢な食べ方をしている。
 おかげで骨にはけっこうな量の肉が残っている。
 それこそが動物たちの欲するもの。
 とどのつまり、これはフライドチキン抗争であったのだ!

 ちなみにこの地域の生ごみの回収日は、月、水、金の週三。
 このうち休み明けの月曜日は、動物たちにとって特別な日となる。
 なぜなら週末を挟むがゆえに、ほぼ確実に大量のお宝をゲットできるから。
 でもって、本日はもっとも抗争が激化する月曜日の早朝であった。

 ジョーにダマされた!
 なぁにがまずは軽く様子見を――だ。いきなりガッツリにもほどがあるっ!
 和香は冷や汗たらり、すぐに現場から立ち去ろうとするも時すでに遅し。
 ガサっというゴミ袋を捨てる音がした。
 それが戦いの始まりを告げる合図となり、たちまち多数の勢力が入り乱れての争奪戦が始まった。
 巻き込まれた和香は「うんにゃあぁぁぁ~~」
 ネコの悲痛な叫びは、たちまち喧騒に呑み込まれた。


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