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第6話 おっさん、とんずらする
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――中央ゴレムス暦1582年6月1日 アウレア軍本陣
「ここにいても意味がないので撤退します」
『は?』
ノックスとドーガの声が重なった。
「いや、だからとっとと国に帰ろうぜって言ってるんだが?」
「ですが、ラグナリオン王国がどう言うか……」
「義理は緒戦の圧倒的勝利で果たしたでしょ。それに奴さんたち、明らかに防衛体制に入ってるし。そもそも補給がないのにいつまでもここに留まっていても無駄よ無駄」
とは言え無断で撤退すると要らない誤解を招くので、伝令は既に出してある。
それに恐らくアウレア大公国は兵站が整っていないと思われる。物資を送ってくれや!と頼んでようやく、えんやこらってところだろう。そもそも国内に残っている兵も少ないらしいので各地の防衛で手一杯なのでは?と推測した結果、出てくる答えは1つだけであった。
「兵が何やら忙しなく動いていたのは撤退準備でしたか……」
ノックスは合点がいったと言う表情をしている。
「念のため今夜、闇にまぎれて撤退するから」
「しかし松明を持って移動すればバレるのでは?」
「撤退ルートには目星は付けてある。暗くても動けるように印を用意している。って言うか、いつもどうしてたんだ? 星の位置とか見て決めてたとか?」
「アルデ将軍閣下に撤退の文字はないのかと……」
アルデ将軍はかかれ柴田かよと思いつつおっさんは溜め息をついた。
猪突猛進ってこっちで何て言うんだろうなんてことも考えていたりする。
「取り敢えず戻ったら軍制改革の必要がありそうだな」
とは言うものの、おっさんの正体がバレたらどうしようもないのだが。平時は大谷吉継のように頭巾を被っていたらしいので、そうするつもりだが声やら性格やら仕草やら諸々あるので、これもう分かんねぇなと思っていたりする。
身に危険が及ぶと考えるのが妥当なところであり、国外に脱出するのが手っ取り早いのだが。しかし異世界転移の原因がアウレア大公国にあるかも知れないと考えると悩みどころなのである。
「伝令ッただいま戻りましたッ!」
伝令が近くで下馬すると、手に持っていた丸められた羊皮紙を差し出す。
おっさんは受け取ってすぐに中身を改め始めた。
「あー何か聞かれたか?」
「はい。いつ撤退するのかと」
「言ってないよね?」
「言われた通りに伝えました」
「ならいい」
撤退期日を伝えなかったのは、どさくさで攻められると困るからである。恐らく味方だと見なされているだろうが、思い込みは禁物である。共に戦ってバルト王国の先軍を蹴散らしたとは言え、ついでにこいつらも潰しておこうとか物騒な考えを持たれると困るのだ。念のためで兵士を失う訳にはいかない。
実際のところ、背後にガヴァリム帝國の存在を抱えた状況の中、バルト王国と事を構えている時点でラグナリオン王国は、二正面で戦闘状態に入る危険性を重々理解している。そのためアウレア大公国に手を出すつもりも余裕もないことなど、おっさんが知る由もない。
―――
――アウレア大公国 公都アウレア
「お嬢ちゃん。喰いモンは逃げねぇぞ?」
そう言いながら女性……と言うより少女に見える小柄な女性に心配の言葉を掛けたのは、とある海鮮料理屋の店主であった。
「そんなこと分からないじゃない! 今、食べなくていつ食べるの? 今でしょ!」
何やら訳の分からないことを吠えるように叫びつつ、出された料理を片っ端から平らげている光景を見て店主は、まるで残念なものを見るような視線を送っていた。
「まぁお嬢ちゃんがいいんなら何も言わねぇけどよ……」
少女の名はレガシー。今日、飛龍に乗ってアウレアにやって来た。
目的は観光である。海に面しているので新鮮な魚介類を楽しめると聞いてわざわざレストリーム都市国家連合のトルナドから足を運んだと言う訳だ。普通に新鮮さを求めるだけなら海に面した都市国家がレストリーム内にもあるのだが、天然の生簀と呼ばれるアウレア湾内には他では味わえない珍しい魚が豊富に獲れるのである。
「へい、お待ちー。お嬢ちゃんの言った通りに捌いてみたぜ。こんなんでいいのかい?」
「これよこれッ! 確か刺身ってヤツね! なーんか別のホニャララ大陸の近くにあるナントカって島国でこう言うのが食べられてるらしいのよッ!」
「でもそのまま生で食べんのかい?」
「こいつ何にも分かってねぇな」とは決して口に出さない賢明な店主である。
「あッそうだったわッ……。何かつけるらしいんだけど……。あーもうメンドクサイからタレっぽいもの全部持ってきてッ!」
「あいよー」
ご丁寧にもレガシーの要求通りに色々持ってくる店主。
レガシーはそれを片っ端から試している。
小柄な金髪ゆるふわロングの見た目だけは良い彼女は、実のことろ都市国家トルナドの都市長の娘である。都市長と言ったら何となく民主的に選挙で決めそうな感じだが、実際のところは世襲制である。他の都市国家の中には選挙どころか、都市を武力占拠しちゃったヤベー奴すら存在する。一応、都市長の合議制で1つに纏まっているのがレストリーム都市国家連合と言う国家と言うか組織と言うか、よく分からないモノなのであった。
「はむッはむッ……がつがつ……むしゃむしゃ」
最早、構う者はいない。
ただただ、彼女の咀嚼音と食器の音のみが響いていた。
「うぃー。次の店行ってみましょうかねー」
レガシーの道楽は今始まったばかりだ!
「ここにいても意味がないので撤退します」
『は?』
ノックスとドーガの声が重なった。
「いや、だからとっとと国に帰ろうぜって言ってるんだが?」
「ですが、ラグナリオン王国がどう言うか……」
「義理は緒戦の圧倒的勝利で果たしたでしょ。それに奴さんたち、明らかに防衛体制に入ってるし。そもそも補給がないのにいつまでもここに留まっていても無駄よ無駄」
とは言え無断で撤退すると要らない誤解を招くので、伝令は既に出してある。
それに恐らくアウレア大公国は兵站が整っていないと思われる。物資を送ってくれや!と頼んでようやく、えんやこらってところだろう。そもそも国内に残っている兵も少ないらしいので各地の防衛で手一杯なのでは?と推測した結果、出てくる答えは1つだけであった。
「兵が何やら忙しなく動いていたのは撤退準備でしたか……」
ノックスは合点がいったと言う表情をしている。
「念のため今夜、闇にまぎれて撤退するから」
「しかし松明を持って移動すればバレるのでは?」
「撤退ルートには目星は付けてある。暗くても動けるように印を用意している。って言うか、いつもどうしてたんだ? 星の位置とか見て決めてたとか?」
「アルデ将軍閣下に撤退の文字はないのかと……」
アルデ将軍はかかれ柴田かよと思いつつおっさんは溜め息をついた。
猪突猛進ってこっちで何て言うんだろうなんてことも考えていたりする。
「取り敢えず戻ったら軍制改革の必要がありそうだな」
とは言うものの、おっさんの正体がバレたらどうしようもないのだが。平時は大谷吉継のように頭巾を被っていたらしいので、そうするつもりだが声やら性格やら仕草やら諸々あるので、これもう分かんねぇなと思っていたりする。
身に危険が及ぶと考えるのが妥当なところであり、国外に脱出するのが手っ取り早いのだが。しかし異世界転移の原因がアウレア大公国にあるかも知れないと考えると悩みどころなのである。
「伝令ッただいま戻りましたッ!」
伝令が近くで下馬すると、手に持っていた丸められた羊皮紙を差し出す。
おっさんは受け取ってすぐに中身を改め始めた。
「あー何か聞かれたか?」
「はい。いつ撤退するのかと」
「言ってないよね?」
「言われた通りに伝えました」
「ならいい」
撤退期日を伝えなかったのは、どさくさで攻められると困るからである。恐らく味方だと見なされているだろうが、思い込みは禁物である。共に戦ってバルト王国の先軍を蹴散らしたとは言え、ついでにこいつらも潰しておこうとか物騒な考えを持たれると困るのだ。念のためで兵士を失う訳にはいかない。
実際のところ、背後にガヴァリム帝國の存在を抱えた状況の中、バルト王国と事を構えている時点でラグナリオン王国は、二正面で戦闘状態に入る危険性を重々理解している。そのためアウレア大公国に手を出すつもりも余裕もないことなど、おっさんが知る由もない。
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「お嬢ちゃん。喰いモンは逃げねぇぞ?」
そう言いながら女性……と言うより少女に見える小柄な女性に心配の言葉を掛けたのは、とある海鮮料理屋の店主であった。
「そんなこと分からないじゃない! 今、食べなくていつ食べるの? 今でしょ!」
何やら訳の分からないことを吠えるように叫びつつ、出された料理を片っ端から平らげている光景を見て店主は、まるで残念なものを見るような視線を送っていた。
「まぁお嬢ちゃんがいいんなら何も言わねぇけどよ……」
少女の名はレガシー。今日、飛龍に乗ってアウレアにやって来た。
目的は観光である。海に面しているので新鮮な魚介類を楽しめると聞いてわざわざレストリーム都市国家連合のトルナドから足を運んだと言う訳だ。普通に新鮮さを求めるだけなら海に面した都市国家がレストリーム内にもあるのだが、天然の生簀と呼ばれるアウレア湾内には他では味わえない珍しい魚が豊富に獲れるのである。
「へい、お待ちー。お嬢ちゃんの言った通りに捌いてみたぜ。こんなんでいいのかい?」
「これよこれッ! 確か刺身ってヤツね! なーんか別のホニャララ大陸の近くにあるナントカって島国でこう言うのが食べられてるらしいのよッ!」
「でもそのまま生で食べんのかい?」
「こいつ何にも分かってねぇな」とは決して口に出さない賢明な店主である。
「あッそうだったわッ……。何かつけるらしいんだけど……。あーもうメンドクサイからタレっぽいもの全部持ってきてッ!」
「あいよー」
ご丁寧にもレガシーの要求通りに色々持ってくる店主。
レガシーはそれを片っ端から試している。
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「はむッはむッ……がつがつ……むしゃむしゃ」
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