おっさん、軍神として降臨す!

波 七海

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第11話 おっさん、村を出る

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 ――カノッサス近くの村

 村を襲っていた盗賊とそのアジトを潰したおっさんは、直ちに兵を動かした。
 三十二名の盗賊を捕虜としたのでその行軍は遅い。
 正直なところ、捕虜など取りたくはなかったのだが、一旦捕らえてしまった者を殺すのは流石のおっさんも気が引けたのである。
 盗賊が溜め込んでいた金銀は、襲撃を受けて死者を出した村長に渡しておいた。それを使って遺族や村の復興に役立てて欲しいと伝えたところ、村人たちは涙を流して喜んでいた。おっさんとしてもそうしてもらえるチョロイと大いに助かるのでバラ撒いた甲斐があると言うものである。

 謎のアイテムである銀の宝珠は、村の少年Aが持っていたもので、聞けば昔大怪我を負い、村へ流れ着いた兵士らしき人物の遺物だと言うことであった。何でも「いつかそれを必要とする者が現れる」と言われたらしい。その人物は恐らくこの世界の仕組みを知っている者だったのだろう。ちなみに彼は傷が元で亡くなったらしい。

 銀の宝珠について色々と試してみたのだが、使用すると【戦法タクティクス】を習得することができることが分かった。ちなみにこの宝珠だと【部隊挟撃】と言うもののようだ。おっさんが持っていない【戦法タクティクス】なので習得自体は可能なのだが、必ずしも習得可能と言う訳ではないようだ。習得しようとすると付与確率がおっさんの脳内に表示されたのである。
 もし習得済みであった場合はどうなるのかは試してみないと分からない。何となく予想はつくが、その【戦法タクティクス】を持っていない以上、おっさんの想像でしかない。

 次に試したのは他人への付与である。
 これはおっさんに限り、指定した者への付与が可能になると判明した。ドーガにも宝珠を使ってもらおうとしたのだが無理であった。変なアナウンス天の声?についても聞いてみたが、何も聞えなかったと言うことだ。
 最初は少年Aが兵士の経験がなかったために宝珠が使えないのかとも考えたが、ドーガも同様だったことから、恐らくおっさんのような存在しか扱えない物なのかも知れない。だが、結論を出すのは尚早である。宝珠と言うことはまだまだ種類があると見て間違いない。他にもアイテムがあるかも分からない。

 これが夢だろうがゲームだろうが

 取り敢えず、宝珠は少年Aから買い取った。
 幸い、見た目はただ美しいだけの宝石であるので、彼もその両親も扱いに困っていたそうだ。価値を正確に理解できなかったので行商人などに売ることもなくとっておいたそうだ。
 おっさんはドーガに価値を確認した上で多少色を付けてお金を渡しておいた。

 その後、一番近い都市カノッサスに再度先触れを出すと、おっさんは村を出た。



 ◆ ◆ ◆



 ――中央ゴレムス暦1582年6月15日 カノッサス

 カノッサス領主のブリンガー・ド・レーベ侯爵は苦々しい顔をしていた。

「そうか。貿易船が戻ったか……」

 首都アウレアの貿易省の主導で行われている世界各地との海洋貿易だが、ここカノッサスも様々な物品を輸出していた。しかしアウレアが莫大な利益を享受している一方、カノッサスはそれほどの恩恵に与っていない。本来ならば、船が無事に帰還したことは喜ぶべきことなのだが、レーベ侯爵は貿易船の知らせを聞く度にカノッサスの財政状況を突きつけられているようで頭が痛いのである。

 カノッサスには特産と呼べる物が少ない。
 平坦な土地、西から南に広がる山地を森林地帯。開拓もそれほど進んでおらず、平地は穀倉地帯と言えば聞こえは良いが、作付面積は決して大きくはない。そこでは主にコメ麦とラナ麦を育てている。近年、森林内で実験していたシィタケと言う茸の栽培にわずかな光明が得られたのは大きい。干シィタケはグレイシン帝國で良く売れるため、栽培方法を確立して何とかして増産したいとレーベ侯爵は考えていた。後、強いて挙げるなら西の山岳に鉄鉱脈があるのだが、かつて製鉄のための森林伐採により禿山を作り、領内に大規模な災害を引き起こした結果、鉄の生産が抑えられることとなったこと、それに加えて世界中で鉄が稀少な鉱物ではなくなったことなどの理由でそれほどの儲けにならなくなったのである。

「閣下、最早貿易はアウレア本国の独壇場です。しかも大公陛下はそれを地方へ分配する気がないご様子……。これでは格差は広がる一方ですぞ」
「……分かっているさ」

 カノッサスのレーベ侯爵家の家宰である、ロンメル・ジェイガンは小言のようなことを投げ掛けていた。本人も別に言いたくて言っている訳ではないが、仕えるお家が苦境にあるのを見て見ぬ振りなどできないのであった。

「いいえ、分かっておられません。我らはレーベテインに連なる者なのです。決して軽んじられる訳にはいかないのです」
「そうは言うがな……。我が祖先はレーベテイン王国が崩壊した時にアウレアに助けてもらった恩がある」

 レーベ侯爵がその表情をますます曇らせると、執務室のデスクに肘をついて額に手をやった。中央ゴレムス暦1496年にレーベテイン王国が分裂した際に、王族に連なる者は悉く処刑されたが、彼はアウレア大公国へと避難して難を逃れていたのだ。つまりレーベ侯爵はレーベテイン王国に連なる者の子孫なのである。

「閣下、アウレア本国は現在、大公国が置かれている状況を理解しておりません。大公殿下は軍制改革に着手しているようですが、国民は平和に慣れ、思考を停止させた者で溢れています。この世はまだまだ弱肉強食……それを忘れてしまっているのです。と言うより対岸の火事、自分たちには関係ないと考えている節さえございます。先の敗戦で反戦・平和を叫べば、争いは起こらぬと本気で考えている者すらいる状況ですぞ?」
「……理解しているつもりだ」
「いいえ! 理解しておられません!」
「ならばどうしろと言うのだッ!!」
「アウレア大公にも状況をご理解頂くのです」

 ジェイガンは故意に敬称を略した。
 それに気付かないレーベ侯爵ではない。顔を上げるとジェイガンの目を睨みつける。お前は本気で言っているのか言っている意味を理解しているのか?と言う鋭い視線である。

「この国はもう拝金主義者だらけの腐敗した社会となってしまいました。不平不満を持つ者は他にも多くいる、と言うことです」

 ジェイガンはレーベ侯爵に諭すように状況の説明を始めたのである。



 ◆ ◆ ◆



 ――中央ゴレムス暦1582年6月10日 公都アウレア

 時間は少し遡る。
 貿易船が無事に帰港したことで、今日もアウレア港は賑わいを見せていた。
 数日前に戻ってからずっとこの調子で、積み荷を降ろすのにも一苦労である。
 豪商が派遣した民間船も存在するため、港に人が尽きることはない。人の出入りは絶えず、大公ホラリフェオがいるこの場所にまで喧騒が聞こえてきそうな様子が見て取れる。

 白亜の城から港の様子を眺める、ホラリフェオの表情は明るい。

「無事に帰って来たようで何よりだ」
「真でございます。此度の利益も大きな物となりましょう」

 傍に控えていた通商卿の顔もホクホクだ。その声も明るい。
 アウレア大公国が貿易船を出しているのは何も一国ではない。今回帰国したのはグレイシン帝國との船であった。
 アウレアは国内に幾つもの直轄地を持っている。
 金鉱山、銀鉱山、銅山に加え、魔鋼ミスリル鉱山など重要な場所は大抵アウレアが抑えている。輸出品の要となる銅、魔鋼ミスリル、硝石、硫黄、絹織物など様々だが主要な品目はアウレアの直轄地から採れるため、利益はアウレアがかなりの割合を占めている状態であった。時折、走竜が輸出されることもあると言うことである。野生の走竜が生息する地域は限られているため、その価値は計り知れない。

「ふはははは。これで我が国も増々豊かになろう」
「陛下のお陰で民は、かつてないほどの豊かさを享受しております。不満の1つもないでしょう」
「流石は大公陛下でございます。まさに賢君クレイヴァ公の再来とまで民からは聞こえてまいりますぞ」

 上機嫌な大公にここぞとばかりにすり寄るのは通商省の文官たちだ。彼らは決して少なくない貿易黒字の恩恵に与っている。要するに既得権益に深く関わっていると言うことだ。

「ほう。かの賢君とな? それは名誉なことよ。だがまだまだだ。私は必ずやラグナリオンとバルトに鉄槌を下さねばならん。かつての我が国の……いや、レーベテイン王国の頃の版図を取り戻すのだ。そのためには軍備だ。兵力も装備も足らぬ」
「はッ! 魔鋼ミスリルは豊富に採掘できておりますので武器や防具は急ピッチで鍛冶師たちに製造を依頼しております。ですが……」

 言葉を濁す軍務卿に、ホラリフェオとしてもその原因に心当たりがあるので大きく溜め息をつく。

「分かっておる。兵が集まらんのだろう?」

 アウレア大公国は過去は徴兵制を採用していたが、敗戦後は民の自由な権利を侵害してはならないと言う名目内政干渉を受けて志願制になっていた。特に戦争をすることもなく、国家が富み、豊かな生活に慣れきってしまった国民が兵士に志願などするはずもない。また、敗戦により貴族諸侯が自分たちの兵を出し渋るようになったのだ。

「アルデ将軍からは金で雇えと助言を受けたが……」

 ホラリフェオ自身はその考えに賛成なのだが、財務卿を筆頭に軍事に金を出したくない勢力脳内お花畑の平和ボケがいるため、中々採決出来ないでいたのである。

「他国の傭兵では更に金がかさみます」
「うむ。何とか国内から雇いたいところだ」

 ホラリフェオも軍務卿も腕を組んで難しい顔になってしまう。
 実際に兵士にはそれなりに高額な報酬を提示しているので、良い失業者対策や治安面の改善なども期待できるのだが、強引に押し通せない辺り民主国家の限界敗戦国の悲しい性である。

 大公ホラリフェオは、護持ごじできなかった国体と腐りきった政治を前に己の無力さを嘆き、強国への復古を夢想する。
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