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第17話 おっさん、アウレアに向かう
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――中央ゴレムス暦1582年6月18日 カノッサス郊外
結局、カノッサスで3日も足止めをくらってしまった。
それでも歩兵部隊はまだ追いついてこないので、やはり走竜の名は伊達ではないようである。乗り心地は良くないが、アドよりも断然速い。快適さなど道具でカバーすれば良いのだ。
レーベ侯爵には引き止められたのだが、いつまでもお世話になる訳にもいかないだろう。その代りにおっさんも助言や合同訓練をしたのであまり気にする必要もないのかも知れないが。
「アウレアまで3日ほどか。長かったな」
「そうですか? 閣下のお陰でたった1か月程度でケリが着きましたからな。その程度で終わって私は感謝しておりますが?」
「そう言うもんか?」
「そう言うものです」
ドーガ曰く、戦争になれば戦場に何か月も留まることも珍しくないらしい。
糧食は現地調達が多いと言うことなのでやはり兵站は整っていないようである。
日本でも兵糧が尽きたら国へ帰るのが普通だった。現地で乱妨取りなんてのもあったし。補給や兵站次第で戦場にいる時間が大きく左右されそうではある。
「帰ったら領内統治の把握だな。ドーガくん、また色々と教え――再確認させてくれ」
「承知致しました……。しかし教えて頂けんのですか?」
「ん? 教えてもらうのは俺の方なんだが?」
「いえ、閣下。一体閣下の身に何が起こったのかと言うことです」
ドーガの思いがけない一言におっさんは軽く動揺する。
一応、気を遣ったのか小声だったのでガイナスには聞こえていないようで、特におっさんの方を気にする素振りはない。
「あー何言ってんだ?」
「全て指摘した方がよろしいので?」
走竜を走らせながら隣を行くドーガの目を直視すると、速く説明しろよと言う感情が宿っているのが見て取れた。これはしらばっくれるのは無理そうだとおっさんは覚悟を決める。どうせこのままいつまでも誤魔化せ続けるとは考えていない。たまたま病気で頭巾を被っていたり面頬を付けていたりしたので顔は知られていないだろうが、おっさんがこの世界に降臨してからの態度は明らかに不審過ぎである。
問題はどこまでドーガを信じられるかなのだが――
おっさんはまだ自分の顔を確認していない。
果たしてアルデと言う人物の顔のままなのか、おっさん自身の顔に変わっているのかは不明である。顔に変化がなければまだ誤魔化し様はあるかも知れないが、それでもおっさんの正体を知っている者がいると言うのは心強くはある。何でも打ち明けられるのは大きいメリットだ。
「(覚悟を決めるか)」
【個技】や【戦法】があれば最悪、どこでも生きていけそうではある。新天地で人生をやり直すことも可能だろう。
おっさんが無言を貫いているのをどう思って聞いているのか、ドーガもまた追求するのを止めていた。待っているのだ。おっさんの言葉を。
「分かった。次の大休止で相談させてくれ」
「御意」
おっさんは腹を括ることにした。
◆ ◆ ◆
同じ頃、アウレア平原では――
大公ホラリフェオは、公務の間にイーグ狩をするためにアウレア平原を訪れていた。
イーグとは鷹を1回り大きくしたような猛禽類で、性格は凶暴、手懐けるのには相当の訓練が必要だ。彼のイーグは、アウレア大公国とレストリーム都市国家連合の国境沿いの森林地帯で偶然捕らえることができた大物である。
旧レーベテイン王国の頃からイーグ狩は武門の習いであり、武闘派貴族の嗜みであった。ホラリフェオが目指す強国への復古を国内に示すことが目的の1つである。
今回はネスタト領主のオゥル伯爵、カノッサスのレーベ侯爵を始め首都アウレアで武官を務めている貴族たちが参加して大規模に開催する予定……だったのだが、レーベ侯爵は急病で不参加と言うことになってしまった。
ホラリフェオは今、廃村の中にある今にも崩れそうなあばら家の中にいた。
目の前には2人の若い男女が跪いている。
「よい! 面を上げてお主たちもそこらへ腰掛けるがよい」
『はッ!』
2人は恭しく頭を下げると、言われた通りにホラリフェオが腰掛ける床几の前にある廃材のような朽ちかけた木の台に座った。
「此度はよくぞ我が国に戻って来てくれた。礼を言うぞ」
「いえ、礼を申し上げるのはこちらの方でございます。ノーランド地方の平定に着手して頂きありがたく存じます」
「これで私たちの村を滅ぼした賊徒共……ガラハドを追いつめてノーランド様の仇を討つことができます」
初めにスカイシルバーの髪をした男――ソルレオが、次にマゼンタシルバーの髪をポニーテールにした女――ノルレオがお礼の言葉を返す。
まだどこかあどけなさの残る2人は同じ顔を持っていた。
彼らは一卵性双生児、つまり双子の姉弟であった。
「うむ。ガラハドはノーランドの湖上島に籠っておる。アルデ将軍が戻った時があ奴の最期よ」
ホラリフェオの言葉に力が籠る。その表情は忌々し気だ。
ガラハドはノーランドの豪族でその天嶮の要害に立て籠もってアウレアの支配に抵抗し続けてきた。どこかに抜け道でもあるのか物資が尽きることもなく、ホラリフェオは長年に渡って攻めあぐねていたが、最近になって支援していたのがラグナリオン王国であることが判明したのだ。
だからと言ってどうすることも出来なかったのだが、ヘリオン平原でラグナリオン、バルト両国の対立が本格化したことで事態は動いた。今回のヘリオン平原での戦いで味方することを条件にノーランドへの支援を打ち切る約束を取り付けたのであった。アルデ将軍に伝わったかはまだ分からないが、これでノーランドのガラハドは孤立無援となり、長年の争いに決着が付くはずである。アウレアは領内で火種を抱えていたのだ。
「そなたらの武勇は聞き及んでおる。亡きノーランド卿の仇を討ちその悲願を果たすが良かろう」
『はッ!』
あばら家にノルレオとソルレオの威勢の良い声が響いた。
◆ ◆ ◆
――中央ゴレムス暦1582年6月19日
ネスタトからアウレア平原へ至る街道
オゥル伯爵は側近とイーグ匠を連れて平原を疾走していた。
目的は大公ホラリフェオとのイーグ狩である。
「(クソがッ……鬼哭関のテイン家の若造のせいでギリギリになってしまったわッ! 全く忌々しい! 戻ったら必ずいたぶって殺してやる)」
オゥル伯爵はかなり前から、忙しい大公の予定に今回のイーグ狩の約束を取り付けていた。現在のところ、おおよそ計画の通りにことは推移しており抜かりはない。
鬼哭関は難攻不落の要塞なので、幾ら籠る兵が寡兵で内外から攻めたとしても元々すぐに落とせるとは考えていなかった。
「一撃で全てを決めなければならん」
オゥル伯爵はそうアド上でそう呟く。
そのために関係する者が時を同じくして一斉に行動を開始する必要があるのだ。
オゥル伯爵領の『聖戦騎士団』が一五○○。
グラケーノ将軍率いるバルト王国軍が三○○○。
カノッサスのレーベ侯爵軍が一〇○○。
その他も幾つかの軍勢が参加する予定である。
それに障害になりそうなアルデ将軍はアウレア主力を率いて遠い異国の地にいる。
アウレア大公国が要人の大半を失えば、必ずや事は成る。
オゥル伯爵はどうせ聞こえはしないだろうと思いながらも、アドを走らせながら嗤い声を噛み殺した。
全てはアウレア平原で決まる。
結局、カノッサスで3日も足止めをくらってしまった。
それでも歩兵部隊はまだ追いついてこないので、やはり走竜の名は伊達ではないようである。乗り心地は良くないが、アドよりも断然速い。快適さなど道具でカバーすれば良いのだ。
レーベ侯爵には引き止められたのだが、いつまでもお世話になる訳にもいかないだろう。その代りにおっさんも助言や合同訓練をしたのであまり気にする必要もないのかも知れないが。
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「そうですか? 閣下のお陰でたった1か月程度でケリが着きましたからな。その程度で終わって私は感謝しておりますが?」
「そう言うもんか?」
「そう言うものです」
ドーガ曰く、戦争になれば戦場に何か月も留まることも珍しくないらしい。
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日本でも兵糧が尽きたら国へ帰るのが普通だった。現地で乱妨取りなんてのもあったし。補給や兵站次第で戦場にいる時間が大きく左右されそうではある。
「帰ったら領内統治の把握だな。ドーガくん、また色々と教え――再確認させてくれ」
「承知致しました……。しかし教えて頂けんのですか?」
「ん? 教えてもらうのは俺の方なんだが?」
「いえ、閣下。一体閣下の身に何が起こったのかと言うことです」
ドーガの思いがけない一言におっさんは軽く動揺する。
一応、気を遣ったのか小声だったのでガイナスには聞こえていないようで、特におっさんの方を気にする素振りはない。
「あー何言ってんだ?」
「全て指摘した方がよろしいので?」
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問題はどこまでドーガを信じられるかなのだが――
おっさんはまだ自分の顔を確認していない。
果たしてアルデと言う人物の顔のままなのか、おっさん自身の顔に変わっているのかは不明である。顔に変化がなければまだ誤魔化し様はあるかも知れないが、それでもおっさんの正体を知っている者がいると言うのは心強くはある。何でも打ち明けられるのは大きいメリットだ。
「(覚悟を決めるか)」
【個技】や【戦法】があれば最悪、どこでも生きていけそうではある。新天地で人生をやり直すことも可能だろう。
おっさんが無言を貫いているのをどう思って聞いているのか、ドーガもまた追求するのを止めていた。待っているのだ。おっさんの言葉を。
「分かった。次の大休止で相談させてくれ」
「御意」
おっさんは腹を括ることにした。
◆ ◆ ◆
同じ頃、アウレア平原では――
大公ホラリフェオは、公務の間にイーグ狩をするためにアウレア平原を訪れていた。
イーグとは鷹を1回り大きくしたような猛禽類で、性格は凶暴、手懐けるのには相当の訓練が必要だ。彼のイーグは、アウレア大公国とレストリーム都市国家連合の国境沿いの森林地帯で偶然捕らえることができた大物である。
旧レーベテイン王国の頃からイーグ狩は武門の習いであり、武闘派貴族の嗜みであった。ホラリフェオが目指す強国への復古を国内に示すことが目的の1つである。
今回はネスタト領主のオゥル伯爵、カノッサスのレーベ侯爵を始め首都アウレアで武官を務めている貴族たちが参加して大規模に開催する予定……だったのだが、レーベ侯爵は急病で不参加と言うことになってしまった。
ホラリフェオは今、廃村の中にある今にも崩れそうなあばら家の中にいた。
目の前には2人の若い男女が跪いている。
「よい! 面を上げてお主たちもそこらへ腰掛けるがよい」
『はッ!』
2人は恭しく頭を下げると、言われた通りにホラリフェオが腰掛ける床几の前にある廃材のような朽ちかけた木の台に座った。
「此度はよくぞ我が国に戻って来てくれた。礼を言うぞ」
「いえ、礼を申し上げるのはこちらの方でございます。ノーランド地方の平定に着手して頂きありがたく存じます」
「これで私たちの村を滅ぼした賊徒共……ガラハドを追いつめてノーランド様の仇を討つことができます」
初めにスカイシルバーの髪をした男――ソルレオが、次にマゼンタシルバーの髪をポニーテールにした女――ノルレオがお礼の言葉を返す。
まだどこかあどけなさの残る2人は同じ顔を持っていた。
彼らは一卵性双生児、つまり双子の姉弟であった。
「うむ。ガラハドはノーランドの湖上島に籠っておる。アルデ将軍が戻った時があ奴の最期よ」
ホラリフェオの言葉に力が籠る。その表情は忌々し気だ。
ガラハドはノーランドの豪族でその天嶮の要害に立て籠もってアウレアの支配に抵抗し続けてきた。どこかに抜け道でもあるのか物資が尽きることもなく、ホラリフェオは長年に渡って攻めあぐねていたが、最近になって支援していたのがラグナリオン王国であることが判明したのだ。
だからと言ってどうすることも出来なかったのだが、ヘリオン平原でラグナリオン、バルト両国の対立が本格化したことで事態は動いた。今回のヘリオン平原での戦いで味方することを条件にノーランドへの支援を打ち切る約束を取り付けたのであった。アルデ将軍に伝わったかはまだ分からないが、これでノーランドのガラハドは孤立無援となり、長年の争いに決着が付くはずである。アウレアは領内で火種を抱えていたのだ。
「そなたらの武勇は聞き及んでおる。亡きノーランド卿の仇を討ちその悲願を果たすが良かろう」
『はッ!』
あばら家にノルレオとソルレオの威勢の良い声が響いた。
◆ ◆ ◆
――中央ゴレムス暦1582年6月19日
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オゥル伯爵は側近とイーグ匠を連れて平原を疾走していた。
目的は大公ホラリフェオとのイーグ狩である。
「(クソがッ……鬼哭関のテイン家の若造のせいでギリギリになってしまったわッ! 全く忌々しい! 戻ったら必ずいたぶって殺してやる)」
オゥル伯爵はかなり前から、忙しい大公の予定に今回のイーグ狩の約束を取り付けていた。現在のところ、おおよそ計画の通りにことは推移しており抜かりはない。
鬼哭関は難攻不落の要塞なので、幾ら籠る兵が寡兵で内外から攻めたとしても元々すぐに落とせるとは考えていなかった。
「一撃で全てを決めなければならん」
オゥル伯爵はそうアド上でそう呟く。
そのために関係する者が時を同じくして一斉に行動を開始する必要があるのだ。
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その他も幾つかの軍勢が参加する予定である。
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