おっさん、軍神として降臨す!

波 七海

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第39話 偽大公の末路

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 ――中央ゴレムス暦1582年7月2日 11時頃

 アウレア大公国はこの日、むせ返るような暑さであった。
 日差しが強い上、ひどく蒸し暑い。

「コンポール……ここはどこだ……?」

 喉も口の中も乾いて上手く話すこともままならない。
 そんな言葉を吐いたのはアウレア平原から逃亡中のネフェリタスであった。

「陛下……ネスタトの西付近でございます」
「そうか……余は喉が渇いた……水を所望する」
「この付近に水源は……うん? 陛下、村が……村らしきものが見えますぞ!」
「村……? そうか! すぐに案内せい!」
「はッ!」

 コンポールは甲斐甲斐しくもふらふらなネフェリタスを支えながらその村へと向かう。牛歩のような進みながら近づいていくと前からやってくる1人の村人と鉢合わせた。

「ん? おい、あんたら大丈夫かい? 上等な服を着ているようだがどこかの貴族様なのか?」

 コンポールは重い鎧を脱ぎ捨てて簡素なローブ姿であったし、ネフェリタスはそもそも鎧を着るのを嫌がって普段の高級な衣服を纏っていたのだ。
 そんな2人がふらふらと歩いているのだ。何も聞かないでくれと言っても聞かない奴はいないだろう。

「おお、お前はここらに住んでいるのか?」
「あ、そうだが?」

 その質素な格好をしている村人は何故か少し嫌悪感のこもった声を上げる。

「実は喉がからからでな。水をくれぬか?」
「今から俺は狩猟に行くんだ。他を当たりな」
「その腰からぶら下げている筒を渡せと言っておるッ! 中身は水であろう?」

 比較的丁重に頼んでいたコンポールの横からネフェリタスが口を挟んだ。
 じれったくなったのである。
 大公に小汚い村人が対等に話しているのも気に喰わない。

「あ? それがどうした。誰だよテメーは」
「余か? 見て分からんとはやはり下郎げろうよ。余はアウレア大公のネフェリタス・エクス・アウレアウスよ」

「何ッ!? あの偽大公か? お前はあの謀叛人なのかッ!?」

「口を慎めッ! 偽だと? 謀叛人だと? 貴様処刑されたいのかッ!」

「処刑? そんなナリで処刑なんかできんのか? それに兵士だっていねぇじゃねぇか」
「そんなことは関係ない。余が上でお前が下。それで十分であろうがッ! さっさと水をよこさんかこの慮外者りょがいものがッ!」
「陛――」
「おお!? この状況でよくそこまで言えんなテメーは。これかこれが欲しいのか?」

 コンポールが口を挟もうとするが、呆れと苛立ちの交じった声で村人がそれを遮る。そして水筒を腰から外すと栓を開けた。
 それを見たネフェリタスはようやく渡す気になったかこのタコ助はとご満悦だ。

「ようやく渡す気になったか。最初から――」

 ネフェリタスはそこまで言って絶句する。
 コンポールも茫然としたまま固まっていた。

 村人が水筒に口を付けて一気飲みを始めたからだ。

「んぐッんぐッ……ぷっはーーーーー! うめぇ!」

「貴様何をしておるッ!」
「え? 水を飲んでるんだが?」
「何をしておると聞いておるッ!」
「だーかーらー水を飲んでるんだが?」

 激昂するネフェリタスの隣でコンポールは青い顔をしている。

「も、もうないのか? まだあるだろう?」
「あーあるある。ほら」

 焦るネフェリタスはに向けて村人は超適当に返事をすると水筒を下に向けた。
 水の入ったコップを逆さまにしたとする。
 当然、水は下に流れ落ちる。
 常識である。

 続いて固まったのはネフェリタスであった。
 何が何だか分からない。
 大公が命令したのにその命令を聞かない奴がいる。
 ネフェリタスはその事実に震えはじめた思考回路はショート寸前だ

 だばだばと水は流れだし、水筒は空になってしまった。

「あ、なくなっちまった。しゃーない一旦帰るか」
「待て待て待ってくれ! すまない。水を分けてくれないか? 非礼を詫びよう。金も渡すから――」
「コンポール、何を言っておる。余の命令に逆らったのだぞ? さっさと討て!」

 コンポールの懇願を台無しにしたのは、天下の大公陛下であった。
 前に偽と付くのだが。
 ここに至ってようやくコンポールは何故俺はこの男に仕えているんだ?と言う思いが脳裏を過ったのであった。

「そうかい。俺を討つのか。まぁいい。そんなに言うなら村に案内してやるから付いてきな」
「おお、ようやくその気になったか! ほれさっさと案内せよ。めしも用意するのだぞ」

 歩き出す村人にネフェリタスはほいほいと付いていく。
 そしてすぐ近くにあった村に到着すると、村人は大声で全員に召集をかけた。
 なんだなんだと村に住む人たちが集まってくる。
 ネフェリタスはそれを怪訝な目で見ていたが、今はとにかく水が飲みたい。ついでに何か食べて風呂にはいり、すぐに横になりたいところであった。

 しかし、起こったのはネフェリタスの願っていないことであった。
 激痛が顔面に走る。

「ぐおおおおうぅぅ……」

 額を押さえてうずくまるネフェリタス。
 彼はめしを喰らわずに石礫いしつぶての雨を喰らったのだ。

「この謀叛人っ! よくも……よくも!」
「偽物がッ! お前のせいでオゥル様が!」
「そうだ! オゥル様まで巻きこみがって!」

 今度は石礫と共に罵声まで一緒に飛んできた。

 ここはネスタトの西にある村。
 当然オゥル伯爵領である。

「があぁぁぁぁぁッ! 痛い痛い……止めろッ止めてくれッ!」

 必死に体を丸めて石が当たらないようにしていたネフェリタスに救いの言葉がもたらされる。いや、内容は絶望するものであったのだが。

「皆、止めるんだ。こいつはここで殺しちゃいけねぇシルフィーナ様たちに何か勘違いされるかも知れねぇ。こいつは突き出すんだ。そうすりゃ褒美だってもらえるかも知れんぞ?」

「た、確かに……それにオゥル様の誤解だって解けるかも」
「だよな! オゥル様が裏切り者なんてそんなはずがねぇ」
「よし。コイツを縛り上げるぞ!」

 聞きたくない言葉がネフェリタスの耳に入ってくる。
 何故、大公である自分がこんな目に遭わなければならないのか理解できなかった。

「コ、コンポール! 何をしておる。余を助けぬかぁ!」

「あー気付いてなかったのか? あのっさんなら大分前に姿をくらませたぜ?」

「えぁ?」

 文字通り絶句して固まってしまったネフェリタスは、村人たちに縛り上げられ、後日、村を訪れたアルデの部隊に引き渡されたのであった。
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