おっさん、軍神として降臨す!

波 七海

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第76話 苦悩のホーネット

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 ――中央ゴレムス暦1583年2月24日
   アウレア

 サースバードの戦いで対おっさんの要であったジィーダバを失ったことで、ホーネットは焦っていた。

「どうすれば良い……このままではアウレアをアルデ将軍に乗っ取られてしまうぞ……。最近はニワード伯爵の動きも鈍い……」

 執務室のデスクで貧乏ゆすりをしているホーネットにスワンチカが寄り添う。
 普段は執務室などには来ないのだが、最近のホーネットの態度を心配した彼女はなるべく近くにいるようにしていたのである。

 スワンチカもジィーダバの後ろ盾を失った今となってはホーネットと一蓮托生であったし、お互いに15歳と言うこともあってホーネットのことは誰よりも気に掛けていた。

「だいたいバルト王国討伐はどうした。きっと裏で何か画策しているに違いない」
「陛下……我が国は列強に干渉を受けました。それで――」

「そうだ。そうだったな。それにしても列強の要求を飲めなどと!」
「(陛下は憎悪で我を忘れていらっしゃいます……何とかお静めせねば……でも……)」

 スワンチカは悩んでいた。
 どういう言い方をしても角が立つ。
 アルデ将軍を庇うような言い方になってしまうのだ。

「これは何だ? リラ麦の生育状態が良くないから減税した方が良いか……。意見具申は……チッ、アルデ将軍か。最近俺に意見することが多いな」
「陛下、お気持ちは分かりますがリラ麦が不作になりそうなのは確かですぞ。収穫高に応じて納めさせる量を減らすべきかと存じますが」

「(ああ、そんな言い方をしたら――)」
「分かっておるわッ! 貴様、俺を馬鹿にしておるのかッ!」

 執務室にいた事務官の男が何気なく発した言葉に過剰な反応を見せるホーネット。
 当然、怒鳴りつけられた男は茫然としている。
 おっさんのことで苛立っている時のホーネットに少しでもおっさん臭をがせるわけにはいかないのだ。
 ちなみにリラ麦は春に採れる麦の1つでパスタにするのに合う品種である。

 その後もホーネットはずっと不機嫌なまま書類に目を通して政務を行っていた。
 しかし悪いことは重なるものだ。
 通商卿が顔を真っ青にして執務室に飛び込んで来た。

「陛下ッ! 貿易船がヘルシア半島沖で沈没したとの報告が参りました」

「何故だ……何故こうも上手くいかぬッ……」

 ホーネットはデスクをドンッと両手で叩くと、苛立たし気に呟いた。



 ◆ ◆ ◆



 サナディア領ウェダでは――

「しっかし、バルト王国どうするかねぇ」

 おっさんは頭の後ろで手を組んで椅子に寄りかかっていた。
 居るのは執務室ではなく食堂である。
 おっさんの執務室は和風に作り替えてあるので椅子はないのだ。
 おっさんはドーガと昼食後に駄弁だべっていた。

「干渉を受けて返還した土地にまた攻め込む訳にもいきませんな」
「そうだよな。なら飲むなよって感じだわな」

「それに銃火器使用の嫌疑まで駆けられましたからな」
「まぁ使ったんだけどな」

「確かにそうですが」
「これでますます禁止法の撤廃が難しくなったな」

「そうですな。と言うか無理でしょう」
「ま、無視すればいいんだけどな」

「閣下らしくて良いかと存じますが?」

 2人は淡々と話し続けていた。
 他の武官や文官もいるので大きな声では話せないが、普通に話している分には人がいる場所でも案外聞かれないものである。

「干渉を突っぱねるべきだったかも知れんな」
「しかし列強国に対抗する力はありませんが……?」

「ラグナリオン王国とガーランドと組んで粘る」
「きついですな」

 おっさんは日露戦争のことを考えていた。
 三国干渉を行ったのは、列強国のガーレ帝國とヴァルムド帝國、準列強国のガヴァリム帝國である。
 おっさんの情報網ではガーレ帝國はガーランドを狙っているし、ヴァルムド帝國はラグナリオン王国と険悪な状態であった。

 ガーランドの強さは知っているし、ラグナリオン王国もそう簡単にはやられない力は持っている。そして今回の干渉に絡んでいない列強国が存在する。
 列強は決して仲が良い訳ではなく、常に他国を出し抜こうと考えているはずである。となれば付け入る隙はあるはずなのだ。

 、とは言ってはいるが、まず間違いないとおっさんは考えていた。

「となれば交渉か……」

 おっさんは遠い目をして呟きながら、ボンジョヴィの顔を思い出していた。
 交渉ごとを一手に引き受けている彼の仕事量がますます増えるなぁと、おっさんは他人事のように思った。
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