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第96話 第三次ヘルシア戦役 ①
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――中央ゴレムス暦1583年6月6日 朝
おっさん
この日、おっさんはヘルシアの国家元首インクムの意志を確認した。
正確にはその知らせを受け取ったのがこの日だった訳だが、内容はこう言ったものである。
・ヘルシアのアルタイナからの完全独立
・ヘルシア半島からのアルタイナ軍の撤兵
これを持っておっさんはアウレアス城に集結していたアウレア大公国軍にアルタイナ軍討伐の号令をかけた。
正直なところ、ホーネットからの命令はヘルシア討伐なのだが、それは状況的に難しいと言うこととメリットがないと言うことで、おっさんは軽くスルーしていた。
そして総勢三○○○○以上の軍が軍船に乗ってヘルシア半島を目指した。
軍船はアウレアの海を覆い尽くす程であった。
船大工だけでなく、木材加工技術を持つ者を総動員して作られた船がヘルシア海を行く。
おっさんの配下からはいつものメンバーが顔を揃えていた。
またそれぞれが軍制改革により、位階が与えられている。
副官のノックス大佐、副官補のドーガ少佐、ベアトリス大尉、ガイナス少尉、バッカス軍曹、新参のアイル・レスター少尉である。
今回のお留守番はボンジョヴィである。おっさんは、彼がいれば例えバルト王国が動いたとしても安心して任せられると踏んだのである。それにやってもらいたいこともあったのだ。
「うーん。エレギス連合王国からもっと高度な造船技術を取り入れる必要があるな」
「かなりの突貫でしたからね。エレギス連合王国の軍船はもっと大きいと言います」
「まぁヘルシア海の制海権を取られてる訳じゃないから危険な航路ではないんだけど。海戦の可能性を考えるとなぁ……それに貿易船を襲う海賊対策にもなるしな」
「閣下、乗員数も遥かに増加しますよ」
おっさんは空を見上げた。少し眩しくて手で光を遮る。
天気は晴朗で波は穏やかである。
絶好の船旅日和だ。
これから戦争すると言うことを除けば。
おっさんは旗艦に乗っている主だった者を集めた。
何のことはない。ただの打ち合わせである。
「諸君らよく集まってくれた。これから半島へ上陸後の動きを申し渡す」
『はッ!』
「まずは上陸場所だが、いつも通りヘルシア南端の都市ヘルニアンだ。あそこにはレーベ侯爵の軍、三○○○がいる。市長もインクム派だと言うことだし特に問題はないだろう。イルヒ派の目立った動きもないらしい」
おっさんは居並ぶ諸侯を見回しながら淡々と説明する。
貴族諸侯は作戦指示書を見ながらおっさんの説明を聞いていた。
「ヘルシア国内はまだ叛乱が起こっているようだが、今回は無視する。ヘルニアンを出た後、北上しヘルンへ雪崩れ込む。そしてまずはイルヒとその派閥諸侯を殺す。手引きはインクム配下の者がする運びになっている。これを機に王宮内の大掃除をする気みたいだから協力してやってくれ」
これは二重権力構造になっているヘルシアを正常に戻すには必ずやらなければならないことだ。これが解決すれば、税の二重取りなどもなくなり叛乱も終息するだろうと言うことである。
「勘違いしないで頂きたいのは今回の戦がヘルシア討伐ではなく、アルタイナ討伐だと言うことだ。ヘルシアには親アウレア政権ができればいい。要は我が国の影響下におければいいと言うことだな。ヘルン市内に駐留しているアルタイナ軍を蹴散らしてヘルシアから叩き出す」
ここでアリオーガ領主のキングストン子爵が声を上げる。
「元帥閣下、ヘルシアからアルタイナ軍を駆逐するだけでいいのかね?」
おっさんはそんな訳ねぇだろと思いつつポーカーフェイスで作戦の続きを話して聞かせた。ポーカーフェイスといっても頭巾で顔は見えないのだが。
「いや、駆逐した後、我が君は国境を越える。そしてある程度、戦争が我が方有利にすすんだところでエレギス連合王国が仲介を申し出る手はずになっている。それまでに少しでも優位な状況を作り出すべく努力して欲しい」
ここまで聞いた貴族諸侯たちは口々に畏まったと言いつつ作戦指示書を見直している。そんな中、再びキングストン子爵の厳つい声が響いた。
「今回、我々が得るものはなんなのです? ヘルシアから領土を奪えないとなるとアルタイナから? アルタイナは遠い地。そう簡単に守れませぬぞ」
「ああ、まだ勝った訳じゃないけど、もし勝ったとしたらアルタイナから賠償と領土を得ることになるだろう。ここでアルタイナを分割統治している列強、準列強間の取り決めを利用する。アルタイナから得た領土には一定の数の兵士しか駐留できないことになっている。ヘルシア全土に兵を張りつけるより安全な統治が可能だ」
「承知致した」
こうして決戦の刻は近づいて行く。
◆ ◆ ◆
無事にヘルニアンに上陸したおっさんは一刻も早く首都ヘルンへと向かうべく号令を掛ける。
「全軍、出陣ッ!!」
おっさんの大音声が四○○○○にものぼろうかと言う軍団を動かす。
まだ整然とした隊列を組めている隊は少なく、おっさんの思い描く近代の兵隊の行進には遠く及ばない。ただ、おっさんの中の兵隊のイメージがかなりざっくりなのでそこはつっこまないで欲しいところではある。
おっさんはアドに乗って進んでいるが兵士たちは徒歩だ。
きっとこのような一般兵が元々農民をやっていて足腰が鍛えられていたから戦争なんてこともできるのだろう。ヘルンまではおよそ4日程度掛かる。その間にも天幕の設営だったり、食糧の準備だったりと実際の戦場は大変である。
※※※
夜半。
おっさんたちは何事もなくヘルンへとたどり着いていた。
心配していた叛乱軍との衝突もなく兵を損じることなく到着できたのは僥倖である。と言っても相手は圧政に苦しむ農民中心の軍である。出会っていてもアウレアの正規軍にどこまで対抗できたか分からない。
おっさんはヘルン市内から戻った斥候の情報を聞いて安堵していた。
事前情報では市内のアルタイナ軍は八○○○程度だったはずである。
特に増援はないようで、市外に野営ではなく市内に駐留しているようであった。
しかも場所は前回苦汁を舐めさせられた練兵場だと言う。
ヘルン市内の掃討はスピード勝負だと考えていたおっさんは直ちに進軍の下知を出した。静かに、しかし速く進軍したアウレア大公国軍はすぐに王宮へとたどり着く。
ここでおっさんは少数精鋭の部隊を送り出した。
練兵所のアルタイナ軍と王宮内のイルヒの勢力を同時に打ち負かす必要がある。
イルヒに逃げられてはまた面倒臭いことになるのは目に見えていた。
ここからはインクム派の手引きが必要だ。
打ち合わせ通りに場所から精鋭部隊が音もなく侵入する。
王宮へ雪崩れ込んだ兵士たちは導かれるままにイルヒ派の主要人物たちを殺害していく。中にはインクムにとって都合の悪いだけの人物もいるかも知れないが、おっさんたちには関係ないことだ。
兵士たちはイルヒの寝所へと向かう。
そこからは剣戟の音が聞こえてきた。
どうやら一足先に戦闘になっていたらしい。
戦闘はインクム派の兵士とイルヒ派の兵士によるものであった。
イルヒ側が気付いたのか、インクム側が先走ったのか暗殺に失敗したようである。
しかし無駄な足掻きである。
既に王宮は完全に包囲されていた。
怪しい女が飛び出してこれば捕まるは必定である。
決して捕まりたくない鬼ごっこが始まった。
兵士たちは派閥に関係なく部屋と言う部屋を改めていく。
大して広くない王宮内でイルヒが見つかったのはそれから30分も掛からなかった。彼女に付いていた兵士は3人。彼らはあっさりとアウレア兵に始末され、残るはイルヒのみとなった。
「ひっ……貴様らぁ! この私を誰だと思うておる!」
「イルヒだな」
「こやつですぅ! こやつがイルヒでございますぅ!」
「お覚悟召され」
イルヒは淡々と自分を追い込んで来るアウレア兵たちに恐怖していた。
それは自らの処刑を執行する者たちであった。
「死にとうない! 死にとうない! おのれアウレア! おのれインクムゥゥゥ!」
それがイルヒの最期の言葉となった。
※※※
その頃、おっさんは待ちきれないとばかりに血走った目をしている兵士たちに下知を下した。兵が駐留している兵宿舎と練兵所に兵士たちが殺到する。
「全軍かかれッ! 前回やられた借りを返すは今ぞッ!」
こうして第三次ヘルシア戦役が始まった。
おっさん
この日、おっさんはヘルシアの国家元首インクムの意志を確認した。
正確にはその知らせを受け取ったのがこの日だった訳だが、内容はこう言ったものである。
・ヘルシアのアルタイナからの完全独立
・ヘルシア半島からのアルタイナ軍の撤兵
これを持っておっさんはアウレアス城に集結していたアウレア大公国軍にアルタイナ軍討伐の号令をかけた。
正直なところ、ホーネットからの命令はヘルシア討伐なのだが、それは状況的に難しいと言うこととメリットがないと言うことで、おっさんは軽くスルーしていた。
そして総勢三○○○○以上の軍が軍船に乗ってヘルシア半島を目指した。
軍船はアウレアの海を覆い尽くす程であった。
船大工だけでなく、木材加工技術を持つ者を総動員して作られた船がヘルシア海を行く。
おっさんの配下からはいつものメンバーが顔を揃えていた。
またそれぞれが軍制改革により、位階が与えられている。
副官のノックス大佐、副官補のドーガ少佐、ベアトリス大尉、ガイナス少尉、バッカス軍曹、新参のアイル・レスター少尉である。
今回のお留守番はボンジョヴィである。おっさんは、彼がいれば例えバルト王国が動いたとしても安心して任せられると踏んだのである。それにやってもらいたいこともあったのだ。
「うーん。エレギス連合王国からもっと高度な造船技術を取り入れる必要があるな」
「かなりの突貫でしたからね。エレギス連合王国の軍船はもっと大きいと言います」
「まぁヘルシア海の制海権を取られてる訳じゃないから危険な航路ではないんだけど。海戦の可能性を考えるとなぁ……それに貿易船を襲う海賊対策にもなるしな」
「閣下、乗員数も遥かに増加しますよ」
おっさんは空を見上げた。少し眩しくて手で光を遮る。
天気は晴朗で波は穏やかである。
絶好の船旅日和だ。
これから戦争すると言うことを除けば。
おっさんは旗艦に乗っている主だった者を集めた。
何のことはない。ただの打ち合わせである。
「諸君らよく集まってくれた。これから半島へ上陸後の動きを申し渡す」
『はッ!』
「まずは上陸場所だが、いつも通りヘルシア南端の都市ヘルニアンだ。あそこにはレーベ侯爵の軍、三○○○がいる。市長もインクム派だと言うことだし特に問題はないだろう。イルヒ派の目立った動きもないらしい」
おっさんは居並ぶ諸侯を見回しながら淡々と説明する。
貴族諸侯は作戦指示書を見ながらおっさんの説明を聞いていた。
「ヘルシア国内はまだ叛乱が起こっているようだが、今回は無視する。ヘルニアンを出た後、北上しヘルンへ雪崩れ込む。そしてまずはイルヒとその派閥諸侯を殺す。手引きはインクム配下の者がする運びになっている。これを機に王宮内の大掃除をする気みたいだから協力してやってくれ」
これは二重権力構造になっているヘルシアを正常に戻すには必ずやらなければならないことだ。これが解決すれば、税の二重取りなどもなくなり叛乱も終息するだろうと言うことである。
「勘違いしないで頂きたいのは今回の戦がヘルシア討伐ではなく、アルタイナ討伐だと言うことだ。ヘルシアには親アウレア政権ができればいい。要は我が国の影響下におければいいと言うことだな。ヘルン市内に駐留しているアルタイナ軍を蹴散らしてヘルシアから叩き出す」
ここでアリオーガ領主のキングストン子爵が声を上げる。
「元帥閣下、ヘルシアからアルタイナ軍を駆逐するだけでいいのかね?」
おっさんはそんな訳ねぇだろと思いつつポーカーフェイスで作戦の続きを話して聞かせた。ポーカーフェイスといっても頭巾で顔は見えないのだが。
「いや、駆逐した後、我が君は国境を越える。そしてある程度、戦争が我が方有利にすすんだところでエレギス連合王国が仲介を申し出る手はずになっている。それまでに少しでも優位な状況を作り出すべく努力して欲しい」
ここまで聞いた貴族諸侯たちは口々に畏まったと言いつつ作戦指示書を見直している。そんな中、再びキングストン子爵の厳つい声が響いた。
「今回、我々が得るものはなんなのです? ヘルシアから領土を奪えないとなるとアルタイナから? アルタイナは遠い地。そう簡単に守れませぬぞ」
「ああ、まだ勝った訳じゃないけど、もし勝ったとしたらアルタイナから賠償と領土を得ることになるだろう。ここでアルタイナを分割統治している列強、準列強間の取り決めを利用する。アルタイナから得た領土には一定の数の兵士しか駐留できないことになっている。ヘルシア全土に兵を張りつけるより安全な統治が可能だ」
「承知致した」
こうして決戦の刻は近づいて行く。
◆ ◆ ◆
無事にヘルニアンに上陸したおっさんは一刻も早く首都ヘルンへと向かうべく号令を掛ける。
「全軍、出陣ッ!!」
おっさんの大音声が四○○○○にものぼろうかと言う軍団を動かす。
まだ整然とした隊列を組めている隊は少なく、おっさんの思い描く近代の兵隊の行進には遠く及ばない。ただ、おっさんの中の兵隊のイメージがかなりざっくりなのでそこはつっこまないで欲しいところではある。
おっさんはアドに乗って進んでいるが兵士たちは徒歩だ。
きっとこのような一般兵が元々農民をやっていて足腰が鍛えられていたから戦争なんてこともできるのだろう。ヘルンまではおよそ4日程度掛かる。その間にも天幕の設営だったり、食糧の準備だったりと実際の戦場は大変である。
※※※
夜半。
おっさんたちは何事もなくヘルンへとたどり着いていた。
心配していた叛乱軍との衝突もなく兵を損じることなく到着できたのは僥倖である。と言っても相手は圧政に苦しむ農民中心の軍である。出会っていてもアウレアの正規軍にどこまで対抗できたか分からない。
おっさんはヘルン市内から戻った斥候の情報を聞いて安堵していた。
事前情報では市内のアルタイナ軍は八○○○程度だったはずである。
特に増援はないようで、市外に野営ではなく市内に駐留しているようであった。
しかも場所は前回苦汁を舐めさせられた練兵場だと言う。
ヘルン市内の掃討はスピード勝負だと考えていたおっさんは直ちに進軍の下知を出した。静かに、しかし速く進軍したアウレア大公国軍はすぐに王宮へとたどり着く。
ここでおっさんは少数精鋭の部隊を送り出した。
練兵所のアルタイナ軍と王宮内のイルヒの勢力を同時に打ち負かす必要がある。
イルヒに逃げられてはまた面倒臭いことになるのは目に見えていた。
ここからはインクム派の手引きが必要だ。
打ち合わせ通りに場所から精鋭部隊が音もなく侵入する。
王宮へ雪崩れ込んだ兵士たちは導かれるままにイルヒ派の主要人物たちを殺害していく。中にはインクムにとって都合の悪いだけの人物もいるかも知れないが、おっさんたちには関係ないことだ。
兵士たちはイルヒの寝所へと向かう。
そこからは剣戟の音が聞こえてきた。
どうやら一足先に戦闘になっていたらしい。
戦闘はインクム派の兵士とイルヒ派の兵士によるものであった。
イルヒ側が気付いたのか、インクム側が先走ったのか暗殺に失敗したようである。
しかし無駄な足掻きである。
既に王宮は完全に包囲されていた。
怪しい女が飛び出してこれば捕まるは必定である。
決して捕まりたくない鬼ごっこが始まった。
兵士たちは派閥に関係なく部屋と言う部屋を改めていく。
大して広くない王宮内でイルヒが見つかったのはそれから30分も掛からなかった。彼女に付いていた兵士は3人。彼らはあっさりとアウレア兵に始末され、残るはイルヒのみとなった。
「ひっ……貴様らぁ! この私を誰だと思うておる!」
「イルヒだな」
「こやつですぅ! こやつがイルヒでございますぅ!」
「お覚悟召され」
イルヒは淡々と自分を追い込んで来るアウレア兵たちに恐怖していた。
それは自らの処刑を執行する者たちであった。
「死にとうない! 死にとうない! おのれアウレア! おのれインクムゥゥゥ!」
それがイルヒの最期の言葉となった。
※※※
その頃、おっさんは待ちきれないとばかりに血走った目をしている兵士たちに下知を下した。兵が駐留している兵宿舎と練兵所に兵士たちが殺到する。
「全軍かかれッ! 前回やられた借りを返すは今ぞッ!」
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