おっさん、軍神として降臨す!

波 七海

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第110話 講和会議、始まる

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 ――中央ゴレムス暦1583年7月15日
   アルタイナ タンシン

 アルタイナはエレギス連合王国からの講和仲介の申し出を正式に受諾し、それを依頼した。
 それを聞いてアウレア大公国も講和の席に着くこととなった。
 もちろんこれは事前からの打ち合わせ通りなのだが。

 講和条約締結のための話し合いはフケン要塞の南にあるタンシンと言う都市で行われることになった。
 エレギス連合王国からはレオーネを筆頭とした外交使節が、アウレア大公国からはおっさんの部下であるボンジョヴィや外務卿のアルト・テスラなどが入った。
 フケン要塞にいたおっさんもベアトリスに守りを任せ、ドーガらと共にタンシンに入る。

 タンシンは既にアウレア大公国の占領下にある。
 本来ならば、講和条約は第三国で行われるが今回はエレギス連合王国の都合でタンシンにて行われることとなった。

 おっさんの兵がタンシンを固める中、おっさんはアウレアから来た外交使節たちと顔を合わせることとなった。
 おっさんの姿を目聡く見つけて駆け寄って来たのはレオーネであった。

「サナディア卿、お疲れ様です! 見事な戦いぶりだったようですね!」
「ありがとうございます。サクシード殿、アルタイナは強かったですよ。何とか勝ったと言うところです」

 おっさんが謙遜して見せると、隣にいたドーガがゴホンと咳払いをする。
 分かっている。あまり弱気な発言をして舐められるなと言ったところだろう。

「サクシード殿、これからの講和交渉ですが、上手く導いて頂けるとありがたい」
「無論です。貴国にとって有利な条件ばかりですし交渉は早期に片付くでしょう」

 そこへアウレア使節団がおっさんの下へとやってきた。
 おっさんは交渉事には慣れていないので、任せるところは他人にドーンと任せるのだ。適材適所の精神である。

「サナディア卿、大戦果ですな。我が国は勝利で沸いておりますぞ」
「これはテスラ外務卿、恐縮です。兵たちが頑張ってくれました」
「ご謙遜を。なんにしろ後は我々にお任せあれ」
「はい。交渉の方はお願いします」

 話し終えるとテスラ外務卿はレオーネの方へ歩いて行く。
 するとおっさんの横手から声を掛けられた。
 ボンジョヴィである。

「閣下、此度はおめでとうございます」
「ああ、こんなところまでご苦労様。交渉はエレギス連合王国側と連携して行ってくれ。あまりきつい条件を出す必要はないぞ」

 相手を追いつめすぎて暴発されては元も子もない。
 エレギス連合王国が求めるのはこの地方の安定化だと言う話である。

「はッ……それはともかくバルト王国が攻め寄せてきましたぞ」
「ああ、とは言っても鬼哭関きこくかんを抜かれることはないだろ?」

「はい。今はテイン侯爵が奮戦しておられます」
「あそこに大軍で籠られたら俺でも落とせんわ」

「迅速に講和条約を発行させますぞ。閣下にはバルト王国軍を討ってもらわねばなりませんからな」
「俺に休みはないのか?」

「天下をとれば十分な休養を取れるでしょうな」
「そうだな……ってオイ! どんだけ後だよそれは」

 ボンジョヴィはニヤニヤしながらおっさんを眺めている。
 まったくおっさんは君をそんな風に育てた覚えはありませんよと内心で毒づきつつ今日の疲れをとるべく用意された部屋へと戻ろうとする。

「サナディア卿とお見受けする」

 おっさんが少し面倒臭そうに声がした方を見ると、アルタイナの民族服を身にまとった男が3人近づいてきていた。

「いかにも私がアルデ・ア・サナディアだが? 貴公らは?」
「これは失礼致しました。アルタイナの宰相、コウショウと申します」

 アルタイナの主要人物についてはおっさんの頭の中に入っている。
 コウショウはアルタイナにおける革新派の人間のはずである。

「宰相殿自ら交渉に?」
「国家の大事ですからな。無理を言って外務卿に同行しました」

 コウショウの話は単純なものであった。
 要はイルソン人系ではない民族同士これからは協力していきたいと言うものだ。
 ちなみにイルソン人はイルクルスを始めとした列強諸国に多い人種である。

 この先、アルタイナやヘルシアは列強諸国に荒らされる。
 そう考えているおっさんは当たり障りのないことを答えてさっさと話し合い会場から離れた。



 ◆ ◆ ◆



 ――中央ゴレムス暦1583年7月15日
   鬼哭関きこくかん テイン侯爵

「弓を射かけろッ! 上陸させるなッ!」

 鬼哭関きこくかんを守るラムダーク・ド・テイン侯爵の大音声が響き渡る。

 関璧の上でラムダークは鬼哭関に接している大河に目をやる。
 巨璧と大河に守られたこの関は難攻不落で名を馳せている。

 川岸のギリギリに建てられたこの鬼哭関きこくかんはあらゆる者を侵入から跳ね返す。暴れる大河を大船団で渡河し、関璧を登らなければならない。
足場もなく、雲梯も使えないため侵入は不可能と言われている。

バルト王国軍は一応工夫しているのか雲梯を取り付けた船を関璧に張り付けている。
そして、関璧を粉砕するために衝車のように改良した船で突撃を繰り返していた。

とは言え水位の増減によって衝船が使えない場合も多い。
現在は水位が下がっているため、鬼哭関きこくかんを支える大地が見えている状況だ。
この堅い岩盤が鬼哭関を難攻不落たらしめている。
しかしラムダークは油断しない。
一度、エストレア事変の際に関の両側から攻められて陥落したことがあるからだ。

「火矢を放てッ! 燃やし尽くすのだッ!」

 バルト王国の船からは火縄銃の発砲音が鳴り響いている。
 かなりの高さを誇る関璧に銃を撃ち込んだところで人に当たることなど滅多にない。

「二度と鬼哭関を落とせると思うなッ! バルトの蛮族め」

 ラムダーク・ド・テインはそう言って気を吐いた。



 ◆ ◆ ◆



 ――中央ゴレムス暦1583年7月15日
   ラグナリオン王国 王都ラグナ

 ヴァルムド帝國やカヴァリム帝國と小競り合いを繰り広げているラグナリオン王国に、バルト王国の使者が頻繁に訪れるようになっていた。

「停戦して一緒にアウレアに攻め込もうなんて今更だね」

 ラグナリオンの王、クロームは戦闘執事のバンディッシュにこぼしていた。
 ラグナリオン王国とバルト王国はもう数十年敵対してきた。
 特にヘリオン平原での主導権の取り合いは年々激化の一途を辿っていた。

「虫の良い話だと存じます」
「それにウチは北に敵がいるんだからきついの分かってるだろうに」

 クローム王が遠い目をして窓の外を眺めている。

「アウレアは急速に力を蓄えております。世界の盟主たるエレギス連合王国と同盟を結び、アルタイナに事実上の勝利を収めました。攻めるとしたら落ち目のバルト王国でしょう」

 軍務卿のネイク侯爵も同感のようだ。

「まぁバルトからアウレアに入ろうとすると鬼哭関きこくかんが行く手に立ち塞がりますからな。並大抵の兵力差がなければ抜けんでしょう」

 バンディッシュはもう一歩進んだ考えを持っていた。
 列強を上手く翻弄しているラグナリオン王国ではあったが、流石に三方から攻められては苦しいどころの話ではない。

「陛下、アルタイナとの講和が成れば、アウレアは我が国に兵を向けてくるやもしれません。北で列強と戦っている我が国としては先手をうってアウレアと国交を樹立するのが得策やもしれませんぞ」

「そうだな。アウレアに使節団を送ることも考えねばならないね」

 まだ若いながらに老獪なところもあるクローム王はそう言って瞑想するように目を閉じた。
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