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第117話 聖軍、敗退する
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――中央ゴレムス暦1583年8月15日
カノッサス
ラグナロクの父であるブリンガー・ド・レーベは急ぎ戦支度をしていた。
カノッサスの南西に位置するアラモ砦が落ちたのならば、バルト王国が狙うのはここしかない。
「この歳になって血が沸くとはな」
「お館様はまだまだお若いのです。血気にはやりませぬよう」
「ははは……そうだそうだラグナロクに家督を譲ったのをたまに忘れてしまうな」
ジェイガンに釘を刺されブリンガーは苦笑いを隠せない。
そんな中、兵士たちはというと城壁の上にありったけの矢を運んでいた。
カノッサスに銃火器はないが、おっさんが救援に駆けつけるまでならばバルト王国軍五○○○を押さえられるだろう。
アウレア大公国の穀倉地帯の1つであるカノッサスは重厚な城壁に守られた堅固な城塞である。比較的安全な立地にあるため、ここのところ攻められたことはほとんどないが、レーベテインに連なる者としてレーベ侯爵家の面目を保たねばならない。
あちこちで部隊長レベルの兵士が指示を出しており、あたりは喧騒に包まれていた。
「おい、矢をあるだけ持って来い!」
「馬鹿野郎! 南門に集めるんだよ!」
「包囲される可能性があるんだから均等に配れよ」
カノッサスの城門は鉄城門である。
今はまだバルト王国軍が現れていないので開いているが、城門にも内側から閂がかけられる予定だ。
その頃、執務室では武官たちを集めて兵士の配置や想定される攻撃などについて会議が行われていた。
「敵には破城槌があると思うか?」
「山から切り出して組み立ててくる可能性がございますが、その場合進軍の方は遅そうですな」
「まぁうちの城門はそこらの破城槌では破れんがな」
ジェイガンがそう答えると、ニヤリと笑いながらブリンガーが自信を覗かせる。
すると1人の武官が心配になったのか口を挟む。
見れば若い将校なので、不安感が大きいのだろう。
「とは言え、カノッサスを無視して素通りすることはありませんか?」
「そのようなことは有るまいよ」
敵軍は必ずカノッサスに攻めかかると確信していたジェイガンは武官の言葉を一蹴したが、ブリンガーはそれを無碍にすることはない。
「ジェイガンよ。思い込みはいかんぞ? 可能性は低いがあり得ることだ。だがその場合は背後を突くのみだ」
それを聞いた武官の表情が明るいものに変わる。
「とにかく思い通りにはいかぬと教えてやる」
そう言ってブリンガーは不敵に笑うのであった。
◆ ◆ ◆
――中央ゴレムス暦1583年8月16日
おっさん
「え? まだ聖戦ってやってたの?」
おっさんの間抜けな声が執務室に響く。
決着がついたということでまさに今おっさんに報告が上がってきたのだ。
聖戦発議から一か月でイルクルス、ガーレ帝國、ヴァルムド帝國、カヴァリム帝國、ラグナリオン王国、バルト王国、ネルアンカルム、ニールバーグ、スパーナの9か国から成る聖軍およそ10万が蛮族の住まう蛮土に攻め込んだ。
今回の聖戦の標的は蛮土と呼ばれているヴェルド、グレイスであった。
ヴェルドの遊牧民族、ヴェルダンと黒魔の大森林の護り手、グレイスのフンヌを滅ぼすという名目で攻め込んだ聖軍であったが、思いの他緒戦から苦戦することとなる。
聖軍と言っても各国が堅く手を握り合って連携を取る訳でもないこの戦は、小勢でも連携が取れているヴェルダンとフンヌの方に圧倒的な分があった。
更に被害を嫌う列強、準列強国はそれ以外の国家を先鋒として進軍し、地の利のない各国は平原で縦横無尽に駆け回るヴェルダンの軽騎兵、弓騎兵に各個撃破され大損害を被ったのである。
事態を楽観視して、小国を馬鹿にしていた列強、準列強国も銃火器などの有利な武器があるのにもかかわらずヴェルダンに翻弄され悪戯に兵を消耗する結果となった。
それでも面子があるイルクルスは聖戦を止めることはなく、その進軍は黒魔の大森林の近くまで及び、日々そこから出現する魔物や魔獣と戦ってきたフンヌと刃を交えることになる。ヴェルダンにより疲弊させられた各国の軍は、強力な魔物を身体強化の魔法と鍛え上げた肉体で葬ってきたフンヌに完膚なきまでに叩きのめされたと言う。
今まで聖戦と称して地方の国家を度々征伐してきたイルクルスであったが、今回ばかりは相手が悪かったようだ。
神に祝福されたと言われる神殿騎士団もかなりの数が蛮土の地に倒れたと言う。
戦略も何もなく進軍した聖軍は正面のフンヌに痛恨の一撃を受けたところをヴェルダンに背後を襲われ、その悉くが敗走した。
とは言え、ヴェルダンとフンヌは簡単に退却すらさせてくれなかった。
ゲリラ戦を展開され、聖戦は泥沼化し長期化した。
聖戦を発議し、大軍勢で攻め込んだにもかかわらず大敗を喫したイルクルスは世界に対する影響力を低下させることとなる。
カノッサス
ラグナロクの父であるブリンガー・ド・レーベは急ぎ戦支度をしていた。
カノッサスの南西に位置するアラモ砦が落ちたのならば、バルト王国が狙うのはここしかない。
「この歳になって血が沸くとはな」
「お館様はまだまだお若いのです。血気にはやりませぬよう」
「ははは……そうだそうだラグナロクに家督を譲ったのをたまに忘れてしまうな」
ジェイガンに釘を刺されブリンガーは苦笑いを隠せない。
そんな中、兵士たちはというと城壁の上にありったけの矢を運んでいた。
カノッサスに銃火器はないが、おっさんが救援に駆けつけるまでならばバルト王国軍五○○○を押さえられるだろう。
アウレア大公国の穀倉地帯の1つであるカノッサスは重厚な城壁に守られた堅固な城塞である。比較的安全な立地にあるため、ここのところ攻められたことはほとんどないが、レーベテインに連なる者としてレーベ侯爵家の面目を保たねばならない。
あちこちで部隊長レベルの兵士が指示を出しており、あたりは喧騒に包まれていた。
「おい、矢をあるだけ持って来い!」
「馬鹿野郎! 南門に集めるんだよ!」
「包囲される可能性があるんだから均等に配れよ」
カノッサスの城門は鉄城門である。
今はまだバルト王国軍が現れていないので開いているが、城門にも内側から閂がかけられる予定だ。
その頃、執務室では武官たちを集めて兵士の配置や想定される攻撃などについて会議が行われていた。
「敵には破城槌があると思うか?」
「山から切り出して組み立ててくる可能性がございますが、その場合進軍の方は遅そうですな」
「まぁうちの城門はそこらの破城槌では破れんがな」
ジェイガンがそう答えると、ニヤリと笑いながらブリンガーが自信を覗かせる。
すると1人の武官が心配になったのか口を挟む。
見れば若い将校なので、不安感が大きいのだろう。
「とは言え、カノッサスを無視して素通りすることはありませんか?」
「そのようなことは有るまいよ」
敵軍は必ずカノッサスに攻めかかると確信していたジェイガンは武官の言葉を一蹴したが、ブリンガーはそれを無碍にすることはない。
「ジェイガンよ。思い込みはいかんぞ? 可能性は低いがあり得ることだ。だがその場合は背後を突くのみだ」
それを聞いた武官の表情が明るいものに変わる。
「とにかく思い通りにはいかぬと教えてやる」
そう言ってブリンガーは不敵に笑うのであった。
◆ ◆ ◆
――中央ゴレムス暦1583年8月16日
おっさん
「え? まだ聖戦ってやってたの?」
おっさんの間抜けな声が執務室に響く。
決着がついたということでまさに今おっさんに報告が上がってきたのだ。
聖戦発議から一か月でイルクルス、ガーレ帝國、ヴァルムド帝國、カヴァリム帝國、ラグナリオン王国、バルト王国、ネルアンカルム、ニールバーグ、スパーナの9か国から成る聖軍およそ10万が蛮族の住まう蛮土に攻め込んだ。
今回の聖戦の標的は蛮土と呼ばれているヴェルド、グレイスであった。
ヴェルドの遊牧民族、ヴェルダンと黒魔の大森林の護り手、グレイスのフンヌを滅ぼすという名目で攻め込んだ聖軍であったが、思いの他緒戦から苦戦することとなる。
聖軍と言っても各国が堅く手を握り合って連携を取る訳でもないこの戦は、小勢でも連携が取れているヴェルダンとフンヌの方に圧倒的な分があった。
更に被害を嫌う列強、準列強国はそれ以外の国家を先鋒として進軍し、地の利のない各国は平原で縦横無尽に駆け回るヴェルダンの軽騎兵、弓騎兵に各個撃破され大損害を被ったのである。
事態を楽観視して、小国を馬鹿にしていた列強、準列強国も銃火器などの有利な武器があるのにもかかわらずヴェルダンに翻弄され悪戯に兵を消耗する結果となった。
それでも面子があるイルクルスは聖戦を止めることはなく、その進軍は黒魔の大森林の近くまで及び、日々そこから出現する魔物や魔獣と戦ってきたフンヌと刃を交えることになる。ヴェルダンにより疲弊させられた各国の軍は、強力な魔物を身体強化の魔法と鍛え上げた肉体で葬ってきたフンヌに完膚なきまでに叩きのめされたと言う。
今まで聖戦と称して地方の国家を度々征伐してきたイルクルスであったが、今回ばかりは相手が悪かったようだ。
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