おっさん、軍神として降臨す!

波 七海

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第120話 おっさん、ブレインを撃退する

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 ――中央ゴレムス暦1583年8月18日 未明
   ブレイン

「申し上げますッ! 夜襲は失敗に終わったようですッ!」
「何ッ!? 向こうに読まれていたか……(だが読んでいても防げるものか?)」

 ブレインは持っていた軍配を地面に叩きつける。

 そして聞こえてくる喊声。

「あの声は何だッ!?」
「敵が勢いに乗ってあべこべに攻め込んできたようですッ!」

「おんのれ……カノッサス如きが……迎え討てッ! 敵は小勢だが油断するなよッ!」

 ブレインは大剣を持ってアドにまたがる。
 ここにカノッサスのセザール将軍が率いる約五○○が襲い掛かった。
 全軍による突撃である。

 その突撃は凄まじい勢いでブレインの本陣まで踏み込んできた。
 その影が松明の灯りに照らされてゆらゆらと蠢いている。

「この程度の兵で俺を倒せるものかよッ!」

 ブレインはアウレア兵を斬って斬って斬りまくっている。
 しかし、ここでおかしなことに気が付いた。
 幾ら倒しても次から次へと新しい兵士が雪崩れ込んでくるのだ。

 ブレインはアドを走らせ本陣の前軍の備えを見やる。
 それを見た時、ブレインは戦慄した。

「何故これほどまでの大軍が!? まさか援軍かッ! ええい陣を固めろッ!」

 そしてすぐに【戦法タクティクス】を使うことに決める。

【激怒の猛反撃Ⅱ】 

 これは劣勢時の反撃力を跳ね上げる【戦法タクティクス】だ。
 【覇王の進軍】を使ってしまっていたためブレインが使えるものはもうこれしかない。

 その時遠くから、ブレインの聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「我が名はアルデ・ア・サナディアッ! 死にたいヤツはかかってきませい!」

「俺はバッカス、殺してやるからかかってこい!」

 その声にまたもやブレインは戦慄する。

「(アルデだと? あのおっさん戻って来てたのかよ! 密偵は何してたんだこのクソったれがッ!)」

 ブレインは怒りに染まった頭で考える。
 頭に血が上りそうになるのを必死で抑えつつ。

 【激怒の猛反撃】のお陰で今は互角に戦えているが、効力がきれたらバルト王国軍の方が危ない。
 【覇王の進軍】も【激怒の猛反撃】もクールタイムで使えないままぶつかれば負けるのは目に見えていた。
 おっさんをプレイヤーだと知っているブレインはすぐさま身の危険を弾き出した。

「(【激怒の猛反撃】の効果がなくなる前に退かねーとヤバい)」


 そこでブレインが下した決断は――撤退。


「全軍、撤退ッ! 俺が喰い止めている間にアラモ砦まで退けッ!」

 ブレインは近くにいたスイッセス少佐に撤退を任せると本陣の軍だけでおっさんの軍へと突撃した。かくしてサースバードの時と同じく総大将のブレインが殿を務めることになったのであった。



 ◆ ◆ ◆



 カノッサスは城門に軽微な損傷が見られる程度で他には大した被害は見られない。

 未明の奇襲から戻ったおっさんたちはそのまま追撃に移らずにカノッサスに引き返してきていたのだ。
 城壁外では敵の遺体の処理が行われている。
 バルト王国側も怪我人はともかく死体まで連れ帰る訳もなく、骸で埋まった大地を清めるが如く焼却処分にされていた。

 そんな様子を見回っていたおっさんはバッカスに話しかける。

「カノッサスにいたのは五○○程度だろ。よくもたせたな」
「流石はレーベ侯爵家と言うことでしょう」
「それにしても山岳地帯から攻めてくるとはなぁ。しかも相手はブレインだし」
「ブレインとはそれほどの猛者なので?」

 バッカスはブレインを知らないらしい。
 サースバードでの戦いで元々バッカスが仕えていたジィーダバを討った時のバルト王国軍総大将がブレインなのだが、これは話すべきなのか、おっさんは少し迷う。
 ジィーダバが死んだサースバードの名前を出しては、かつてのことを思い出させてしまうのではないかとおっさんは思ったのであった。

「あーブレインはサースバードの戦いの総大将だ。猛者かどうかはともかく指揮官として厄介な相手には違いないな」
「なるほど。統率者としてでしたか(サースバードか……)」

 おっさんはバッカスの方をチラリと盗み見るが彼の表情に変化はない。
 既に吹っ切っているのだろう。

 そこへ突然声を掛けられた。

「元帥閣下」

 おっさんが振り返るとそこにはブリンガーが数人のお供をつれて歩いてきたところであった。

「ブリンガー殿、無事でなによりです。兵たちはどうですか?」
「閣下、此度は援軍頂き感謝の言葉もございません。兵たちは疲れているのにもうひと踏ん張りとよく働いていてくれます」

「構わないですよ。もっと早く駆けつけるべきでした。でもよく五○○で夜襲しようと思いましたね。日中は都市を包囲されて戦い、疲労困憊だったでしょうに」
「閣下の軍が到着して士気も上がりましたし、ここしかないと思いましたので」

 そう言ってブリンガーは豪快に笑って見せた。
 流石に肝が据わっている。
 レーベに連なる者ここにありと言ったところだろう。

「バルト王国軍はアラモ砦に逃げたそうです。まもなくラグナロク殿もアルタイナから兵と共に戻ってきますからそれまでカノッサスで休養してください」
「そんなッ!? 砦攻略には少しでも多くの兵が必要になりましょう。我々も加わらせて頂きたい」

 確かにバルト王国軍はアラモ砦の増強を行っているようだが、山岳地帯を突っ切ってきたブレインには補給がない。
 睨み合いが続けば、そのうち撤退するだろうとおっさんは考えていた。
 それにおっさんだけでなく、貴族諸侯の軍も帰国してくるのだ。
 ここは焦る必要はない。

 バルト王国軍に援軍があったとしても、こちらからも援軍を出せば良い話だ。
 バルト王国は聖戦で負けて帰ったと言うし、鬼哭関《きこくかん》でも戦っているところだ。増援があっても大した数ではないと言う目算もあった。

「状況によっては派兵頂くことにします。それまでは英気を養っておいてください」

 おっさんの考えを話して説得すると、ブリンガーも納得したのかそれ以上は何も言わなくなった。

 おっさんは念のためバッカスに秘策を与え、翌日アラモ砦へと出立した。
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