彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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27話 side男衆

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広大な麦畑を刈り取りながら、これから起こるだろうことを俺たちは話し合った。
川が開港する前ならば大丈夫だったかもしれない。
けれど、川はあちら側に開かれてしまった。

「ある程度は見える形で残した方がいいよな」
「そうだな全く無いというのも怪しいだろうな」

この国は貴族のわがままが罷り通る国だ。
いや、ほかの国だって変わらないかもしれない。

この街が囲まれた2本の川により閉鎖されてからそろそろ5年になるか。町の食糧は少しずつ減少してきた。
外と連絡の取れない不安からか、少しでも力のあるものは力のないものから多くを搾取することで、自分達を守ろうとしていた。
それの全部が間違っているなんて、思ってはいない。
サフィ様と出会う前の自分たちは、彼らと同じように力の弱い者から搾取する事で生き抜いてきたのだから。

でも、初めからそうだったわけではない。
5年前までは、5年前までは俺たちはもっと人間らしかったはずなのだ。

今あるものを消費することしか頭になかった自分たちには、サフィ様の新たに作り出すという行動に目から鱗が落ちたのだ。
土地が足りないならば、開拓すればいいという考えに感銘を受けたのだ。

だけど、貴族にそれは通じない。

無いものを補うために新しく開拓した土地は彼らの物だと主張するだろう。
全て持ち出されることはなくとも、9割は取られてしまう。
俺らが、市民権を放棄させられた者だからだ。

家族を死に追いやられ、収入を得ることができなくなったから、成人前の自分たちはこんな風に住む家すらなく死待ち人ふろうしゃになった。
5年の間に成人できたとしても、その間税を納めてはいない。
いや、俺たちに限らず、中洲の者は税を納める機会がなかったのだ。ただ、死待ち人でさえなければ、ある程度を予想して税になる物を貯めておくことが可能だとは思う……少なくとも俺たちよりは。

そして貴族達やつらは納めていなかった分を、川が開かれた今、徴収しようとするに決まってる。
たとえそれが明日を生きるために必要な分だったとしても、彼らには関係ないのだ。

けれどせっかくサフィ様が生み出してくれた生きるための糧を、丸々あいつらにくれてやる気なんかない。
収穫したほとんどを成形して、サフィ様に隠してもらった。
もう粉をひく必要はない。かまどで焼く必要もない。
外から見て、新しく食糧パンを作っていることがバレることはもうない。

見える形で、およそひと家庭が1年で消費する量に少し増した20袋を積み上げる。
どうせ取られるものを、きちんと保存してやる必要なんかない。籾殻もみがらなんかもそのままだ。
ここまで準備できたら、後はサフィ様を隠すだけだ。
いくらサフィ様が強くても、サフィ様が平民であるという事実は変わらない。平民であれば、貴族には敵わないのだ。
あの美しい人を、汚させるわけにはいかない。

「兄貴、こちらから人を遣るまで、チビ達と隠れていられる場所に心当たりはないですか?」
「あ、リク兄、できればリク兄もついて行って女達を守ってほしいっす」

「ああ、なるほど」
それだけ言えば、リク兄はわかってくださった。
みんなを連れて、裏町へ避難してくださった。

一見この家の支配者は、その出で立ちからリク兄のようにも見えるのだが、リク兄はサフィ様に完全に追従していて、力関係ははっきりしている。
まあ、獣をワンパンで沈めたり、岩混じりの硬い土壌を片手でサクサクと畑に変えていくサフィ様を見ていれば納得するが、見てない人には理解されないだろうと思う。

しかし、リク兄は絶対貴族の血が入っていると思うんだよなあ。
なんでこんな町にいるんだか。
サフィ様も正体不明のお方だしなあ。キサラ町のミニマム商会の跡取りって言われても、なんだか納得できない感じがするのだ。


「おい、マークス。おいでなすったぜ」
「よし、サスケ、ヒサゴ、覚悟は決まってるだろうな」
「もちろんよ」

ガンゴンと叩かれるドアを見つめて、気合いをいれなおす。
ドアを開ければ案の定。

「ああ、ここが新しく農地を開拓した家主様宅で間違いないかな」

デブっとした禿げ頭に、ごっつい剣を携えた騎士5人。
思ったよりも少なかったな。



☆☆☆


「おい、お前ら、生きてるか」
ガシガシ殴られた腹を抱えて、床に転がったままヒューヒューと声を出す。

「まあ、なんとか」
倒れているのは十数人の男達だ。

「俺、サフィ様を呼んできます」
ひょろりとした力仕事に向いていないダボスは、早々に倒れたふりをしてやり過ごしたらしい。
それでいい。
みんなやれることはそれぞれ違うのだから。

「サフィ様、怒るかなあ」
「怒るだろうなあ」
「でも貴族に手を出して、次軍隊が寄せられるよりはいいだろうさ」
「そうならないために頑張ったんだしな」
きっとこの場にいたら、サフィ様は俺達をなんとしてでも守ろうとしただろうから。

貴族に楯突けば、次は軍が出てくる。いくらサフィ様が強くても、数には勝てない。1人で守れる範囲なんか、知れてる。
いや、優しいサフィ様のことだ。
俺達のうち誰かが人質に取られただけで、きっと向こうの意見をのんでしまうだろう。
だからいろいろ知ってる俺たちが、計算された弱さで抗って、計算通りにボコられたのだ。

麦袋はお情けで1袋だけ残されていた。
たくさん積んであったモズラには手すらつけなかった。

俺らダボスの知恵の勝ちだ。
あいつらにしてみれば、麦袋は持って行かれてもこの冬食いつなぐ分は残った形だ。冬が越せればまた働けばいい的な。
いや、来年新しく植えるための種しか残していっていないともいえるか。

だが、実際にはきちんと1年分の食料は確保できている。

あははは!ザマアミロ!
俺たちの手元には、きちんと一年分の食糧パンが残ったぞ!
あのムカつく貴族の目を掻いくぐって、勝ったんだ!


まあ、立てないくらいボッコボコにされたけどな。
それでも貴族を出し抜けた爽快な気分で、俺たちは笑い続けた。
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