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47話 sideシルベール
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日に日に瘴気が濃くなり、城の中であっても安心できないようになった。
瘴気は本殿のある主郭にはあまり現れないけれど、母の住処である離宮方面は息をするのを躊躇われるほど囲まれることもある。
そのせいか、母も塞ぎ込んだり急に怒り出したりと精神が脆くなっていた。
そんな時だった。
私が、あの方と出会ったのは。
魔術班より配布された魔除けの玉があるから無事ではあったけれど、周りを瘴気に囲まれて息苦しさや恐怖から座り込んでしまっていた。
護衛は1番先に捕われて、息があるのが辛うじてわかるだけだ。
玉に魔力を込めてこの場を凌いではいるが、その魔力にも終わりはある。
これほどまでに濃い瘴気なのだ。
もうダメかもしれない。
そんな風に思った時、それは起きた。
美しい青い炎が私達の周りを囲んだと思ったら一瞬で瘴気は消えていた。
青い炎から現れた彼は、優しく笑みを湛えて私を抱き上げ『もう大丈夫ですよ』と言ったのだ。
不思議と、この人が言うなら本当に大丈夫なんだとすぐに信じることができた。
それからは、その人のことが気にかかる日々となった。
これが好きだという気持ちだと気づくまで、それほど時間はかからなかった。
「あの方はどんな方が好ましいと思うのかしら」
友人に想いを告げると『あの方は市井でも有名で、それは人気のある方だそうですよ』と教えられた。
けれど『ただの庶民ですから、シルベール様には相応しくありません』とも。
それでも友人達は私を応援してくれることに決めたのだった。
彼女達はこの恋が実らないことを承知の上で、青春の一時、私の思い出作りに協力してくれたのだ。
「クリス様にはお兄様がいらっしゃるのですって。その兄が理想のお相手だと公言しているそうですよ」
そして見に行ったクリス様の兄の姿に、私の心は萎んだ。
落ち着いた雰囲気も、細く優しい出立ちも、華やかさを好む派手な私とは正反対だった。
友人達は、そんな私の様子に気づいていた。
そんな中、離宮の汚染状況に宮の場所を替える提案がなされた。
そして場所を移動したことによって、気づいたことがある。
邸をかえてひと月。
前の邸に瘴気は現れていないというのだ。
母に相談せずこっそりと元の邸に戻ると、それは事実であった。
そしてそのまま居着いた私の周りに、瘴気が溢れることはなかった。
だとするならば、あの瘴気は母を追いかけてきているということにならないか。
でも、なぜ?
疑問は、胸に重くのしかかった。
学院が休日の日、あの方の鍛錬している姿をひと目見たいと演習場に向かうと、その人はいた。
近くにあのクリス様の兄様もいる。
他の3人に比べると小さな彼は、1時間程一緒に身体を動かすと移動して休憩に入った。
あの細さでは、同じように動くのは無理なのだろう。
失礼な言葉を交わしたにもかかわらず、あれからも兄様は声をかければ普通に接してくれる。
心の器が随分と大きい方なのだ。
……クリス様が一目置く理由は確かにあるのだと、知った。
「なんでクリス様たちと張り合うのです?張り合うのならば、私たちとでしょう?」
鍛錬から1人抜けた兄様に、友人達は軽口を叩く。
「なんでだよ」
「どこから見ても女役ですのに」
「ぐっ……お前ら、女なのにきついぞ」
彼女達も自分の口にしていることが、酷い言葉だと知りながら、それを許しているサリスフィーナ様に気づいている。
クリス様の方を見ると、3人が睨むようにこちらに顔を向けていた。
あの3人にとって、兄様は特別なのだろうな。
だからそれからも私は、庭に、食堂に、兄様を見つけると近づいて声をかけるのだ。
いつも喧嘩腰になってしまうけど。
友人達も、最初は私のために始めた意地悪が、他では得られない時間になったと言っていた。
気を使わなくて済む戯れの時間に、何故か救われているのだ。
心の泥を淀みを口に出すと、兄様が全部優しい笑いに変えて浄化してくれるから。
本当はあの人みたいになりたいのに。
あの方に愛される、あの人みたいになりたいのに。
私の弱い心が、彼を攻撃する言葉を紡ぎ出すのだ。みんなを導く優しい兄様のようには、なれない。
わかっているのにできない自分に、肩を落として周囲を仰ぎ見た。
「シルベール様?」
そうだった。
お母様の忘れ物を届けに行かなくては。
お母様の癇癪がひどくなれば、周りにいる者達は辛いだろうから、慌てて母を追いかけてきたのだった。
部屋を出て庭を横切ろうとした時だった。
瘴気が渦巻いていた。
「シルベール様!!」
「きゃあっ」
「シルベール様!どうぞこちらに!!」
侍女達も恐ろしいだろうに、私を庇い前に出る。
いつもは纏わり付かない瘴気が、追いかけてくる。
「誰かいるのか?!大丈夫か?!……シルベール様?」
「あ、あ、サリスフィーナ様」
震える声で応えても、足が竦んで動けない。
ここに来てくれたのが、クリス様だったら。
そうだったらどんなにか心強かっただろう。
一瞬、そんなことを考えた。
…………あれは、クリス様ではないわよね?
「サリスフィーナ様?」
だって、瘴気が消えたもの。
「すまない。俺は魔力量が多い方ではないから、これが限界です。シルベール様を安全な所までお連れしますから、皆さんもついて来てください」
そう言って走り寄ってきた兄様が、私を軽々と抱き上げて走り出した。
この細い腕のどこに力があるというのか。
見た目が儚くとも、この人も男であったのだなと、当たり前のことをおかしく思った。
「おかしいな。行く先行く先に瘴気が待ち構えているなんて。シルベール様、何かいつもと違う物など身につけていたりしませんか」
行く先行く先で現れる瘴気に、サリスフィーナ様が手持ちの浄化玉を投げつけるけれど、数が多過ぎるのだ。
おかしい。
「いつもと違う物……あ!お母様が忘れていった物を持っていますけど」
「『瘴気の元凶の人かあ』……お借りしても?」
「え、ええ」
サリスフィーナ様が何を言ったのか正しく理解はできなかったけれど、忘れ物を渡せばいいことだけは理解した。
「これなのですけど」
受け取ったサリスフィーナ様が、手にとってくるくると回していると、宝石部分から黒いものが飛び出した。
「これが汚染されていたみたいですね。瘴気を呼び寄せていたようです」
ああ、ではやはり、やはり母には何かあるのだ。
「なぜ、サリスフィーナ様は私を助けてくださるのです?」
よくわからない暗い気持ちを抱えて、私は願った。
こんな暗い想いを、サリスフィーナ様がいつものように軽い笑いに変えて、取り払ってくれたらいいのにと。
そして、もう一つの想いも。
どんなにあの方を想っても、決して報われない、この想いも。
いずれ国のため、好いてもいない相手の元へ嫁ぐ身なのだ。
今だけ、夢が見たかった。
こんな想いも全て払ってくれたなら。全部なくなってくれるかもしれない。
こんなに苦しい思いも、全部。
その手に、その腕に、ほんの少しでいい。
触れたかった。
ただの挨拶でもいい、言葉を交わしたかった。
笑いかけてほしかった。
身分が違いすぎるのだ。はなから望みなどない。
だから、その思い出だけで生きて行こう、そう覚悟を決めたかった。
ただそれだけ、だったはずなのに。
この気持ちは、いつのまに、こんなに育ってしまっていたのだろう。
なんの見返りもなく守ってもらったのは初めてだったのだもの。
平民なのに、堂々としたその振る舞いが、物語の王子様みたいで、憧れたのだ。
あの方に大切にされてる貴方が羨ましかった。
だから、結構酷いことも口にしてきたはずなのよ。
なぜ、そんな私を守ってくれるの?
「なぜ、守ってくれるの?」
「シルベール様?」
「私、貴方に酷いことを言ったわ。私のこと、嫌いでしょう?なのに、なんで」
こんな私を、守ってくれるの?
「貴女が素敵な女性だからですよ。シルベール様の言う酷いこととは、弟に想いを寄せて近づきたいと願ってくれる、ただの可愛い我が儘ですから」
「え?」
「これだけ毎日話していればわかりますよ。……シルベール様、どうか時間の許す限り、弟を想ってやってください『俺のせいで、クリスは貴女と一緒になれなくなってしまったのだから』」
「サリスフィーナ様?」
泣きたいのは私の方なのに、何故かサリスフィーナ様の方が泣きそうになっている。
何か声をかけなきゃと思った時だった。
ハッと何かに気づいた彼の表情が険しくなった。
遅れて、大きな衝撃音が響き、大地が揺れた。
「敵襲ー!!!!」
「全員建物内へ入れ!!!」
屋敷を守る者達が、剣を片手に走り回っている。
何が起きているの?
サリスフィーナ様が腰の袋から、彼の背丈よりも大きな両手剣を引き摺り出した。
「サリスフィーナ様?」
「シルベール様、ここは俺が抑えます。どうぞ安全な場所へ」
「ダメです!一緒に逃げましょう!」
サリスフィーナ様に何かあったら、あの方が悲しむ。
戦う者は他にいます!
「どうかご無事で」
引きとめようとした手はあっさりと解かれ、サリスフィーナ様は爽やかに笑うと走り出した。
サリスフィーナ様は私の心配をよそに、襲いかかる魔物の群れを次々と斬り伏せていた。
あんなに大きな剣が、まるでおもちゃみたいに振り回されて。
どこにそんな才能を隠していたのだろうか。
「シフォン、来い!!」
サリスフィーナ様の叫びで、煌めく神獣が2体舞い降りた。
「へ?クゥか?デカくなりやがって、ズリいぞ」
神獣様と仲睦まじいサリスフィーナ様。
白く輝く神獣が、黒い魔獣を蹴散らして進む様は圧巻で、それを従える彼は人とは思えない美しさだった。
どこからかいつも周りを固める3人も走り来て、ああ、サリスフィーナ様は特別な方だったのだと思い知った。
「あのご兄弟は、すごい方達ですね」
侍女が私の手を握った。
「さあ、シルベール様、彼等の邪魔にならないよう、建物内へ避難いたしましょう」
「ええ。ええ、そうね」
ああ、敵わないな。
あの人には敵わない。
これほどまでに鮮やかな敗北は、これからもこの先もないだろう。
私はやっと、自分の心と向き合う覚悟ができた気がした。
瘴気は本殿のある主郭にはあまり現れないけれど、母の住処である離宮方面は息をするのを躊躇われるほど囲まれることもある。
そのせいか、母も塞ぎ込んだり急に怒り出したりと精神が脆くなっていた。
そんな時だった。
私が、あの方と出会ったのは。
魔術班より配布された魔除けの玉があるから無事ではあったけれど、周りを瘴気に囲まれて息苦しさや恐怖から座り込んでしまっていた。
護衛は1番先に捕われて、息があるのが辛うじてわかるだけだ。
玉に魔力を込めてこの場を凌いではいるが、その魔力にも終わりはある。
これほどまでに濃い瘴気なのだ。
もうダメかもしれない。
そんな風に思った時、それは起きた。
美しい青い炎が私達の周りを囲んだと思ったら一瞬で瘴気は消えていた。
青い炎から現れた彼は、優しく笑みを湛えて私を抱き上げ『もう大丈夫ですよ』と言ったのだ。
不思議と、この人が言うなら本当に大丈夫なんだとすぐに信じることができた。
それからは、その人のことが気にかかる日々となった。
これが好きだという気持ちだと気づくまで、それほど時間はかからなかった。
「あの方はどんな方が好ましいと思うのかしら」
友人に想いを告げると『あの方は市井でも有名で、それは人気のある方だそうですよ』と教えられた。
けれど『ただの庶民ですから、シルベール様には相応しくありません』とも。
それでも友人達は私を応援してくれることに決めたのだった。
彼女達はこの恋が実らないことを承知の上で、青春の一時、私の思い出作りに協力してくれたのだ。
「クリス様にはお兄様がいらっしゃるのですって。その兄が理想のお相手だと公言しているそうですよ」
そして見に行ったクリス様の兄の姿に、私の心は萎んだ。
落ち着いた雰囲気も、細く優しい出立ちも、華やかさを好む派手な私とは正反対だった。
友人達は、そんな私の様子に気づいていた。
そんな中、離宮の汚染状況に宮の場所を替える提案がなされた。
そして場所を移動したことによって、気づいたことがある。
邸をかえてひと月。
前の邸に瘴気は現れていないというのだ。
母に相談せずこっそりと元の邸に戻ると、それは事実であった。
そしてそのまま居着いた私の周りに、瘴気が溢れることはなかった。
だとするならば、あの瘴気は母を追いかけてきているということにならないか。
でも、なぜ?
疑問は、胸に重くのしかかった。
学院が休日の日、あの方の鍛錬している姿をひと目見たいと演習場に向かうと、その人はいた。
近くにあのクリス様の兄様もいる。
他の3人に比べると小さな彼は、1時間程一緒に身体を動かすと移動して休憩に入った。
あの細さでは、同じように動くのは無理なのだろう。
失礼な言葉を交わしたにもかかわらず、あれからも兄様は声をかければ普通に接してくれる。
心の器が随分と大きい方なのだ。
……クリス様が一目置く理由は確かにあるのだと、知った。
「なんでクリス様たちと張り合うのです?張り合うのならば、私たちとでしょう?」
鍛錬から1人抜けた兄様に、友人達は軽口を叩く。
「なんでだよ」
「どこから見ても女役ですのに」
「ぐっ……お前ら、女なのにきついぞ」
彼女達も自分の口にしていることが、酷い言葉だと知りながら、それを許しているサリスフィーナ様に気づいている。
クリス様の方を見ると、3人が睨むようにこちらに顔を向けていた。
あの3人にとって、兄様は特別なのだろうな。
だからそれからも私は、庭に、食堂に、兄様を見つけると近づいて声をかけるのだ。
いつも喧嘩腰になってしまうけど。
友人達も、最初は私のために始めた意地悪が、他では得られない時間になったと言っていた。
気を使わなくて済む戯れの時間に、何故か救われているのだ。
心の泥を淀みを口に出すと、兄様が全部優しい笑いに変えて浄化してくれるから。
本当はあの人みたいになりたいのに。
あの方に愛される、あの人みたいになりたいのに。
私の弱い心が、彼を攻撃する言葉を紡ぎ出すのだ。みんなを導く優しい兄様のようには、なれない。
わかっているのにできない自分に、肩を落として周囲を仰ぎ見た。
「シルベール様?」
そうだった。
お母様の忘れ物を届けに行かなくては。
お母様の癇癪がひどくなれば、周りにいる者達は辛いだろうから、慌てて母を追いかけてきたのだった。
部屋を出て庭を横切ろうとした時だった。
瘴気が渦巻いていた。
「シルベール様!!」
「きゃあっ」
「シルベール様!どうぞこちらに!!」
侍女達も恐ろしいだろうに、私を庇い前に出る。
いつもは纏わり付かない瘴気が、追いかけてくる。
「誰かいるのか?!大丈夫か?!……シルベール様?」
「あ、あ、サリスフィーナ様」
震える声で応えても、足が竦んで動けない。
ここに来てくれたのが、クリス様だったら。
そうだったらどんなにか心強かっただろう。
一瞬、そんなことを考えた。
…………あれは、クリス様ではないわよね?
「サリスフィーナ様?」
だって、瘴気が消えたもの。
「すまない。俺は魔力量が多い方ではないから、これが限界です。シルベール様を安全な所までお連れしますから、皆さんもついて来てください」
そう言って走り寄ってきた兄様が、私を軽々と抱き上げて走り出した。
この細い腕のどこに力があるというのか。
見た目が儚くとも、この人も男であったのだなと、当たり前のことをおかしく思った。
「おかしいな。行く先行く先に瘴気が待ち構えているなんて。シルベール様、何かいつもと違う物など身につけていたりしませんか」
行く先行く先で現れる瘴気に、サリスフィーナ様が手持ちの浄化玉を投げつけるけれど、数が多過ぎるのだ。
おかしい。
「いつもと違う物……あ!お母様が忘れていった物を持っていますけど」
「『瘴気の元凶の人かあ』……お借りしても?」
「え、ええ」
サリスフィーナ様が何を言ったのか正しく理解はできなかったけれど、忘れ物を渡せばいいことだけは理解した。
「これなのですけど」
受け取ったサリスフィーナ様が、手にとってくるくると回していると、宝石部分から黒いものが飛び出した。
「これが汚染されていたみたいですね。瘴気を呼び寄せていたようです」
ああ、ではやはり、やはり母には何かあるのだ。
「なぜ、サリスフィーナ様は私を助けてくださるのです?」
よくわからない暗い気持ちを抱えて、私は願った。
こんな暗い想いを、サリスフィーナ様がいつものように軽い笑いに変えて、取り払ってくれたらいいのにと。
そして、もう一つの想いも。
どんなにあの方を想っても、決して報われない、この想いも。
いずれ国のため、好いてもいない相手の元へ嫁ぐ身なのだ。
今だけ、夢が見たかった。
こんな想いも全て払ってくれたなら。全部なくなってくれるかもしれない。
こんなに苦しい思いも、全部。
その手に、その腕に、ほんの少しでいい。
触れたかった。
ただの挨拶でもいい、言葉を交わしたかった。
笑いかけてほしかった。
身分が違いすぎるのだ。はなから望みなどない。
だから、その思い出だけで生きて行こう、そう覚悟を決めたかった。
ただそれだけ、だったはずなのに。
この気持ちは、いつのまに、こんなに育ってしまっていたのだろう。
なんの見返りもなく守ってもらったのは初めてだったのだもの。
平民なのに、堂々としたその振る舞いが、物語の王子様みたいで、憧れたのだ。
あの方に大切にされてる貴方が羨ましかった。
だから、結構酷いことも口にしてきたはずなのよ。
なぜ、そんな私を守ってくれるの?
「なぜ、守ってくれるの?」
「シルベール様?」
「私、貴方に酷いことを言ったわ。私のこと、嫌いでしょう?なのに、なんで」
こんな私を、守ってくれるの?
「貴女が素敵な女性だからですよ。シルベール様の言う酷いこととは、弟に想いを寄せて近づきたいと願ってくれる、ただの可愛い我が儘ですから」
「え?」
「これだけ毎日話していればわかりますよ。……シルベール様、どうか時間の許す限り、弟を想ってやってください『俺のせいで、クリスは貴女と一緒になれなくなってしまったのだから』」
「サリスフィーナ様?」
泣きたいのは私の方なのに、何故かサリスフィーナ様の方が泣きそうになっている。
何か声をかけなきゃと思った時だった。
ハッと何かに気づいた彼の表情が険しくなった。
遅れて、大きな衝撃音が響き、大地が揺れた。
「敵襲ー!!!!」
「全員建物内へ入れ!!!」
屋敷を守る者達が、剣を片手に走り回っている。
何が起きているの?
サリスフィーナ様が腰の袋から、彼の背丈よりも大きな両手剣を引き摺り出した。
「サリスフィーナ様?」
「シルベール様、ここは俺が抑えます。どうぞ安全な場所へ」
「ダメです!一緒に逃げましょう!」
サリスフィーナ様に何かあったら、あの方が悲しむ。
戦う者は他にいます!
「どうかご無事で」
引きとめようとした手はあっさりと解かれ、サリスフィーナ様は爽やかに笑うと走り出した。
サリスフィーナ様は私の心配をよそに、襲いかかる魔物の群れを次々と斬り伏せていた。
あんなに大きな剣が、まるでおもちゃみたいに振り回されて。
どこにそんな才能を隠していたのだろうか。
「シフォン、来い!!」
サリスフィーナ様の叫びで、煌めく神獣が2体舞い降りた。
「へ?クゥか?デカくなりやがって、ズリいぞ」
神獣様と仲睦まじいサリスフィーナ様。
白く輝く神獣が、黒い魔獣を蹴散らして進む様は圧巻で、それを従える彼は人とは思えない美しさだった。
どこからかいつも周りを固める3人も走り来て、ああ、サリスフィーナ様は特別な方だったのだと思い知った。
「あのご兄弟は、すごい方達ですね」
侍女が私の手を握った。
「さあ、シルベール様、彼等の邪魔にならないよう、建物内へ避難いたしましょう」
「ええ。ええ、そうね」
ああ、敵わないな。
あの人には敵わない。
これほどまでに鮮やかな敗北は、これからもこの先もないだろう。
私はやっと、自分の心と向き合う覚悟ができた気がした。
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