無自覚オメガとオメガ嫌いの上司

蒼井梨音

文字の大きさ
45 / 53
第四部

II

しおりを挟む
夕食後、片づけを終えて、俺はソファに腰を下ろした。
「今日ね、新しい取引先に行ってきたんだ。天城商事ってところ」
と、マグカップを両手で抱えながら話す。

迅さんは隣で書類を読んでいたが、顔を上げた。
「どうだった?」
「うん、思ったよりスムーズだった。桐島課長がすごくうまく場をまとめてくれて。あの人、ちょっと苦手だけど……仕事のときはやっぱりすごいんだなって思った」
そう言って、ふわっと笑った。

「ふーん」
迅さんは口元をゆるめつつ、ほんの少し眉を寄せていた。
苦手と言っていた桐島課長を素直に褒めているのが、迅さんの胸に引っかかってるだろうけど、俺は気づいてはないんだけど。

「それとね、向こうの担当の天城さんって人、すごく感じのいい人で。若いのに仕事早くて、段取りもきっちりしてて、しかもイケメン」
「……イケメン?」
「うん。なんか、芸能人みたいな人だった」

ちょっとうっとりしちゃったけど、そこは秘密にしとく。
でも俺のその言葉に、迅さんの喉が小さく鳴る。
「へぇ。……そりゃ、やる気も出るな」
軽く冗談めかした言葉だけど、声の奥に刺のようなものが混じっている……、まぁ俺はそんなことには気づいてないから、無邪気に笑う。
「まぁね。仕事は楽しい方がいいし」

その夜、寝室で寄り添ってきたとき、迅さんは一瞬、腕を回すタイミングを迷ってる気がした。
それでも結局、いつも通りに抱き寄せてくれる。
「迅さん、好き」
俺が囁くと、迅さんはやっぱりいつも通り優しく受け入れてくれる。
俺は抑えきれなくて、匂いが漏れ出てしまい、迅さんを見上げて、ねだってしまう。
迅さんは
「……ばか」
とだけ言って、唇を落としていつものように夜が更けていく。



それから何日かして、昼前にスマホに着信が入った。
画面を見ると、《天城玲央》

「はい、もしもし」

『あ、白鷹さん。今、ちょうど近くで別件が終わって。少し確認したいことがあるんだけど、昼食とりながら話せる?』

今日は迅さんが早く出かけてしまい、お弁当がなかったので、昼食どうしようか、悩んでた。
俺は少し考えてから「はい」と答えた。

会社近くのカフェで昼食をとることに。
天城さんは終始にこやかで、最初の印象よりも柔らかい。
昼休みの混雑した店で、軽く書類を見直しながら話が進む。
仕事の話の合間に、天城さんがふと尋ねた。
「そういえば、白鷹さんって、ご結婚されてるんですよね?」
「え、あ、はい。最近です」

天城さんの表情が、ほんの一瞬だけ変わった。
その瞳が、まっすぐ俺を見つめる。

「でも番じゃないんですね?」
「えっ?……あ、まぁ……」

俺は言葉を濁してる。
なかなかタイミングが合わなくて。
やっと迅さんに素直に甘えられるようになったから、次にヒートがきたときに……!
なんて、考えてた。

天城さんは、声のトーンは穏やかなまま、笑顔も崩れない。
「番じゃないんだったら、僕にもチャンスがありますかね」

俺はふわっと笑いながらも、
「……え? チャンスって?」
と少し遅れて思考が止まった。

「冗談ですよ」
天城さんは机の上の書類をまとめながら軽く受け流した。

俺は少し赤くなって、
「え、えぇ……」と曖昧に笑ってごまかした。

――そして夜になっても、その言葉が頭の中で引っかかっていた……


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

秘密

無理解
BL
好きな人に告白するために一緒に帰る約束をした、ある放課後

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

恋が始まる日

一ノ瀬麻紀
BL
幼い頃から決められていた結婚だから仕方がないけど、夫は僕のことを好きなのだろうか……。 だから僕は夫に「僕のどんな所が好き?」って聞いてみたくなったんだ。 オメガバースです。 アルファ×オメガの歳の差夫夫のお話。 ツイノベで書いたお話を少し直して載せました。

幸せごはんの作り方

コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。 しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。 そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。 仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。

【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。 イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。 父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。 イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。 カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。 そう、これは─── 浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。 □『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。 □全17話

勘違いへたれアルファと一途つよかわオメガ──ずっと好きだったのは、自分だけだと思ってた

星群ネオン
BL
幼い頃に結婚の約束をした──成長とともにだんだん疎遠になったアルファとオメガのお話。 美しい池のほとりで出会ったアルファとオメガはその後…。 強くてへたれなアルファと、可愛くて一途なオメガ。 ありがちなオメガバース設定です。Rシーンはありません。 実のところ勘違いなのは二人共とも言えます。 α視点を2話、Ω視点を2話の後、その後を2話の全6話完結。 勘違いへたれアルファ 新井裕吾(あらい・ゆうご) 23歳 一途つよかわオメガ 御門翠(みがと・すい) 23歳 アルファポリス初投稿です。 ※本作は作者の別作品「きらきらオメガは子種が欲しい!~」や「一生分の恋のあと~」と同じ世界、共通の人物が登場します。 それぞれ独立した作品なので、他の作品を未読でも問題なくお読みいただけます。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...