拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

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15.追跡

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 昼間回って見つけた裏社会の情報源となりそうな場末の酒場で、フィグルドはこの街で人身売買が行われており、人攫いが起きていると耳にした。
 
「この国は比較的みんな陽気だから、あまり人を疑うことを知らない。旅の人を家に招いたら娘さんが攫われた、なんてことが起きる」

 酒場の酔っ払いが与太話のように話しているが、おそらく本当のことだろう。案外こういった酒におぼれるような奴から、そういう世界へ引きずりこまれる。その日の酒代欲しさに犯罪に手を染めるのだ。そして得てして、それくらいの動機で犯罪を起こした者ほど、自分の武勇伝として人に聞かせたくなるという心理を持つ。

 人間を愛せよ、という素晴らしい気質の国ではあるが、そこを逆手にとられて、こういった犯罪が無くならないらしい。

 闇神フォグは陰鬱な気が多いところに蔓延しやすい傾向があるため、ある意味リム王国はサイアス王国の次に被害が少ない国だ。だがその代わり、その性質を利用した犯罪が起きやすい国でもある。

 フィグルドはいつもの聖騎士然とした服装ではなく、この場に馴染むような南国風の衣装に着替え、目立つ容姿を隠すためにフードを被っていた。 かなり怪しい身なりではあるが、この酒場では、目がギラギラとした危ない奴も多いため、さほど気にされない。

 フィグルドはカウンターに座ると、無口な店主にだけ、金貨をちらりと見せた。

「……人身売買集団の規模と頭はわかるか?」
 
潜めた声で尋ねると、店主は金貨をす、と懐に入れてできるだけ口を動かさない形で答えた。
 
「規模は四十人ほど。頭は……この街の領主だって噂だ……あくまで噂だがな」
 
 ぴくりとフィグルドの片方の眉があがる。最後の一言は、彼なりの護身だろうか。この街を浄化の拠点にすると決めた時、当然ながら支援を求めて領主とは顔合わせをしている。ひどく自身を着飾り、虚栄心の強そうな人物だったと記憶している。

 この街を牛耳る人物が危険人物であるということは、この街での滞在期間の危険度がかなりあがった。

 フィグルドの腹の底が、ずしりと重たくなったその時。
 
「フィグルド……!」
 
フィグルドの影から、イサラが飛び出した。酒場にいた客が、突然人が床から飛び出してきたことに、驚く。

「なんだ!?今のは!」
 
あり得ない現象を目にして騒めく店内に、フィグルドは不要に目立つのを避けるため、咄嗟にイサラの首根っこを掴んで店を飛び出した。後ろから興味本位で自分達をつけている人物がいないと確認してから、身を隠すように建物の間にある路地に入り込むと、掴んでいたイサラを降ろした。
 
「イサラ、俺の聴覚ならわざわざ来ずとも聞こえると……っ」
 
フィグルドの言葉を遮って、イサラは焦った顔で告げる。
 
「リナリアが、攫われた!」
「!?」
 
フィグルドの目が衝撃に見開かれる。イサラの顔面が蒼白だ。彼は本日、リナリアの身辺警護を担当していた。なのに、少し外で涼みたいからと外に出るリナリアを、止めなかった。すぐそこだから、と油断した隙に、リナリアは何者かに攫われてしまった。

 フィグルドはぐっと腹から湧き出る彼女の危険を自身が阻止できなかった怒りを飲み込むと、まずは状況確認を優先した。
 
「……説教は後だ。どちらの方向へ行ったかは確認したか?」
「……うん、気づいた時にはかなり離れられてたけど、振動で距離と方向はわかった。人数は多分……三人。音の感じからして、リナリアを担いで移動している」

イサラは能力の特性的に聴力は高くないが、振動音で様々なことを察知、判断することが出来る。聖騎士は皆、それぞれの神の特性を受け継ぎ五感のどこかが鋭い。常人では感知できないことを感知できるが、この能力は常時発動が難しい。常に発動すると人間の身には余るほどたくさんの情報が集まりすぎて、下手をすると精神崩壊を招くためだ。

 そのため、イサラもあえて意識を集中していない時は負担を抑えるために、感覚を常人と変わらない状態にしている。

 聖騎士は神の祝福により人ならざる力を持ってはいるが、決して万能ではない。それをどう活かすかは、個々の精神力や体力など含めて、複合的に決めているのだ。

 フィグルドはイサラの頭に、ぽんと手を乗せる。
 
「十分だ。あとは俺が行く。お前は宿に戻ってディー達に報告しろ」
「ぼ、僕も手伝う……!」
 
イサラの必死な主張に、フィグルドはゆるく首を振った。

「この街での浄化はまだ始まってもいない。派手に動くことで、浄化をしづらくなるのは問題がある」
 
 それに、先ほどの情報から、人攫いの黒幕はこの街の領主の可能性が高い。
 
「イサラ、もう一つ頼まれてくれるか?……エカルラートに伝言を」
 
頼む、という言葉にイサラは唇を噛み締めながら、しっかりと頷いた。



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