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20.尋問
しおりを挟むノエスとお散歩とお喋りを楽しんでいたら、不思議で独特なテンポに巻き込まれて、なんだか少しだけ、勇気を貰えた気がした。
予知夢を見たということは、ある意味ではまだ凶事が「起きる前」だ。
場所が王城の教会だった、ということは……今日明日に起きるようなことではないことがわかる。きっと、猶予はある。
まずは情報収集しなくちゃ。何かフィグルドさんを助け、危機を脱するヒントがあるかもしれないし。
帰りも遠慮するリナリアを問答無用で抱っこして、宿屋に帰る。ノエスは玄関口でリナリアを降ろすと、仕事に戻った。玄関ホールから見える食堂には一人、フィグルドが残ってテーブルに向かって座っている。今、この宿屋に泊まっているのは聖女一行だけなので、他に客はおらず、基本的に食堂も貸し切り状態だった。狭い部屋に大人数集まるより、とこの宿では食堂が作戦会議の場となっている。
リナリアは、一度二階の部屋に戻って手記と金褐色の万年筆を取ってくる。それを、胸元でぎゅっと握りしめると、勇気を出してフィグルドに近づいた。
どうやら彼は、机に向かって手紙をしたためているようだ。さすがに内容を覗くのはまずいかな、と思ってぴたりと動きをとめると、気配を感じたのか、フィグルドが振り返った。
「ああ、おかえりなさいませ」
「……ただいまです……」
案の定緊張で一瞬詰まったリナリアを気にするでもなく、フィグルドが立ち上がった。
「座りますか?」
尋ねながら、リナリアが座りやすいように自然と椅子を引いてくれる。相変わらずのスパダリっぷりに「そりゃぁ、こんなにイケメンで地位も名誉もある人、恋人や婚約者の一人や二人いて当然だよね。どうしてそんな当たり前のこと、今まで思い至らなかったんだろう」なんて考えてから、ああ、そうか、と合点がいった。
多分きっと、今まで自分は、積極的に彼のことを知ろうとしてこなかったんだ。彼の事務的な淡々とした態度が、怖いと感じて、自分から関わろうとしてこなかった。
だけどきっと……今度はそれじゃいけない
リナリアはお礼を言いつつ、引いてもらった椅子に座ると、向かい側に座り直したフィグルドをじっと見つめる。
「何か飲みますか?」
表情は変わらないけれど、いつだって彼は完璧にリナリアを気遣ってくれる。仕事だから嫌々してるんだ、と最初は思っていたけど。実はこれが彼の素、なのかもしれない。
喉は乾いてないから大丈夫だ、と答えてから、リナリアは膝の上に乗せた手記を握りしめる。
「あの……」
勇気を出して声をかけると、彼は作業にはもどらずきちんとリナリアを見て、彼女の言葉を待ってくれている。決して流さないその態度に、背中を押されるように、続けた。
「よかったら、フィグルドさんのことを……教えてください」
フィグルドが想像していた切り口ではなかったのか、わずかに驚いて片眉をあげた。
「急にどうかしましたか?」
それはそうだろう。今まで逃げるような失礼な態度だった女が「貴方のことを知りたい」なんて、突然何かと思われて当然だ。不信感を与えてしまったかもしれない、と、リナリアは慌てて手に持った手記を見せた。
「あの!この旅の手記を書いていて……!旅が終わっても思い出せるよう、一緒に旅をした皆さんのことを……書き留めておきたくて……」
もう一年以上使っているから、少し汚れてはいたけれど、フィグルドはすぐにその手記が何だったかを思い出した。
(……!この手記は……あの時の……)
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