出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

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4話 光を奪う者

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 私から放たれた光が、王子の体を包んでいく。王子の体内に侵入していく。
 そして王子の体の中から、彼の体を蝕むそれを見つけ出す。
 それは彼の中で確かな異物として、強い存在感を放っていた。

「俺が回復した暁には、国を挙げて盛大に祝おう。そして、リゼリアとの婚約を破棄し、新たな婚約者を迎えよう」
「…………」
「なあ、結局、俺を蝕んでいたものは何だったんだ? なぜ俺だけがこのような目に合わなければならなかったんだ!?」

 舞い上がって完治した後のことを想像し、口にしていた王子だったが、ふと疑問に思ったのか、尋ねてきた。
 
「――あなたの体内に埋め込まれた、強すぎる光が異物として暴走し、蝕み、あなたの体質を変えてしまったのでしょう」
「埋め込まれた、だと……?」
「覚えていらっしゃいませんか? あなたは幼い頃、誰も治療法を知らない不治の病に侵され、生死の境を彷徨ったことがあるハズです」
「あ、ああ……確かに子どもの頃の俺はいつ死んでもおかしくないと言われていたが……」
「どうやって治療をしたのか、覚えていますか?」
「それは――」
「当時聖女候補として集められていた子供から、奇跡の力、光の力を抜き取って、移植したんです。その甲斐あって、あなたの体は生命力を取り戻し、生き延びることが出来た。ですが、ただの一般人に、聖女の力はあまりに重すぎた。だからこうして今、強烈な拒否反応を示しているのです」
「――――」

 そう。
 あの時、この国は大事な跡取りである王子を生き残らせるために、聖女を一人犠牲にしたのだ。
 だけど、元より聖女など国や教会の道具の一つであることに変わりなく、この程度では大事にするほどの事件でもなかった。
 
「その光を奪われた聖女は、その後どうなったか、興味がありますか?」
「――聞きたくないな。そんなもの、俺が命じた事じゃない」
「ふふ、そうですよね。あなたなら、きっとそう仰ると思いました」

 私は王子の中に埋め込まれた聖女の力をしていく。
 私が聖女だから王子の呪いを解くことが出来る訳ではない。
 だけど、私だけは彼に埋め込まれた聖女としての力を取り除くことが出来る。

「さあ。終わりましたよ。ゆっくりと目を開いてください」
「あ、あぁ……」

 私はゆっくりと彼の眼を覆う眼帯を取り除く。
 そして久方ぶりにゆっくりと目を開く。
 彼の眼の前に立つ聖女の姿をゆっくりと認識していく。

「私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「――ッ!!」

 わざとらしく、にこやかに笑って見せた。
 目を閉じたまま笑って見せた。
 王子は私の顔を見て、絶句していた。
 
「――お前も、目が見えないのか」
「はい。私はある日、全ての光を奪われました。その日から、私はずっとこうして生きてきました」
「ということは、まさか……」
「ええ、ご想像の通りです」
「――ならなぜ、俺を助けた。俺に恨みがあるんじゃなかったのか? それとも、当てつけか? 俺に何を要求する気だ!!」

 開けたばかりの視界には、あまりに得られた情報量が多すぎたのか、王子は酷く動揺し、怯えた。
 だけど、彼の体はすっかり衰え、すぐに動くことなど出来るはずもなく、私が手を伸ばしても逃げ切ることは出来なかった。
 私はゆっくりと彼の顔へと手を伸ばし、その目を覆うように手のひらを被せた。

「――っ!! まさか俺が呪いに侵されたのもお前の仕業――」
「勘違いしないでください。私はあなたのことを恨んではいなかった。だけどあなたはあの日――」

 私は少し語気を強め、王子に圧をかける。
 そして私は、これまでの思いを吐き出すように口を開いた。

「あなたは――花を潰した」
「……は?」

 そう。
 私はもとより、理不尽に光を奪われ、王子の命を救うための道具にされたことを恨んではいなかった。
 仕方のない事だと受け入れていたし、私のお陰で救われた命があることが誇らしかった。
 だけど、あの日。リゼリアお姉様が家に婚約者を招いた日。
 
 私ははじめて王子と話をした。
 だけどあなたは私のことを不気味に思ったのか、こちらが何を話してもあまり盛り上がることなく、早く離れたいという気持ちを隠そうともしなかった。
 でも、そこまでは良かった。私はただ、私の光で救われた命と対話をしてみたかっただけだから。
 私は今もなんとか生きているから、あまりに気に病んで欲しくないと伝えたかっただけだから。
 だけどそれは杞憂だったようだ。

 そしてその時、私は数少ない自分の趣味についても話した。
 私は庭の片隅でひっそりと花を育てるのが好きだった。
 太陽という大きな光に向けて、精一杯その身を伸ばす彼らの姿が好きで、色も分からないまま育てていた。
 きっとその話を聞いて少し興味を持ったのか、お姉様と一緒に花を植えていた場所を見に行ったのだ。
 
 私が育てている花は美しかった。
 その様を宝石に例えられるほど希少で、美しい花が咲いていたらしい。
 王子はその花をお姉様への贈り物に加工しようと思い、何輪か摘んだ。
 だけど、私の花も一緒に管理してくれていた庭師がそれを見て慌てて止めに入った。
 そう、その花には毒があったのだ。
 正しく扱えば毒にやられることはまず無いが、王子が花を持って帰ってしまっては何かあった時に責任が取れない。
 そう思って庭師は声をかけたのだろう。

 しかし、毒があると分かった瞬間、王子は花を地面にたたきつけ、残った花も全て潰してしまった。

「俺に毒物を触らせるとは何事だ! こんなもの、即刻処分しろ!!」

 と。
 元より私の味方ではないお姉様はそれに同調し、結局、私が育てていた花は、毒があろうがなかろうがすべて処分されてしまった。
 私が一生懸命咲かせた花は、全て無意味なものになってしまった。

「う、あ、目が――目が!!」

 私の手のひらに充てられた目は、ゆっくりと閉じていった。
 それと対照的に、私の目は徐々に光を取り戻していく。
 元より、聖女の光の力がなければ既に死んでいるはずの男。
 光の力をすべて取り除けば、彼の目にはもう闇しか映らなくなる。

「やめ――やめろ!! 返せ! 俺の光――俺の、命!!」
「返せ、ですって? これは元々私のもの。返してもらうのは、こちらの方です」
「あ、あぁ、やだ! 嫌だ!! 何も見えない! 見えないィぃ!!」

 多分、時間をかければ光の力を調整して呪いだけを解くことも出来たかもしれない。
 だけど、あなたは私からその選択肢を奪った。
 あなたを救いたいという気持ちを踏みにじった。
 なら、私はもう、あなたを救えない。

「さようなら」

 私はそう一言だけ告げて、哀れな王子に背を向けた。
 その日、王城に咲いていた全ての花が枯れ果てた。
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