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episode.02
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今日も今日とて、ソフィアは多忙を極め、あっという間に時間は過ぎ去り、もう夕刻となっていた。
お昼を食べ損ねたせいで腹ペコだ。
リディオからもらったチョコレートも大事に食べていたのだが、先程最後の1粒を食べ終えてしまった。
「つか、れた………」
これから夕食を作る気などまるで湧かない。買いに行くにも手間を感じる。
だけどお腹は空いた。
「……………よし、買いに行こう。その方が絶対に早い」
出来合いの物を買うより自分で作った方が安上がりなのは間違いないが、今日は頑張ったから良いのだ。
たまにはご褒美に誰かが作ったご飯を割高で食べたって許されるはずだ。毎日だって良いくらい頑張っている。
「それは言い過ぎか」
独り言を呟いてソフィアは外に出た。入り口には【街に出ています】の看板をぶら下げ、よしと意気込んで商店街へと向かう。
夕刻だと言うのにメイン通りは賑わいを見せている。この辺りは夜になると飲み屋街になるから、既に宴会が始まりつつあるのかもしれない。
「おばさん!この串のやつを2つ!」
「おや、ソフィじゃないか。なんだい?少し痩せたかい?1本おまけだよ」
「いいの?ありがとう」
気前のいい出店のおばさんに串団子を一本サービスして貰って、ソフィアは空腹なのもあって次々に屋台を回り歩いた。
それはもう、ご褒美にふさわしく
「………買いすぎた」
絶対に1人では食べられないくらいに買い込んでしまった。
保存の効きそうなものは明日の朝と昼に食べればいいかと、店に戻ろうとして、ソフィアはある人物が目についた。
黒地の騎士服と青みがかった外套は王宮騎士の制服だ。街の見回りをしているらしい。
もしかしてリディオがいるかもしれないと探してみたのだが、それらしき人物は見当たらないまま行ってしまった。
もしも会えたら、チョコレートが美味しかった話をしようと思ったのだけれど、王宮騎士だって忙しいに決まっている。
あまり長く店を留守にして、急患がやってきたら大変だとソフィアは1人踵を返し、買った料理の熱が冷める前に店に帰って来たのだが、少し離れたところで足を止めた。
店の入り口に、青みがかった外套を身につけた後ろ姿を見たからだった。
騎士は皆同じ服を着ているはずなのに、なぜか分かりやすい。
「………リディオさん?」
ソフィアの声に反応してこちらを振り返ったのは、紛れもなくリディオ本人だった。
「どうしたんですか?また何かありましたか?さっき、街で他の騎士さん達を見ましたけど…」
また喧嘩だろうかと足早に駆け寄ってリディオを見上げたソフィアだったが、リディオの表情が思わしく無い事に気付いて、やはり喧嘩か?とソフィアにも嫌な予感が過った。
だがソフィアの予感はまるで見当違いだった。
急に頬に手を当てられて、驚いた拍子に抱えていた紙袋を落としそうになる。落とさないように腕に力を込めたせいで、ガサガサと袋が音を立てた。
「きちんと眠れているのか?」
「………え」
全く予想していなかった発言に、ソフィアは素っ頓狂な声が漏れて出た。
そして答えるまで解放してくれないらしい。
「えっ…と、あ…昨夜はちょっと、急患が………」
「………そうか。疲れているのに邪魔しては悪いか」
「え?」
何の事かと思っていると、リディオは片手に持っていた袋をソフィアに差し出した。
何だろうと受け取って中身を見ると、美味しそうに色づいたリンゴだった。しかもたくさん。
「私に…ですか?」
「それ以外に誰かいるのか?」
「いませんけど」
手当をしたお礼だと言うならもう貰った。まさか、お礼のお礼のお礼だなんてそんなわけじゃないだろう。
「リンゴは体に良いし、皮は剥かなくても食べられる。…忙しくても食べられると思ったんだ」
「あ、ありがとうございます」
心配されている。心配してくれている。
それはソフィアにとって、思った以上に嬉しい事だった。
「食事は摂っているようだな」
リディオがソフィアが抱えている袋いっぱいに詰まった料理を見てそう言うと、ソフィアは途端にそれが恥ずかしくなった。
「あ、いや!普段は自分で作ってるんです!!でも今日は疲れてて…お昼も食べ損ねてたしあれもこれも買っちゃって……リ、リディオさんが、自分を褒めろって言うから、今日はご褒美で……普段はちゃんと自分で作るんです!!」
料理をしない食いしん坊だと思われるのはなんだか嫌で、いつもいつもこんなに買い食いをしているわけじゃ無いとソフィアは必死で言い訳をした。
そんなソフィアの心の内は果たして伝わったのか定かでは無いが、リディオは真顔のまま「そうか」とだけ言った。
「そうだ!よかったら食べて行きませんか?やっぱりこの量は1人で食べ切る自信が無くて」
「………」
「あ!まだお仕事中でしたか?だったら引き止めてしまってすみません!」
何を慌てているのか自分でも定かでは無いのだが、忙しい中でわざわざりんごを届けにきてくれた挙句に引き止めていたとしたら申し訳ない。
「いや、今日はもう上がったんだ。だからここへ寄った。」
「そう、でしたか………」
「俺と居て、疲れないか?折角の褒美なんだろ、俺に気を遣ってるならーーー」
「疲れる?何でですか?」
リディオと一緒にいて疲れを感じた事は無い。噂とは違って全然冷酷じゃないし、ソフィアが考えもしなかった事を教えてくれる人だ。
むしろ楽しいとすら言える。
「………いや、何でもない」
ぎこちなく答えたリディオにソフィアは首を傾げたが、それ以上教えてくれる事は無さそうだった。
「食べて行ってください!狭いですけど。あと急患が来たら騒がしくなりますけど」
どうぞ、と開けた扉はいつも通りにカランカランとベルを鳴らした。
お昼を食べ損ねたせいで腹ペコだ。
リディオからもらったチョコレートも大事に食べていたのだが、先程最後の1粒を食べ終えてしまった。
「つか、れた………」
これから夕食を作る気などまるで湧かない。買いに行くにも手間を感じる。
だけどお腹は空いた。
「……………よし、買いに行こう。その方が絶対に早い」
出来合いの物を買うより自分で作った方が安上がりなのは間違いないが、今日は頑張ったから良いのだ。
たまにはご褒美に誰かが作ったご飯を割高で食べたって許されるはずだ。毎日だって良いくらい頑張っている。
「それは言い過ぎか」
独り言を呟いてソフィアは外に出た。入り口には【街に出ています】の看板をぶら下げ、よしと意気込んで商店街へと向かう。
夕刻だと言うのにメイン通りは賑わいを見せている。この辺りは夜になると飲み屋街になるから、既に宴会が始まりつつあるのかもしれない。
「おばさん!この串のやつを2つ!」
「おや、ソフィじゃないか。なんだい?少し痩せたかい?1本おまけだよ」
「いいの?ありがとう」
気前のいい出店のおばさんに串団子を一本サービスして貰って、ソフィアは空腹なのもあって次々に屋台を回り歩いた。
それはもう、ご褒美にふさわしく
「………買いすぎた」
絶対に1人では食べられないくらいに買い込んでしまった。
保存の効きそうなものは明日の朝と昼に食べればいいかと、店に戻ろうとして、ソフィアはある人物が目についた。
黒地の騎士服と青みがかった外套は王宮騎士の制服だ。街の見回りをしているらしい。
もしかしてリディオがいるかもしれないと探してみたのだが、それらしき人物は見当たらないまま行ってしまった。
もしも会えたら、チョコレートが美味しかった話をしようと思ったのだけれど、王宮騎士だって忙しいに決まっている。
あまり長く店を留守にして、急患がやってきたら大変だとソフィアは1人踵を返し、買った料理の熱が冷める前に店に帰って来たのだが、少し離れたところで足を止めた。
店の入り口に、青みがかった外套を身につけた後ろ姿を見たからだった。
騎士は皆同じ服を着ているはずなのに、なぜか分かりやすい。
「………リディオさん?」
ソフィアの声に反応してこちらを振り返ったのは、紛れもなくリディオ本人だった。
「どうしたんですか?また何かありましたか?さっき、街で他の騎士さん達を見ましたけど…」
また喧嘩だろうかと足早に駆け寄ってリディオを見上げたソフィアだったが、リディオの表情が思わしく無い事に気付いて、やはり喧嘩か?とソフィアにも嫌な予感が過った。
だがソフィアの予感はまるで見当違いだった。
急に頬に手を当てられて、驚いた拍子に抱えていた紙袋を落としそうになる。落とさないように腕に力を込めたせいで、ガサガサと袋が音を立てた。
「きちんと眠れているのか?」
「………え」
全く予想していなかった発言に、ソフィアは素っ頓狂な声が漏れて出た。
そして答えるまで解放してくれないらしい。
「えっ…と、あ…昨夜はちょっと、急患が………」
「………そうか。疲れているのに邪魔しては悪いか」
「え?」
何の事かと思っていると、リディオは片手に持っていた袋をソフィアに差し出した。
何だろうと受け取って中身を見ると、美味しそうに色づいたリンゴだった。しかもたくさん。
「私に…ですか?」
「それ以外に誰かいるのか?」
「いませんけど」
手当をしたお礼だと言うならもう貰った。まさか、お礼のお礼のお礼だなんてそんなわけじゃないだろう。
「リンゴは体に良いし、皮は剥かなくても食べられる。…忙しくても食べられると思ったんだ」
「あ、ありがとうございます」
心配されている。心配してくれている。
それはソフィアにとって、思った以上に嬉しい事だった。
「食事は摂っているようだな」
リディオがソフィアが抱えている袋いっぱいに詰まった料理を見てそう言うと、ソフィアは途端にそれが恥ずかしくなった。
「あ、いや!普段は自分で作ってるんです!!でも今日は疲れてて…お昼も食べ損ねてたしあれもこれも買っちゃって……リ、リディオさんが、自分を褒めろって言うから、今日はご褒美で……普段はちゃんと自分で作るんです!!」
料理をしない食いしん坊だと思われるのはなんだか嫌で、いつもいつもこんなに買い食いをしているわけじゃ無いとソフィアは必死で言い訳をした。
そんなソフィアの心の内は果たして伝わったのか定かでは無いが、リディオは真顔のまま「そうか」とだけ言った。
「そうだ!よかったら食べて行きませんか?やっぱりこの量は1人で食べ切る自信が無くて」
「………」
「あ!まだお仕事中でしたか?だったら引き止めてしまってすみません!」
何を慌てているのか自分でも定かでは無いのだが、忙しい中でわざわざりんごを届けにきてくれた挙句に引き止めていたとしたら申し訳ない。
「いや、今日はもう上がったんだ。だからここへ寄った。」
「そう、でしたか………」
「俺と居て、疲れないか?折角の褒美なんだろ、俺に気を遣ってるならーーー」
「疲れる?何でですか?」
リディオと一緒にいて疲れを感じた事は無い。噂とは違って全然冷酷じゃないし、ソフィアが考えもしなかった事を教えてくれる人だ。
むしろ楽しいとすら言える。
「………いや、何でもない」
ぎこちなく答えたリディオにソフィアは首を傾げたが、それ以上教えてくれる事は無さそうだった。
「食べて行ってください!狭いですけど。あと急患が来たら騒がしくなりますけど」
どうぞ、と開けた扉はいつも通りにカランカランとベルを鳴らした。
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