19 / 26
episode.17
しおりを挟む「俺がここにいるからだったら良いのに……?」
……………。
「俺を選べば良いのに………?」
……………。
何だったんだあれは…!?
昨夜はせっかく急患の無い静かな夜だったと言うのに、あの野営の日以降ソフィアはあまりよく眠れなかった。
1人になると月明かりに照らされたリディオの顔が思い浮かんで、その度にちょっと赤面して、その度に頭を悩ませている。
そんなソフィアの元にカストが出勤。朝一番に買ってきた小さな花束に目敏く気付いた。
「なにその花、買ったの?」
「そう、さっき買ってきた。今日少し空けたいんだけど」
「ああ、俺は別に留守番してるから良いけど。どの辺にいるかだけ教えて」
「すぐ戻るけど、霊園に行ってくる」
「りょーかい。墓参りか?…まぁそれしかねえか」
「先生のね。カストはまだ小さかったから先生の事、あんまり覚えてないでしょ?」
先生が亡くなって4年が経つ。もう4年も経った。
「いや、普通に覚えてる。俺そんなに小さくねえし」
「…そう?」
ソフィアにとってカストは今でもまだまだ子供で、4年も前だと赤ちゃんみたいなものだと思っていたけど、案外しっかり記憶はあるらしい。
「じゃあちょっと、早いうちに行ってくるから。何かあったらよろしくね」
「あいよ」
心置きなくとまでは行かずとも、こうして余裕を持って先生の所に行けるのは随分ありがたい。
霊園までの距離はそれほど遠くは無いが、ソフィアは足早に目的地へと向かった。
頻繁に足を運んでいるわけでは無いのに、先生の墓標は綺麗にしてあって、枯れていない花まで供えてある。先生の事を慕っていた誰かが、こうして時折先生の墓を訪れているのだろう。
ソフィアは先生を親の様だと思いながらあまりここには来ていない。もう少し顔を出せと叱られるかもしれない。
「おはよう先生。話聞いてもらいに来たよ」
ソフィアがここを訪れるのは、悩みがある時と、弱音を吐きたい時、気がかりなことがある時、緊張している時…。
総じて、弱気な本音を聞いて欲しい時だ。
先生の病が進んで、体を起こす事も難しくなって、その頃からあの薬屋はソフィアが実質1人で切り盛りする様になった。
だけどまだ16、7のソフィアにはやはり荷が重くて、何度も泣いて、人前でうまく笑うことすら難しくなっていた時、先生は痛む体を無理矢理起こしてソフィアに言った。
「ソフィ。お前はきちんと出来る子だから、堂々としていなさい。お前が弱っていたら、お前を頼っている人達も不安になるよ。辛くなったら私の所においで。私はいつでも、お前の話を聞いてやるから」
だからこうして、ソフィアは時々ここを訪れる。ちゃんと聞いてくれているのか、返事がないから怪しいのだが、聞くと言ったのは先生なんだからちゃんと聞いて欲しい。
「お店の方は順調だよ、カストに手伝いをさせてる。生意気だけどよく出来る子だよ。本人が望むなら、そのうち薬学を教えてもいいと思ってる」
あのカストがねぇ。お前と良いコンビになりそうじゃないか
「………って言うよね、きっと」
先生は男勝りで子供っぽくて、勝負事は特に、子供だったソフィア相手でも容赦無かった。
今だってきっと、「やーい、おバカコンビ~!」とか言って指差して笑っているに違いない。
そんな話をしに来たんじゃないとソフィアは頭を振った。どこから話せば良いのかと少し考えてから口を開く。
「なんか、良くしてくれている王宮騎士さんがいるんだけどね。凄く優秀な人で、そりゃあもう絶対先生も認めるくらい顔面も優秀な人なんだけどね。その人がこの前、私が俺の事を選べば良いのにって…言ってたんだよね。……どういう事だと思う?」
これは、リディオに期待していい案件だろうか?
でも相手はあの冷徹無慈悲で全然考えが読めない騎士様だし、前にも似た様なことがあって、無駄にドキドキしたことがある。
やっぱり今回も何か裏があって、勘違いしているという線を捨て切れない。というかそっちの方が優勢だ。
「だって私だよ?料理も掃除もそんなに得意じゃないし、見た目だって痩せててカビ生えそうとか言われるし。やっばりおかしいよね?あのリディオさんが私に選ばれたいって。……じゃあ何の話だと思う?」
いつもならここに来て悩みを打ち明けると割とスッキリして帰れるのに、今回ばかりはモヤモヤが深まった気がする。
何故あの時、有耶無耶にして無意味に逃げてしまったのか。
もしも先生が生きていて、この事を相談したとしたら、先生は何というだろう。きっと、「さてね。悩め若人!」とか言ってろくな返事は返ってこないだろう。
「あ~…!分かんないよぉ~!!」
頭をぐしゃぐしゃと掻きむしって、ソフィアはすくっと立ち上がった。
「…帰るね、今日もきっと忙しいから。むしろ忙しい方が気が紛れていいわ。先生と話してるより有意義。ははっ」
最後に、「おいコラ」とどつく先生を思い浮かべて笑ったソフィアは、ボサボサ髪のまま帰路に就いた。
76
あなたにおすすめの小説
喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~
浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!
完 独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。
水鳥楓椛
恋愛
男爵令嬢オードリー・アイリーンはある日父が負った借金により、大好きな宝石だけでは食べていけなくなってしまった。そんな時、オードリーの前に現れたのは女嫌いと有名な公爵エドワード・アーデルハイトだった。愛する家族を借金苦から逃すため、オードリーは悪魔に嫁ぐ。結婚の先に待ち受けるのは不幸か幸せか。少なくとも、オードリーは自己中心的なエドワードが大嫌いだった………。
イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!
冷酷な旦那様が記憶喪失になったら溺愛モードに入りましたが、愛される覚えはありません!
香月文香
恋愛
家族から虐げられていた男爵令嬢のリゼル・マギナは、ある事情によりグレン・コーネスト伯爵のもとへと嫁入りすることになる。
しかし初夜当日、グレンから『お前を愛することはない』と宣言され、リゼルは放置されることに。
愛はないものの穏やかに過ごしていたある日、グレンは事故によって記憶を失ってしまう。
すると冷たかったはずのグレンはリゼルを溺愛し始めて――!?
けれどもリゼルは知っている。自分が愛されるのは、ただ彼が記憶を失っているからだと。
記憶が戻れば、リゼルが愛されることなどないのだと。
(――それでも、私は)
これは、失われた記憶を取り戻すまでの物語。
元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?
中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。
副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。
やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。
出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。
慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。
誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。
……嘘でしょ、団長!?
かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に!
本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け!
※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
婚約破棄を希望しておりますが、なぜかうまく行きません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のオニキスは大好きな婚約者、ブラインから冷遇されている事を気にして、婚約破棄を決意する。
意気揚々と父親に婚約破棄をお願いするが、あっさり断られるオニキス。それなら本人に、そう思いブラインに婚約破棄の話をするが
「婚約破棄は絶対にしない!」
と怒られてしまった。自分とは目も合わせない、口もろくにきかない、触れもないのに、どうして婚約破棄を承諾してもらえないのか、オニキスは理解に苦しむ。
さらに父親からも叱責され、一度は婚約破棄を諦めたオニキスだったが、前世の記憶を持つと言う伯爵令嬢、クロエに
「あなたは悪役令嬢で、私とブライン様は愛し合っている。いずれ私たちは結婚するのよ」
と聞かされる。やはり自分は愛されていなかったと確信したオニキスは、クロエに頼んでブラインとの穏便な婚約破棄の協力を依頼した。
クロエも悪役令嬢らしくないオニキスにイライラしており、自分に協力するなら、婚約破棄出来る様に協力すると約束する。
強力?な助っ人、クロエの協力を得たオニキスは、クロエの指示のもと、悪役令嬢を目指しつつ婚約破棄を目論むのだった。
一方ブラインは、ある体質のせいで大好きなオニキスに触れる事も顔を見る事も出来ずに悩んでいた。そうとは知らず婚約破棄を目指すオニキスに、ブラインは…
婚約破棄をしたい悪役令嬢?オニキスと、美しい見た目とは裏腹にド変態な王太子ブラインとのラブコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる