1 / 7
『運命の番』に出会ってしまった
しおりを挟む
目があった瞬間、激しい動悸に襲われた。
自分でもわかるくらいの発熱と発汗、そして欠乏を感じた。何かが満たされない……満たして欲しい……。
目を逸らせば少しは落ち着くかもしれないのに、それさえできずにいる。
『彼』だ
メアリーの心は確信している。
初めて会うのに懐かしいような、欠けていた何かを知ったような感覚。彼と共にいることが当然に思える情動はまさしく、『番』によるものかもしれない。
けれど、『彼』は良くない。『彼』は友達の婚約者だ。心が確信していても、到底受け入れられるものではない。
「あ、あの……わたし……」
体調が悪いから辞したい、その一言が上手く紡げない。そもそも挨拶さえできていない。
このままだと激情に駆られて公衆の面前で醜態を晒してしまうかもしれない。この場を離れようと足を踏み出すもよろめいた。
隣にいた男子生徒が庇おうとしたその時、愛しくてたまらないその『彼』が奪うようにメアリーを抱きしめた。
ああ、ずっと欲しかったもの
「メアリーさん?」
「メアリー、大丈夫??」
うっとりと酩酊しそうになるも友人たちの心配する声にハッと気づき、最後の理性の一線を保つ。
名残惜しくも『彼』から逃れようと、身じろぎして離れる意思を伝えてみる。『彼』の体はびくりとも動かず、むしろいっそう強く抱きしめてきた。
「彼女はひどく体調が悪そうだ。このまま医務室に連れて行こう」
ああ。声まで素敵。
体の内側から沸き出る熱い激情にメアリーは耐えきれなくなり、体勢が崩れていく。とうとう『彼』に抱きかかえられてしまった。
「セドリック様っ!!」
「ロザリー嬢、今日はこれにて失礼」
騒然とする周囲。
婚約者に一瞥もくれず、『彼』はメアリーを抱えて歩みを進める。
「せ、セドリック、僕が彼女を連れて行こう。君は婚約者の側に」
気を利かせた男子生徒が婚約者との間をとりなそうと、慌てて『彼』に近づいて来た。それは常識的模範行為であるが、『運命の番』に常識は通用しない。
「俺が行く」
普段朗らかなセドリックからは想像もできない冷たい眼差しを返され、男子生徒は驚き慄いた。
隠すことのない殺気を向けて断固拒否するセドリックに彼の友人達もただ見送るしかできない。
いくらか歩くとセドリックの従者が近づき、会話を交わす。
セドリックは医務室ではなく、馬車止めに向かった。
馬車に乗り込んだとき、メアリーは朧げな意識を取り戻す。
「あの……うぅ」
『彼』にしっかりと抱き止められ、メアリーは安心と喜びに包まれつつも、気力を振り絞る。
「ここ、は……?」
カタンと馬車が動き出す。『彼』がうっとりとした表情でメアリーに顔を寄せる。
「はぁ、まさか運命に出会えるなんて思ってもみなかった。君は?メアリーと呼ばれていたね?」
返事が上手くできなくて、コクコクと頷く。
「俺はセドリック。セドリック・ランカスター。メアリー、わかるよね??俺たちは番なんだ。なんて幸運だろう!!」
幸運――メアリーを受け入れてくれたことがすごく嬉しい。
でも、彼には婚約者がいる。
神様はなんて残酷なんだろう。
『運命の番』であろうと、決して結ばれてはいけないのに。
自分でもわかるくらいの発熱と発汗、そして欠乏を感じた。何かが満たされない……満たして欲しい……。
目を逸らせば少しは落ち着くかもしれないのに、それさえできずにいる。
『彼』だ
メアリーの心は確信している。
初めて会うのに懐かしいような、欠けていた何かを知ったような感覚。彼と共にいることが当然に思える情動はまさしく、『番』によるものかもしれない。
けれど、『彼』は良くない。『彼』は友達の婚約者だ。心が確信していても、到底受け入れられるものではない。
「あ、あの……わたし……」
体調が悪いから辞したい、その一言が上手く紡げない。そもそも挨拶さえできていない。
このままだと激情に駆られて公衆の面前で醜態を晒してしまうかもしれない。この場を離れようと足を踏み出すもよろめいた。
隣にいた男子生徒が庇おうとしたその時、愛しくてたまらないその『彼』が奪うようにメアリーを抱きしめた。
ああ、ずっと欲しかったもの
「メアリーさん?」
「メアリー、大丈夫??」
うっとりと酩酊しそうになるも友人たちの心配する声にハッと気づき、最後の理性の一線を保つ。
名残惜しくも『彼』から逃れようと、身じろぎして離れる意思を伝えてみる。『彼』の体はびくりとも動かず、むしろいっそう強く抱きしめてきた。
「彼女はひどく体調が悪そうだ。このまま医務室に連れて行こう」
ああ。声まで素敵。
体の内側から沸き出る熱い激情にメアリーは耐えきれなくなり、体勢が崩れていく。とうとう『彼』に抱きかかえられてしまった。
「セドリック様っ!!」
「ロザリー嬢、今日はこれにて失礼」
騒然とする周囲。
婚約者に一瞥もくれず、『彼』はメアリーを抱えて歩みを進める。
「せ、セドリック、僕が彼女を連れて行こう。君は婚約者の側に」
気を利かせた男子生徒が婚約者との間をとりなそうと、慌てて『彼』に近づいて来た。それは常識的模範行為であるが、『運命の番』に常識は通用しない。
「俺が行く」
普段朗らかなセドリックからは想像もできない冷たい眼差しを返され、男子生徒は驚き慄いた。
隠すことのない殺気を向けて断固拒否するセドリックに彼の友人達もただ見送るしかできない。
いくらか歩くとセドリックの従者が近づき、会話を交わす。
セドリックは医務室ではなく、馬車止めに向かった。
馬車に乗り込んだとき、メアリーは朧げな意識を取り戻す。
「あの……うぅ」
『彼』にしっかりと抱き止められ、メアリーは安心と喜びに包まれつつも、気力を振り絞る。
「ここ、は……?」
カタンと馬車が動き出す。『彼』がうっとりとした表情でメアリーに顔を寄せる。
「はぁ、まさか運命に出会えるなんて思ってもみなかった。君は?メアリーと呼ばれていたね?」
返事が上手くできなくて、コクコクと頷く。
「俺はセドリック。セドリック・ランカスター。メアリー、わかるよね??俺たちは番なんだ。なんて幸運だろう!!」
幸運――メアリーを受け入れてくれたことがすごく嬉しい。
でも、彼には婚約者がいる。
神様はなんて残酷なんだろう。
『運命の番』であろうと、決して結ばれてはいけないのに。
69
あなたにおすすめの小説
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?
あんど もあ
ファンタジー
幼い頃から王子の婚約者だったアイリスは、他の女性を好きになった王子によって冤罪をかけられて、田舎で平民として生きる事に。
面倒な貴族社会から解放されて、田舎暮らしを満喫しているアイリス。
一方、貴族たちの信頼を失った王子は、国王に即位すると隣国に戦争を仕掛けて敗北。処刑される。
隣国は、アイリスを新しい国王の妃にと言い出すが、それには思惑があって…。
魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。
星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」
涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。
だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。
それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。
「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」
「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」
「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」
毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。
必死に耐え続けて、2年。
魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。
「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」
涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。
【受賞&本編完結】たとえあなたに選ばれなくても【改訂中】
神宮寺 あおい
恋愛
人を踏みつけた者には相応の報いを。
伯爵令嬢のアリシアは半年後に結婚する予定だった。
公爵家次男の婚約者、ルーカスと両思いで一緒になれるのを楽しみにしていたのに。
ルーカスにとって腹違いの兄、ニコラオスの突然の死が全てを狂わせていく。
義母の願う血筋の継承。
ニコラオスの婚約者、フォティアからの横槍。
公爵家を継ぐ義務に縛られるルーカス。
フォティアのお腹にはニコラオスの子供が宿っており、正統なる後継者を望む義母はルーカスとアリシアの婚約を破棄させ、フォティアと婚約させようとする。
そんな中アリシアのお腹にもまた小さな命が。
アリシアとルーカスの思いとは裏腹に2人は周りの思惑に振り回されていく。
何があってもこの子を守らなければ。
大切なあなたとの未来を夢見たいのに許されない。
ならば私は去りましょう。
たとえあなたに選ばれなくても。
私は私の人生を歩んでいく。
これは普通の伯爵令嬢と訳あり公爵令息の、想いが報われるまでの物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読む前にご確認いただけると助かります。
1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです
2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています
→ただ今『皇太子』を『王太子』へ、さらに文頭一文字下げなど、表記を改訂中です。
そのため一時的に『皇太子』と『王太子』が混在しております。
よろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。
読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。
アルファポリス第18回恋愛小説大賞 奨励賞受賞
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
(完結)私が貴方から卒業する時
青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。
だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・
※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる