婚約破棄のその後に

ゆーぞー

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「この騒ぎはなんだ!」

 そこに現れた人。それは国王陛下だった。

「あらぁ、陛下、遅かったですわぁ」

 王妃様ののんびりとした口調が恐ろしい。

「レナード・アイザックスはご存じよね?第一騎士団の副団長だった男よ」
「あぁ、あの詐欺師だな」

 チラリと見えたお義父様・・・今はもう違うけれど、すごく顔色が悪い。息子を陛下が詐欺師と呼んだのだから仕方ないけど、ご体調崩されないか心配してしまった。もう他人だけど。

「そう、その詐欺師が婚約者に婚約破棄を宣言したのよ」
「何?」

 陛下の目がギラリと光った。獲物を見つけたハンターのような目。

「我が住まうこの王宮で、あの男はそのような愚行をしたというのか!」

 陛下の声は威厳に満ち溢れ、とてもよく響く。圧倒的な存在感。さすが国王である。でもその国王をレナード様は騙したことになる。他人の武勲を自分のものと報告したのだ。よくそんな真似できたなと感心する。度胸がないと騎士にはなれないのだなと思う。

「騎士の名をどこまで貶めれば気がすむというのだ!」

 こんな事を言われて平気でいられる人はいないだろうと横目でレナード様を見れば、床に倒れ込んでいた。その横でメリア様もしゃがみ込んでいる。

 王妃様は先ほどのことを陛下に説明している。それを皆が縮こまって聞いている。私も下を向き、何とか注目されないように努力している。

「なるほど」

 一通り説明された陛下は小さくつぶやいた。

「そうだ、こうしよう」

 陛下がニヤリと笑った。・・・と、思うのだが目は笑っているように見えない。相変わらず厳しい視線を向けている。

「来月、アイザックスは結婚の予定であっただろう。予定通り、結婚させてやろう」
「まぁ、素敵」

 陛下の提案に王妃様が華やいだ声を上げた。

「ライラ・コンフォード嬢のドレスはすでに用意されているのだろう。本来のアイザックスの結婚相手なのだ。そのドレスをメリア嬢が着れば問題ない」

 いや、問題あります。言ったら申し訳ないが、メリア様は私よりふくよかである。特にお胸の辺り。当然、私のドレスが身に合うわけがない。しかしそんなことを言うわけにいかない。なので黙っておく。

「そうだわ!」

 王妃様がまたもや手を合わせている。今度は何だろうか?もうどうでもいいけど。

「ライラ・コンフォード嬢とジョセフ・クルーソンが結婚したらいいわ。アイザックスのものは全てクルーソンのものよ」

 へ?そんなこといきなり言われても・・・。私は混乱していた。ジョセフ・クルーソン様がどんな方かわからない。顔も年齢も経歴もだ。ただでさえ、今日は婚約破棄、婚約者の浮気、詐欺行為などあり得ないことが一気に起こっているのだ。

「いや、全てというわけにいかないな」

 そんな私を置いてきぼりにして、陛下と王妃様の話は続く。

「クルーソンは第一騎士団を退団し国境警備に移動願いを出したので承認したのだ。たった今」
「まぁ」
「なので、ライラ嬢との婚姻はすぐにしたほうがいいな。アイザックス、すぐにライラ嬢のドレスを用意するように」
「そうね、ライラのドレスはメリアにあげるのですもの。ライラのドレスが無いわね。メリアのせいなんだから、さっさと用意しないといけないわね」

 へ?私を抜きにして何の話をしているのだろうか?すでに私の頭は何も考えられなかった。


「さっそく、ライラとクルーソンを引き合わせましょう。いるんでしょ、クルーソン」

 王妃様が目を輝かせている。その様子は縁談を持ってきた親戚のおば様のようだ。

「いや、クルーソンは王宮を出てしまったはずだ」

 陛下が少しがっかりしたような声を出した。

「こんなことなら引き留めておくべきだったな」
「本当よぉ、残念だわぁ」

 王妃様も眉を下げ、落胆しているようだ。

「仕方がないわ、ライラ。でもすぐに会えるから心配しないでね」

 いきなり名前を呼ばれ、身体がビクリと震える。王妃様と陛下は笑顔で私を見て下さっている。名前を覚えられてしまった。本来なら名誉なことだが、私は殺し屋に顔を覚えられたような気持ちになった。心穏やかにはいられない。

「そんなことより」

 しばらくは優しい瞳だったはずの陛下の目が再び厳しく光る。

「この王宮に何故まだ恥知らずどもがいるんだ?」

 ギラリとした目でレナード様とメリア様を睨む。あの目で睨まれたら心臓が止まるかもしれない。と、関係ないはずが思わず身が縮み上がる。レナード様とメリア様はふらふらと立ち上がり、ヨロヨロと出ていった。気の毒ではあるが、同情はできない。

 それよりも全く知らない人と結婚することになった私だ。一時意識が飛びかけてぼんやりしていたが、頭がはっきりしてきた。とりあえず来月着る予定でいたウエディングドレスをメリア様へお渡しして、新たにドレスを新調してジョセフ・クルーソン様と結婚するのだ。しかもご本人はこのことを知らない。陛下が宣言した以上断ることもできない。

「幸せになってねぇ、ライラ」
「クルーソンはあんな男とは雲泥の差。全てを忘れ達者で過ごせよ」

 陛下と王妃様の温かい激励を受け、私はどうすることもできずにただ曖昧に作り物の笑顔でやり過ごしたのだった。

 
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