婚約破棄のその後に

ゆーぞー

文字の大きさ
10 / 61

10

しおりを挟む
「これは美味しいです」
「このソース、絶品ですわ」

 ジョセフ様と2人でお召し上がりください、とセオに言われたが、できれば4人で食べたかった。ジョセフ様と夫婦になることは納得しているが、でもやはり気恥ずかしい思いもする。

 私の気持ちがわかっているかは不明だが、ジョセフ様も4人で食事することを提案してくれた。「使用人が一緒に食事なんて!」と、セオとメイリンが必死に首を左右に振り遠慮したが、私は大勢で食事をしたかったので私からもお願いした。そして4人で食事が始まった。

 私はいつも1人で食事をしてきた。小さい頃は両親と弟と食事をしたこともあったと思うのだが、いつの頃からか1人で食事をさせられた。弟は両親と一緒に食事をしていたので、何故私は1人で食事をしなければいけないか理由を聞いたと思うが明確な答えは返ってこなかった。

 もしかしたらマナーが悪いのかもしれない。そう思って私は鏡を置いて自分を見ながら食事をしたこともある。貴族の娘なのでマナーの先生がうちに来て教えてくれたことがある。その時のことを思い出し、綺麗に見える方法を自分なりに考えた。

 取り替えごっこの時は食事がない時もあったし、あっても余り物だった。少ない食事をいかに綺麗に盛り付け、貴族らしく上品に食べるかを私は自分に課していた。貧相な顔立ちをしているのだからせめて上品に見えるように心がけろと、常に両親から言われていたせいもある。

「ここにある調味料だけでこのソースを作られたのですか?」
「あんな短時間でこんなにできるなんて」

 一口食べたセオとメイリンに目を大きく見開いて驚かれた。だが私にしたら大したことではなかった。逆に褒められて驚いたが、よく知らない他人だからだと思った。取り替えごっこで何度も食事を作ったが、誰からも褒められることはなかった。褒めるとそこで成長が止まる。褒めるのは親身になっていないからだ。本当にその人のことを考えるのであれば、むやみに褒めないものなのだ。両親や使用人たちにいつもそう言われていたからだ。

 食事をしながらふと視線を感じ、見上げるとジョセフ様が私を見ていた。やってしまった。私は俯き、皿を見つめた。多分私のマナーが悪かったせいだろう。気づかないうちに私はひどい食べ方をしていたのだ。

「お嬢様は本当に上品な召し上がり方をされますわ」

 メイリンが気がついたのかそうフォローした。そう、フォローされたのだ。悲しくなってしまったが、でも悲しい顔はできない。相手を不快にさせるからだ。だから笑ってメイリンを見た。笑っておけばなんとかなる。

「色々と高貴なお方のお食事を拝見しましたが、お嬢様ほど上品な方は見たことがありませんわ」
「そうです、驚きました。ジョセフ様もそう思われるでしょう」

 セオとメイリンが必死に言い繕っている。

「あぁ」

 ジョセフ様は小さく呟いた。優しい方である。本当はそんなことを思っていないのだろう。あの言い方は早くこの話を終わらせたいのだ。ふとジョセフ様の皿を見ると空になっていた。

「もう一皿、お持ちしましょうか?」

 取り替えごっこでは主人の皿が空になっていたら、使用人から声をかけなくてはならなかった。主人が望むことを先にできなければ使用人とは言えないからである。

「何っ?」

 ジョセフ様の声が大きく響き、私は思わず肩がビクッとした。

「私がご用意いたしましょう」

 メイリンが立ち上がった。

「すまない、大きな声を出して」

 素直にジョセフ様が謝ってくださる。そんなことしなくていいのに。やっぱり優しいいい人だ。

「まだあるとは思わなかったんだ」

 少し恥ずかしそうに話すその仕草がなんだか可愛らしく見える。

「このお味付け、ジョセフ様はお好きですよね」

 メイリンがお皿をジョセフ様の前に置くと、少しだけだがジョセフ様の目が動いたように見えた。あ、笑ってる。何故だかそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

処理中です...