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「メリア・リオンヌ嬢が社交界にデビューする前からすでに活動的な令嬢であったことはご存知でしょう」
貴族の世界は広いようで狭い。噂はあっという間に広がってしまう。メリアは侯爵家の令嬢なので、通常であれば早くからそれなりの家柄の令息と婚約しているはずであった。しかしあまりの素行の悪さで社交界デビュー前に傷物令嬢とされており、婚約は成立しなかった。
「そのため、ここで名前は出せませんが、とある高名なご年配の貴族の方に嫁がれる予定でした。お金もありますし、メリア嬢の奔放なお遊びも大目に見られるお方です。リオンヌ家ではたとえ年が離れていても公爵家に嫁入りされるなら面目も保てるでしょう」
その話はジョセフも聞いていた。年配でお金持ち、だが同時におかしな趣味があるという話もある。女性を傷つけると興奮するらしく、過去に何人もの女性が命を落としているという話だ。
「それが嫌でメリア嬢はレナードと交際に至ったのではないかと思われます」
メリアが傷物令嬢である、と陛下や王妃がいる中で話す内容だろうか。と、ジョセフは思った。確かに由々しき問題かもしれないが、ここで話す話題なのだろうか。そもそも自分は何故ここにいるのか。退団したくてここにいるのだ。さっさと終わりにしてほしい。
「高名なご年配のお方はメリア嬢のために大金を支払ったそうです。メリア嬢を娶るために。しかしレナードと交際していると世間に大っぴらに知られてしまい、メリア嬢を娶ることを断念することになってしまいました」
「それでべセル公爵が納得するはずないだろう」
誰かが名前を出してしまった。宰相もわかっていて、あえて名を伏せていたのにだ。
「そうです。納得はしていません。言葉を出したくはありませんが、あえて言葉を使いますが、別の傷物令嬢をよこせとねだったのです」
傷物令嬢にこだわるのは、彼女たちが自分を卑下しているため文句も言わないからだろう。親も身を案じることもしないだろうから、おかしな趣味を続けるには好都合なのだ。
「気分を害することをあえて言いますが、傷物令嬢の需要は高まっています。彼女たちに大金を支払う買主がいるのです。そのため、あえて傷物令嬢を作ることもあるのです」
王妃の顔が作り物のように見えた。ジョセフも自分の顔がどのようになっているかわからなかった。他人のことだが傷物令嬢とされる女性のために怒りが沸いてきた。人間をモノのように扱う行為は許されるものではない。
「レナード・アイザックスが婚約をしていることはご存知と思います。慌てて整えられた婚約に不審に思われた方もいるかもしれません。相手はライラ・コンフォード嬢。子爵家のご令嬢ですが、あまりご存知ないかもしれません。彼女は社交界にも出ておらず、ほとんど家から出ずに育ったようです。健康に問題はないようですが」
「まさか・・・」
誰かが小さく呟いた。
「彼女はおそらく傷物令嬢にされるために育てられたと思われます」
通常貴族の令嬢は、同じ家格の家と付き合いを広げたり社交界に出て縁談に備える。何もしなければ婚姻することはない。そうして婚期を遅らせれば傷物になってしまう。
「アイザックス家もせっかくお金をかけたレナードが傷物令嬢と結婚するのは反対だったでしょう。そこでライラ嬢と婚約をすれば、レナードの印象が変わります。ライラ嬢は傷物にされるために誰とも婚約をせずにいました。ちょうどよく空いているライラ嬢と婚約をし、頃合いを見て離縁を宣告してベセル公爵に引き取ってもらうつもりだったのでしょう。おそらくはメリア嬢よりもべセル公爵の好みだったでしょうから」
淡々と話している宰相もさすがに嫌気がさしているのであろう。口元が歪んでいる。
「もういいわ!」
王妃が立ち上がった。
「私は夜会に出ます」
ドレスの裾をバサリと翻し、王妃は部屋を出ていった。その後をサントスが追いかける。護衛をするのであろう。ちょっと待ってくれ。心の中でジョセフは叫んだ。今日は自分の退団について話があると思っていた。レナードの不正は確かに自分に関係のある話である。しかし結局はレナードについてだけで話が終わってしまった。自分はどうしたらいいのだ。
だがサントスはジョセフを見ることもなく部屋を出てしまった。
「そうですね、そろそろ時間のようです」
宰相の言葉に大臣や団長たちも立ち上がって部屋を出ていく。これでは自分も出ていくしかない。ジョセフは諦めて自分も部屋を出て行こうとした。すると。
「待ちなさい」
宰相に声をかけられた。
「陛下が内密にお話があるとのことです」
思わず陛下を見るとにっこりと笑っている。あの笑い方は意味がある。ジョセフはそう思い身を引き締めた。
「ジョセフ・クルーソン。長いことレナードのお守りをさせてすまなかった」
陛下に言われ驚いた。陛下に謝罪される問題ではない。そもそも国王陛下が謝罪するなど聞いたことがない。陛下の謝罪はそんなに軽々しいものではないからだ。
「退団をしたいとのことだが、次の仕事は決めているのか?」
辞めるとは言ったもののどうするかは決めていなかった。決して衝動的に決めたことではないが、次の仕事を探すのは騎士団に対して不義理をするような気持ちだったのだ。真摯な気持ちでジョセフは騎士団の仕事を全うしていたのだ。
「もしまだ決めていないのなら、国境警備についてもらえないだろうか。もちろん隊長としてだ。騎士団で連れて行きたい人間も連れて行っていいぞ」
陛下直々の申し出である。断ることはできない。それに今は王都から離れたい。ジョセフは深々とお辞儀をして、その申し出を受けることにしたのだった。
貴族の世界は広いようで狭い。噂はあっという間に広がってしまう。メリアは侯爵家の令嬢なので、通常であれば早くからそれなりの家柄の令息と婚約しているはずであった。しかしあまりの素行の悪さで社交界デビュー前に傷物令嬢とされており、婚約は成立しなかった。
「そのため、ここで名前は出せませんが、とある高名なご年配の貴族の方に嫁がれる予定でした。お金もありますし、メリア嬢の奔放なお遊びも大目に見られるお方です。リオンヌ家ではたとえ年が離れていても公爵家に嫁入りされるなら面目も保てるでしょう」
その話はジョセフも聞いていた。年配でお金持ち、だが同時におかしな趣味があるという話もある。女性を傷つけると興奮するらしく、過去に何人もの女性が命を落としているという話だ。
「それが嫌でメリア嬢はレナードと交際に至ったのではないかと思われます」
メリアが傷物令嬢である、と陛下や王妃がいる中で話す内容だろうか。と、ジョセフは思った。確かに由々しき問題かもしれないが、ここで話す話題なのだろうか。そもそも自分は何故ここにいるのか。退団したくてここにいるのだ。さっさと終わりにしてほしい。
「高名なご年配のお方はメリア嬢のために大金を支払ったそうです。メリア嬢を娶るために。しかしレナードと交際していると世間に大っぴらに知られてしまい、メリア嬢を娶ることを断念することになってしまいました」
「それでべセル公爵が納得するはずないだろう」
誰かが名前を出してしまった。宰相もわかっていて、あえて名を伏せていたのにだ。
「そうです。納得はしていません。言葉を出したくはありませんが、あえて言葉を使いますが、別の傷物令嬢をよこせとねだったのです」
傷物令嬢にこだわるのは、彼女たちが自分を卑下しているため文句も言わないからだろう。親も身を案じることもしないだろうから、おかしな趣味を続けるには好都合なのだ。
「気分を害することをあえて言いますが、傷物令嬢の需要は高まっています。彼女たちに大金を支払う買主がいるのです。そのため、あえて傷物令嬢を作ることもあるのです」
王妃の顔が作り物のように見えた。ジョセフも自分の顔がどのようになっているかわからなかった。他人のことだが傷物令嬢とされる女性のために怒りが沸いてきた。人間をモノのように扱う行為は許されるものではない。
「レナード・アイザックスが婚約をしていることはご存知と思います。慌てて整えられた婚約に不審に思われた方もいるかもしれません。相手はライラ・コンフォード嬢。子爵家のご令嬢ですが、あまりご存知ないかもしれません。彼女は社交界にも出ておらず、ほとんど家から出ずに育ったようです。健康に問題はないようですが」
「まさか・・・」
誰かが小さく呟いた。
「彼女はおそらく傷物令嬢にされるために育てられたと思われます」
通常貴族の令嬢は、同じ家格の家と付き合いを広げたり社交界に出て縁談に備える。何もしなければ婚姻することはない。そうして婚期を遅らせれば傷物になってしまう。
「アイザックス家もせっかくお金をかけたレナードが傷物令嬢と結婚するのは反対だったでしょう。そこでライラ嬢と婚約をすれば、レナードの印象が変わります。ライラ嬢は傷物にされるために誰とも婚約をせずにいました。ちょうどよく空いているライラ嬢と婚約をし、頃合いを見て離縁を宣告してベセル公爵に引き取ってもらうつもりだったのでしょう。おそらくはメリア嬢よりもべセル公爵の好みだったでしょうから」
淡々と話している宰相もさすがに嫌気がさしているのであろう。口元が歪んでいる。
「もういいわ!」
王妃が立ち上がった。
「私は夜会に出ます」
ドレスの裾をバサリと翻し、王妃は部屋を出ていった。その後をサントスが追いかける。護衛をするのであろう。ちょっと待ってくれ。心の中でジョセフは叫んだ。今日は自分の退団について話があると思っていた。レナードの不正は確かに自分に関係のある話である。しかし結局はレナードについてだけで話が終わってしまった。自分はどうしたらいいのだ。
だがサントスはジョセフを見ることもなく部屋を出てしまった。
「そうですね、そろそろ時間のようです」
宰相の言葉に大臣や団長たちも立ち上がって部屋を出ていく。これでは自分も出ていくしかない。ジョセフは諦めて自分も部屋を出て行こうとした。すると。
「待ちなさい」
宰相に声をかけられた。
「陛下が内密にお話があるとのことです」
思わず陛下を見るとにっこりと笑っている。あの笑い方は意味がある。ジョセフはそう思い身を引き締めた。
「ジョセフ・クルーソン。長いことレナードのお守りをさせてすまなかった」
陛下に言われ驚いた。陛下に謝罪される問題ではない。そもそも国王陛下が謝罪するなど聞いたことがない。陛下の謝罪はそんなに軽々しいものではないからだ。
「退団をしたいとのことだが、次の仕事は決めているのか?」
辞めるとは言ったもののどうするかは決めていなかった。決して衝動的に決めたことではないが、次の仕事を探すのは騎士団に対して不義理をするような気持ちだったのだ。真摯な気持ちでジョセフは騎士団の仕事を全うしていたのだ。
「もしまだ決めていないのなら、国境警備についてもらえないだろうか。もちろん隊長としてだ。騎士団で連れて行きたい人間も連れて行っていいぞ」
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