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しおりを挟むあのバカ兄、何してくれたんだ!
そもそもあのバカに家を継がすのが間違っていたのだ。親父も諦めておけばよかったものの、嫡男に継がせないわけにいかないなどと宣った。兄が読み書きを覚えたのは10歳になってから。しかし読むことはできてもその意味を理解できていないとわかったら、俺に兄の補佐をしろと言った。
その時は俺も子どもだったから従うしかなかった。大人になったら兄と一緒に家を盛り立てる。そんな未来を思い浮かべていた。
だが兄が騎士学校に入ることで状況が変わってきた。兄は剣を触ったこともない。あいつは何かをやり遂げたこともないし、やり遂げようとすることもなかった。騎士になるつもりもないのだから入学させなければいい。しかし親父は騎士学校を出ることはあいつの将来に必要だと言い張った。あいつを騎士学校に入れるために親父は大金を支払った。
兄が騎士学校に入ってしばらくして、奴はあろうことかメリア・リオンヌと付き合うようになった。あの女が何と呼ばれているのか知っているのか。侯爵家の商売女だぞ。
幼いうちからあの女は男を弄ぶ素振りを見せていたそうだ。おかげでまともな縁談に巡り会えずに成長した。きちんとした家ならいくら相手が侯爵家でも相手にはしない。あいつの取り巻きは、どいつも社交界では出来損ないと言われているような奴らばかりだった。そんな奴らがつるんでいるからまともにはなれない。
お金を出さずに遊べる女。あの女が陰でそんなふうに言われていることなど、バカ兄は知らなかった。いや、知っていてもバカ兄は「彼女はそんな女じゃない」と根拠もなく庇っただろう。都合の悪いことは見ないし聞かないのが兄なのだ。メリアはあまりに遊びすぎて縁談が来なくなり、金があるくらいしか取り柄のない老人と結婚話が出ていた。おそらくメリアはそれが嫌でバカ兄をその気にさせたのだろう。おかげでアイザックス家は傷物を押し付けられたバカな家と言われるようになった。
メリアを押しつけられたら迷惑だ。親父もさすがに考えたのだろう。どこからか令嬢を見つけてきた。子爵家の聞いたこともない令嬢だったが、従順なだけが救いだった。しかしバカ兄は婚約を拒否。愛しているのはメリアだけ、愛のない結婚は不幸だと言い出した。
お前如きが愛などと語るな。俺は吐き気がしそうになった。婚約に承諾しなければ家督はやらん、親父に怒鳴られバカは納得した。どうせなら、家を出てやるくらい言ってくれれば良いのに。そう思ったが、それはしなかった。バカのくせにそのあたりは考えてるのか。
兄は足りない頭でバカなことを考えた。騎士団に入り出世する。おそらくメリアに吹き込まれたのだろう。本来なら騎士学校を出るだけで十分だったのに、兄はそんなことを言い出した。無理に決まっている。そもそも学校に入ることも無理だったうえ、鍛錬もまともにしなかったわけだから騎士団に入れるわけがない。
しかしその不可能を可能にしてしまった。親父はようやくやる気を見せたと誤解してまたもや金を出してしまった。そんな金があるなら俺を学校にやらせてくれたらいいのに。もっと上級の経理学校に行ければ、家をもっと盛り立てることができるはずなのだ。
そんな俺の願いは叶うことがなかった。兄を出世させるために我が家だけではなく、メリアも協力したようだ。メリアの言うことを聞くバカな奴らが兄以外にもいたようで、彼らは面白いようにメリアの言いなりになって兄は副団長にまで上り詰めた。メリアの虚栄心も満足したようであるが、他国からも協力を仰いだのは間違いだった。明らかにやりすぎであったことに気づかなかったのだ。
兄と婚約させられた令嬢は、社交界に出たこともなくほとんど家の中で過ごしていたらしい。当然兄やメリアのことも大して知らなかったようだ。どうせ兄と結婚してもうまくいかないだろう。それなら、と俺は思った。それなら俺の子どもを産ませよう。その子どもを兄の子として育てればいい。兄の妻が産む子どもなのだから後継者となる。きちんと育ててちゃんとした後継者にして見せる。どうせ兄は何もできないのだ。
だが、親父の考えは違った。おそらく兄はあの令嬢と結婚してもうまくいかないだろう。それなら、令嬢と兄を結婚させて適当な期間が過ぎたら離縁させ、令嬢を別の貴族に売ってしまうというのだ。相手はメリア嬢が手に入らなかった金持ちの老人だ。あばずれなメリア嬢よりもいいと相手は乗り気で大金を提示したらしい。そのうえ、それは令嬢の両親も賛成しているという。
胸糞悪い。俺は兄の婚約者だった令嬢に心底同情した。我が家に関わったばかりに不幸になるのだ。それは俺も同じだった。だから、夜会で兄がしでかしたことによって親父がついに兄を追放したことは朗報だった。
親父は抜け殻のようになっている。兄の婚約者だったライラ・コンフォード嬢に慰謝料と損害賠償金を支払い、兄が受け取った給料は全額返金することになった。兄が貯金なんかしていないのは明白だから、その金は我が家が負担しなくてはならない。そのうえ、陛下と王妃様からも睨まれ社交界に出ることは不可能になった。我が家は破滅したのである。
俺は今夜家を出る。親父は俺を後継者に指名したが、今更遅い。俺は以前家にいた使用人を頼って自活の道を探る。アイザックス家は親父の代で終わる。親父が好き勝手した結果だから仕方がない。
俺は少しだけ義姉となる予定だったライラ嬢を思い浮かべた。もし、彼女がバカなレナードではなく俺と婚約できていたら。考えるだけ無駄なことだ。彼女は王命により別の男と結婚することになった。どうか、幸せになってほしい。心の奥でそう呟いた。
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