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しおりを挟む「できればタイロンに洗濯や掃除なども教えてよろしいですか」
ジョセフ様の食事が一段落したので聞いてみた。ちなみに彼は山盛りのフルーツを食べている最中だったが、私は2つめのサンドイッチに手を伸ばすところである。
彼は持っていたフォークを静かに置くと、じっと私を見た。少し眉間に皺が寄っているように思う。目つきも険しい。怒ってるのかもしれない。タイロンは彼の部下である。それなのに私がしゃしゃり出るのは、見当違いであろう。
だが、タイロンが1人で全てのことをこなす状態になるまでかなりの時間が必要だろう。他に教える人がいるなら構わないのだが、今の状況を見るとそういうわけでもない。
「頼んでもいいのだろうか」
静かな声でジョセフ様が言った。ジョセフ様の声にしては小声だ。驚いた。そんな声も出せるのか。
「はい、タイロンは素直ですし教えれば器用にこなせると思います」
料理や洗濯を簡単に教えたが、すぐにコツを掴んでいた。やり方さえ覚えれば楽に仕事をこなせると思う。
「そうか」
ジョセフ様は少し考えている様子だったが、すぐに了承してくれた。しかし必ずセオとメイリンが側につくようにとのことだった。私がちょこまかと余計なことをしないように監視させるつもりなのだろう。
「疲れたら休むように。くれぐれも無理はしないように、セオ、メイリン 頼んだぞ」
「はい」
「かしこまりました」
この程度で疲れるわけがないのだが、ジョセフ様は私を普通の令嬢のように扱ってくれている。さすが騎士様だけある。と、私は感心した。そうだ、彼は国に仕える騎士なのだ。誰にでもこんな感じで気を遣ってくださる方なのだ。
「他にも何か気づいたことがあれば、セオに言ってくれ。足りないものとか色々あるだろう」
そうは言われても思い浮かばない。実家にいるよりも心地よい暮らしなのだ。このままここでずっと暮らしていけると思う。
「ありがとうございます」
とりあえずはお礼を言う。ジョセフ様がこんなことを言うのも王命だからだ。と、私は少し冷めた気持ちでいた。確かに先ほど聞いた時はショックだった。ジョセフ様は誠実な人だ。だからそんなふうに言ってほしくはなかった。恋人のように愛してほしいとは思わないし、特別な存在になろうとも思っていない。
しかし、それなりの関係を築きたかった。心のどこか奥の方で、私を心に留めてほしい、そう期待していた。
子どもの時から私は両親に突き放されていた。それは私が綺麗ではないから。両親はもっと綺麗で可愛らしい子どもを望んでいたのだ。それに女の私はいずれ家を出て誰かの妻になる。そこで新たな家庭を作るのだから親に甘えていてはいけない。そう言われていた。
私は見た目も良くないし、可愛げのある言動もできない。可愛げのあることを言ったりやったりすれば人に愛されるのに私はそうではないのだ。だから私は愛されないし、誰にも気にかけてもらえない。
両親の言動から私はそう感じていた。愛されるように可愛らしい仕草を真似てみたりしたと思うが、それでも両親は愛してくれなかった。媚を売ってる嫌な子だと言われた。何をしたら愛されるのか、そもそも愛されるとはどういうことなのか。私はわからない。
わからないまま今ここにいる。そもそも愛されなくても問題はないのだ。王命だから離縁されることはないだろう。愛がなければ子どもは誕生しないかもしれないが、それは別の問題だ。後継のことや家の繁栄ということを考えれば子どもは誕生したほうがいいだろう。しかし、必ずしも私が産む必要はない。私はジョセフ様の妻として、ここで生活すればいいのだ。
だって王命だから。どれだけ嫌われたとしても別れることは許されないのだから。
私はそんなふうに考えてみた。私のことを好きでも嫌いでもどうでもいい。王命である以上、私たちは離れられないのだ。ジョセフ様の心は私のものではない。願わくば私を愛してほしいと一瞬考えてもみたが、それは無理だろう。私は愛される資格はないのだ。美しくもなく、貴族令嬢なら誰もが持つ可憐さもない。
「今日の料理も美味しかった」
フルーツの盛り合わせも平らげたジョセフ様は満足げな様子だった。せめて料理くらいきちんと用意しないと愛想を尽かされるかも。
「足りましたか」
私は笑顔で聞いてみた。
「あぁ、満足だ」
そうか、あのくらいの量でちょうどいいのだな。ジョセフ様の表情を見て納得した。それは私が考えていた成人男性の6倍くらいの量だった。夕飯も頑張ろうと心に誓った。
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