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しおりを挟むライラが雑役係のタイロンに洗濯と料理を教えた。隊員の昼食が突如豪華になり、大騒ぎになった。
「すげぇぞ。これって王都のレストラン並じゃね?」
「こんなん作れるって凄すぎないか?」
「早く食わせろ。1人何個食べていいんだ?」
その様子を横目で見ながらジョセフはライラが待つ家へ向かった。今朝は自分だけライラの料理を食べ、隊員たちはタイロンと下っ端が用意した食事を食べた。ジョセフは隊員たちに申し訳ないと思いつつ、内心では喜んでいた。
タイロンの家は貧しく、彼はなんとかして仕事を得て家族を楽にさせたいと考えていた。正直いえば雇うことに躊躇した。本来であれば経験があるか、もう少し年の上の者に任せたかったのだ。しかしタイロンの事情を知り、ジョセフは雇うことに決めた。タイロン本人が苦労するだろうが、なんとかして救ってやりたかったのだ。
しかし彼はあまりに経験がなさすぎた。下っ端の者もつけてはいたが、なかなかうまくは行かない。その結果焼くだけ煮るだけの料理しか用意されず、片付かない荷物が大量に溜まり、汚れたままのシーツで寝る羽目になった。新しい環境で慣れないまま、気持ちは荒んでいく一方であった。
そんな状態で現れたライラは隊員からしたら女神のようであろう。ただでさえむさ苦しい男性だらけなのだ。さすがに隊長の妻となる女性に何かする輩はいるはずもないが、注意して然るべきである。
昼食の席でライラからタイロンに料理や掃除を教えたいと言われた。願ってもない話ではあるが、しかし彼の心に何かが芽生えた。ライラの口からタイロンという男の名前が出たことに何かが引っかかったのである。それが何かわからない。しかし彼は心の奥底がモヤモヤした。その感覚は何か。彼にはよくわからなかった。
わからないことは追求しても仕方がない。と、彼は思った。それでライラにタイロンのことを任せようと思ったが、2人きりにさせるのはよくないと思った。想像するだけで心がキュウっとなったのである。そんなことは経験したことがなかったので、彼はこれはきっとたくさん食べたせいだと思った。ライラの料理は美味しいし、自分のためにたくさん皿に盛ってくれていた。自分のために、という行為に彼は心底安心していた。
とにかくタイロンが料理や洗濯ができるようになるなら問題はない。しかしライラと2人きりにしてはいけない。それでセオとメイリンも付き添うようにと言った。自分でも思ってもみなかったことだが、セオとメイリンが付き添うなら安心だという気持ちになった。
セオの顔を見たらいつも通り何かを頼んだ時と同じようにうなづいていたので、間違ってはいないと思った。
「疲れたら休むように」
彼は続けてそう言った。それは父が母によく言っていた言葉だった。女性はか弱いのに強い、強いのにか弱い。と、父はジョセフによく言った。意味がわからないと彼は思っていたが、こういうことだと納得した。
ライラは貴族の令嬢のはずだが、たった1人で生家から遠く離れたこの土地までやってきた。夜会でたくさんの人がいる中でレナードにあんな仕打ちをされたのに笑顔でここにやってきたのである。今は元気かもしれないが、何かの拍子で調子を崩すかもしれない。万が一でも倒れたら、自分が支えなくてはならない。何故なら自分は夫だからだ。彼女を支えるのは自分なのだ。
そう決意した時、彼はこの感じが何かに似ていると思った。そうして色々考えてから思い至った。剣を持ち国に忠誠を誓ったあの日、あの時感じたあの気持ちと似ているということに。そうだ、自分はライラに忠誠を誓うのだ。それは王命だからではない。自分が決めたことだ。
ジョセフははっきりと理解した。ライラと自分は夫婦になる。これから自分たちは新しい家庭を作っていく。新しい未来へ一緒に歩いて行くのだ。ライラが自分と一緒に歩けるように、ライラの歩幅に合わせていこう。
「今日の料理も美味しかった」
ジョセフはフルーツの盛り合わせを平らげると、自然に声に出していた。
「足りましたか」
ライラの笑顔にジョセフは笑顔で返した。
「あぁ、満足だ」
本当に満足だ、とジョセフは心の中でつぶやいた。
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